ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】

ー大江戸学園:大通りー

不意打ち……ともとれる顔面へのストレート。踏み込み、角度、スピード、拳の握り、どれをとっても理想の一撃。

寅「っ……」

殴った側、寅の頬に汗が伝う。
ボクサーゆえの動体視力が捉えた敵の顔……拳が突き立っている男の口角が僅かに上がっている。

笑っているのだ。

刹那、寅は大きく背後に飛んだ。わが身の危機。普通なればさらに攻撃を繋げる好機を捨てて目の前にいる巨人から距離をとったのだ。

金剛「ニィィッ」

熟練の堀士が岩に刻み付けたような深い笑み。金剛は猛禽類が翼のように両腕を広げた。

瞬間、寅の視界から巨体が消える。

寅「なっ……下っ!!」

巨大な石像のような男が一瞬で消えるわけがない、そして跳ね上がった様子もない。ならば存在するのは下、脊髄反射的に視界を落した先に奴はいた。

地面擦れ擦れまで身体を落し、一気に間合いを詰めてくる。

開いていた間隔が一気に詰まる。

金剛「フゥンッ!!」

たまったガスが破裂したような吐息と共に巨拳が突きあがる。

寅の脳が心が爆発的速度で騒ぎだす。
近っ、危、直撃、速度が、死、ガード不可、避ける、距離が足りな…………。ドッと背中に硬いものが触れた。壁だ。余裕を持って下がっていたはずだが既に壁際まで追い込まれていた。

寅「チィッ!うおおぉっ!!」

上半身を振って半身をずらし、同時に地面をけりつけて更に距離をあける。

全身で避ける側面を巨大な物体が打ち上がっていく。巨大な岩が突出したのかと見間違うほどの迫力。

同時、自分の退路を妨げていた壁がミキサーにでもかけられたように粉々に砕けていく。

寅は更に距離をとってようやく停止した。

金剛「ふーーっ、いい反射神経だ。」

巨人は首を曲げて寅の方を見た。その腕は天を仰ぎ本来壁があった部分は根元から砕け去っている。止めたのではなく貫ききったのだろう。

数秒たっていくつもの残骸が降ってきた。本日の天気、晴れ時々木片の雨……。

寅「冗談みたいな破壊力だな、おい」

軽口を叩く寅だがいくつもの冷汗が頬を伝った。回避できたものの僅かに、ほんのわずかに拳の先がかすった二の腕のあたりが紫色に変色している。触れただけで痣になっているということだ。

金剛「当たらなかったら意味はないがな」

ブンブンッと腕を回し首だけでなく身体ごと寅の方へと向き直る金剛……だが、その顔は突如、驚いたような表情になり寅の背後を見つめた。

「そこまでにしてもらおうか。」

寅「あ?」

背後から聞こえる凛とした声。

平良「まったく、なんの騒ぎだ。」

そこには鬼平率いる火盗改めが集まっていた。改めて周囲を見れば金剛と寅の周りを囲んでいる。
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