ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】

ー大江戸学園:工場跡地前ー

長い長い、永遠にも似た両雄の激突もついに終焉……。技術(わざ)と技術を出しつくし、意地(プライド)と意地をぶつけあい、傷つき、砕き、限界に達しても限界を超えて闘い続けた……。

小鳥遊悠、全身打撲、さらには虎の牙に喰らい潰された右手を握りこぶしへと変貌させ、折れかけている腕を振り上げた。その腕に捩じりが加えられていく、龍剄の装填……。

右京山寅、こちらも当然全身打撲、天と地の龍が駆け抜け引き裂いた肉体。今だ血が流れ落ちる身体でステップを刻み始める。原点回帰、寅という男の原点の戦闘スタイル……。



道玄と雲水は腕を組んで深いため息をついた。道玄の眉間にはいつも以上に深い皺が、雲水は珍しく眉が八の字に曲がっている。

「オレらの見当もあてにならんくなったなぁ」

「まったくだ。参ってしまうわ。」

両人のぼやきに軽く笑う崇。

「なら、一番わかっているのに聞くとしよう」

「なに?」

崇は視線を下げていった。

「臥劉京先生、どう見る?」

しかし、京は首を左右に振った。

「わからない」

「わからない?」

「悠も寅もボロボロだ。どっちが勝つなんて言うのは分からない。」

「……正直だな。ということだ、やっぱり解説はアンタらに頼むことになるらしい。」

雲水は鼻を鳴らした。

「ふんっ。仕方ないなっ。一見して双方のダメージは五部と五部。だが、不利なのは……悠だ。」

「ほう」

「いくら奴らが死ぬ気で立ち上がろうと次に一撃を受けたら、今度こそノックダウン。ならば、打ち合いでは駄目、早く、より速く相手に一撃を当てたものが勝つ。」

吉音が言った。

「なら、例の龍剄を弾丸として打つ悠の方が有利なんじゃ?」

「確かに本来ならその一点で部があるかも知れない。だが、あの拳を見てみろ。握りは甘い、腕は振るえて構えが安定しきれていない。奴の右手は……ハッタリだ。なら、無事な左と思うが、左で来ると分かっているのなら寅は恐らく受けるか避けるかする。」

道玄も同意した。

「うむ。さらに言えば、寅の小僧は悠のストレートブロウより速く打てる。虎咬でそれは実証されているしな。」

想がいった。

「ですが、寅さんがガードしたとしても昇り地龍または下り天龍が当たればそのまま貫けるのでは?」

道玄は首を振った。

「恐らく、あの龍拳は面に当たらなければ効果がない。」

「どういうことですか?」

道玄は身をかがめて地面に図解を描いていく。

臥劉螺拳特有の筋肉の捩じり、本来なら女の柔らかい筋肉をもって絞に絞られた極限の一撃を打つ。男の硬い筋肉では螺拳を作り上げることはできない。ゆえに、螺拳としての拳技ではなく龍剄をその捩じりの部分に装填し拳に乗せて発射する。

それはつまり拳が何かにあたった際に解放される捩じりの回転と龍剄の「力」を相手に送り付けてるから成る結果。そのためには回転と龍剄が動き抜ける領域(スペース)が必要なのだ。

そのため、身体のような肉体の広い面で受ければ肉を引き裂いていく、だが逆に拳同士をぶつけあって止めたり、掴み取ったならば龍剄はその部分でしか発動しない。つまり、当たった部分、手のひらが裂ける程度。

端的に言えば下り地龍は高い位置、昇り天竜は低い位置かつある程度面積必要なのだ。もし一番効果的にダメージを与えるのなら地龍は胸、天龍は下腹に当てる必要がある。もちろん一番効果的な位置でなくとも、腹部に当てれば壮絶な威力ではある……。
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