ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
おれを小鳥遊堂に送り終わると、新は茶の一杯も飲まずに帰った。
時間も遅いし、新自身もいろいろと思うこともあるだろうとおれも止めはしなかった。
新には失礼だけど、自分がおれを守れなかったとあそこまで反省し、自身を責め、涙まで流した姿に、おれは少しばかり見直していた。
ただ、反省するべきなのは新たじゃなくおれの方だ。油断に慢心、どこから沸いていたのか余裕と傲り……。
新には後ろ向きになるなといって自分の体たらくに笑ってしまいそうになる。
おれは電気も点けず、畳の上に仰向けに倒れた。
今夜は月も出ていないので薄ら暗い部屋には光が入ってこない。
ただぼんやりと天井を見つめる。目が闇になれてくると板張りの天板の木目もわかるようになってきた。
滲むように立ちこもる汗と土と血の混ざった臭いが、呼吸をするたびに鼻腔をつき刺す。
血の臭いに反応したのか、疲れすぎて狂ってきたのかはわからないが、おれの頭の中は霧が晴れたようにスッキリしている。
天狗党、新の涙、かなうさんの言葉のどれよりも印象深くおれの中で残っていたのが右京山。
あの男との一戦を思い出すだけで、おれは今でも胸踊る気持ちになる。
いや、もっとシンプルに闘りたい。
今すぐ、ヤツに拳を打ち込みたい。
いつからかおれの中に棲みついていた獸がむず痒く……唸る。
誰も邪魔しない右京山を好きにしろと…。
いつからかおれの中に棲みついていた鬼がおぞましく……笑う。鬼状態を力を使えと…。
それを戒めるのがおれという人間の理性と本音……。ヤツが怖い。痛いのは嫌だ。
「龍剄」も「鬼状態」も巨大な牙。
強大な力の奔流の中では表面にこびりついた道徳や価値観など紙くずのように剥ぎ取られてしまう。
残るのはその人間の本質のみ……自分自身との闘い。
だから、おれは自身の力でできる事しかしたくない。どこまでも天の邪鬼な自分が恨めしい。
おれは携帯を開いて液晶画面を見た。
時刻は真夜中のちょうど一時。
横たわらせていた身体をゆっくりと起こし、座禅を組む。
殴られた手足がまだ痛みを引いていてて辛いが寝てる場合じゃないよな。
可逆不可逆。
おれの中に獸が棲みついてるなら、それを押さえ込めない訳がない。
気持ちを落ち着かせるために目を閉じた。
次に目を開けたとき、もう日の光がさしこんでいた。やれやれ、一晩中座禅を組んでたとは、おれは坊主かなんかか…。
さて、これ以上待たせるのは気が引けるな。
おれは立ち上がって、玄関の引き戸を開けると、そこには右京山が立っていた。。
「だいぶ待たせちゃったな」
右京山は小さく笑った気がした。
「こっちが勝手に待ってただけだ。ただ、気がついてたんだな」
「なんとなくな…。それより、よかったら少しだけ話しないか?」
「あぁ…。俺もそうしたいと思ってた。」
おれを小鳥遊堂に送り終わると、新は茶の一杯も飲まずに帰った。
時間も遅いし、新自身もいろいろと思うこともあるだろうとおれも止めはしなかった。
新には失礼だけど、自分がおれを守れなかったとあそこまで反省し、自身を責め、涙まで流した姿に、おれは少しばかり見直していた。
ただ、反省するべきなのは新たじゃなくおれの方だ。油断に慢心、どこから沸いていたのか余裕と傲り……。
新には後ろ向きになるなといって自分の体たらくに笑ってしまいそうになる。
おれは電気も点けず、畳の上に仰向けに倒れた。
今夜は月も出ていないので薄ら暗い部屋には光が入ってこない。
ただぼんやりと天井を見つめる。目が闇になれてくると板張りの天板の木目もわかるようになってきた。
滲むように立ちこもる汗と土と血の混ざった臭いが、呼吸をするたびに鼻腔をつき刺す。
血の臭いに反応したのか、疲れすぎて狂ってきたのかはわからないが、おれの頭の中は霧が晴れたようにスッキリしている。
天狗党、新の涙、かなうさんの言葉のどれよりも印象深くおれの中で残っていたのが右京山。
あの男との一戦を思い出すだけで、おれは今でも胸踊る気持ちになる。
いや、もっとシンプルに闘りたい。
今すぐ、ヤツに拳を打ち込みたい。
いつからかおれの中に棲みついていた獸がむず痒く……唸る。
誰も邪魔しない右京山を好きにしろと…。
いつからかおれの中に棲みついていた鬼がおぞましく……笑う。鬼状態を力を使えと…。
それを戒めるのがおれという人間の理性と本音……。ヤツが怖い。痛いのは嫌だ。
「龍剄」も「鬼状態」も巨大な牙。
強大な力の奔流の中では表面にこびりついた道徳や価値観など紙くずのように剥ぎ取られてしまう。
残るのはその人間の本質のみ……自分自身との闘い。
だから、おれは自身の力でできる事しかしたくない。どこまでも天の邪鬼な自分が恨めしい。
おれは携帯を開いて液晶画面を見た。
時刻は真夜中のちょうど一時。
横たわらせていた身体をゆっくりと起こし、座禅を組む。
殴られた手足がまだ痛みを引いていてて辛いが寝てる場合じゃないよな。
可逆不可逆。
おれの中に獸が棲みついてるなら、それを押さえ込めない訳がない。
気持ちを落ち着かせるために目を閉じた。
次に目を開けたとき、もう日の光がさしこんでいた。やれやれ、一晩中座禅を組んでたとは、おれは坊主かなんかか…。
さて、これ以上待たせるのは気が引けるな。
おれは立ち上がって、玄関の引き戸を開けると、そこには右京山が立っていた。。
「だいぶ待たせちゃったな」
右京山は小さく笑った気がした。
「こっちが勝手に待ってただけだ。ただ、気がついてたんだな」
「なんとなくな…。それより、よかったら少しだけ話しないか?」
「あぁ…。俺もそうしたいと思ってた。」