ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】

ー大江戸学園:工場跡地前ー

「ふぅっ……」

「はぁっ……」

うっすらと笑いを浮かべながらも全身で息をする双雄。打撃、脚撃、投げ、龍剄気功、虎咬、昇り地龍、下り天龍、狂虎の極……ダメージはハッキリと通っている。できることはもはや1つ、多くても2つ……。

右京山寅は思う。

悠、嬉しいぞ。飄々とした外見を装いながら、なにもかも手にした外見ながら……その実、ボクシングしか持たない俺と同様勝ちたくて勝ちたくて身悶えするほど勝ちたくってしょうがない…………抱きしめたいぜ、悠。

小鳥遊悠は思う。

凄まじい蹴りだった、凄まじい砕技だった、寅。かろうじて立ってはいるが……あとできることは残り少ない。勝ちたい……地べた這いつくばって泥水を啜ってもいい、勝てるならッ!

互いが構えてにじり寄る。

「やろう、寅」

やろうっ、根限り。悠はゆっくりと右拳を前につきだす。

「応」

やろうっ、根限り。寅もゆっくりと右拳を前につきだした。

その拳同士がかるくぶつかり合った瞬間……悠の顔面ど真ん中に寅の左拳が、寅の喉に悠の左拳が突き刺さる。殴り合いは続く、悠が寅の顔面を打てば、寅が悠の喉を穿つ。横っ面、顎を、人中を…………防御も何もない。純粋なブンッ殴り合い。

顔の形が変わり、血肉をまき散らし、止まらぬラッシュ、ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ……。

「がぁっ!」

「ぐっっ!」

後ろにはじけ飛ぶ双方、っが、踏みとどまる。同時、同撃だったが、悠の怯みが僅かに長かった。

「うっおおおぉぉぉぉぉぉ!」

猛虎の咆哮、弾けた反動を利用し、地面が抉れるほどの踏み込み、できるだけ強靭(つよ)くに、可能な限り全身全霊を込めた飛び蹴りが鋭角かつ正確に悠の顎を剃り砕く。

棒立ち、構えすら間に合わない。

「ああ…。」

ありがとう、右京山寅…。
おれの……俺の内に残る僅か一打……。

お前の手で追いつめられ。
お前の手で削ぎ落とされ。
お前の手でやり込められた。
そして残された僅か一打……。

最小限、身体は動かさない、向かい来る力に身をまかす。刃物のように鋭い蹴り、つま先が皮膚を肉を切り裂いていく……っが、顎は砕けない。

頬から顎に肉と皮膚を貫いていく脚の脹脛を左手で捉えて右手で寅の顔面を掴んだ。左手に向かってくる力を右手に流す……力の動きを流す、力・動・流し!!

寅の放つ極上の一打によって…俺の残弾は……報われた…………実を結んだ。

蹴力×遠心力×体重×落下速度をもって、凶獣は大地に叩き伏せられる。

「天地…無明返しッッ……」

文字通り寅は頭から地面に落ちた。
天へ向いていた足もゆっくりと地面に落ちる。仰向けに倒れたままもう動くことはない。

「はぁ……はぁ…………」

悠も膝から崩れ落ちる。

敗残兵のように疲弊しきった二人を、野次馬たちは祝福することも忘れ、ただただ見守るばかりだった……。

「悠っっーー!!」

そんな中、一番最初に駆けだしたのは京だった。

「おう……勝った……ぜ」

右拳を突き上げた……つもりだったが、残念ながらしばらく右手はお休みらしい。最後の最後で無茶しすぎた……。

同時に意識も手放した。

すべては後のことになるが、悠は48時間目を覚まさなかったが手のひらと腕のひび以外問題なしと判断が出たその日に勝手に退院。

部分的には悠だが、総合的かつ致命的なダメージを負ったはずの寅は30時間後に目を覚まし勝手に病院から退院。一応眠っている間に行った精密検査の結果は異状なしとのこと……。

また、当初の風魔事件によって出たけが人は未だ入院中のものもいる。ただし、誰も彼も悠や寅に比べて軽度の怪我。医者は色んな意味で頭を抱えたそうな……。
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