ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【3】

ー大江戸学園:海岸ー

時間は6秒。それ以上でも、それ以下でもない。おれが見た6秒間。

1秒、おれは弾針剄を撃った。

2秒、道玄は弾針剄を掴んだ。まるで自分に飛んできたボールを掴むように軽々しく。

3秒、掴んだ弾針剄を投げ捨てた。

4秒、間合いを詰められると同時に首を掴みあげられた。

5秒、地面に叩きつけられる。

6秒、顔面目がけて下段突きがさく裂した。

高層ビルから鉄の塊が落ちてきたような衝撃、埋もれ沈む後頭部。

もしここが砂浜で無く、硬い地面やアスファルトならば今ので詰んでいただろう。

そして7秒……おれは笑った。

「ニィッ…」

同刻7秒、道玄は振り下ろした拳をわずかに引いて深い眉間の皺が一層深くなる。それは痛みの表情。

「ぐっ…」

怒龍の拳の着弾は顔の中央ではなく、額。あらゆるものを粉砕してきた剛拳というのなれば、こちらはあらゆる拳の蹴りの物体の破壊から脳を守ってきた頭蓋骨。

「油、断……してんじゃねぇよ!」

一瞬のひるみを逃すわけがない。未だに恐ろしく睨みを利かせるおっさんの目を狙って口の中にたまったものを吹きかけた。

血、そして叩き落とされた瞬間に口に含んだ砂と噛み砕いた貝殻。液体、砂利、鋭利な異物は龍の目を確実に遮った。

しかし、息を飲んだのはおれだった。

「だからっ!どうしたっっ!!」

真っ赤に染まり、眼球に突き刺さる異物を物ともせず目を見開いて再び拳を振りおろしてくる。今度の狙いは腹部。

「うっそだろっ!」

反射的に足を振り上げて蹴りで受け止めた。直後、足の裏に伝わる衝撃におれは伸ばすのではなく、膝を曲げた。

勝ちあった瞬間に脳内を駆け巡ったヴィジョン、曲がった釘。ハンマーで叩かれへし曲がる釘だ。

下手に力で逆らえば骨を筋を持っていかれる。

刹那の判断が功を奏し、押し返さずに受け入れた衝撃でおれの身体は砂浜を錐揉みしながら弾きとんでいく。

砂浜を二度三度四度とバウンドしても止まる気配がないので砂をぶっ叩いてブレーキをかけつつカエルのように飛び跳ね上がって立ち上がった。

額から噴き出す血とまぶされた砂をぬぐって敵を見据えると既に龍は仕掛けていた。

「龍剄気功弾針剄!!」

「ぐっ!!風衝壁(バリア)!!」

空気の壁と弾丸が激突する。波の音すらもかき消す破裂音と砂嵐のように巻きあがる砂。

片手ではなく両手で受け止めるも相殺どころか風壁を突き破り肩を抉っていく空弾。手のひらは摩擦で焼け爛れ折れはしないものの爪の何枚かは根元までベロリとめくれ返ってしまっている。
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