ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】

ー大江戸学園:工場跡地前ー

一撃必殺

文字通りの一撃で必殺、なのだ。

野球選手が投手の投げた球種を読み切り真芯で捉えホームランへと運ぶ。

サッカー選手が完璧なシュートを蹴り込むとゴールネットへと吸い込まれる。

そう、それは格闘技を知らぬものでも、誰でもわかる。誰でも確信する。二度と起き上がれない倒れ方。「勝負あり」の倒れ方。

この倒れ方をしたものは絶対に起きあがれない。

「ウオオオオォォォォォっ!!」

獣が天を呷って咆哮する。傷つき、血飛沫を纏い、勝利の雄たけびをあげる。

誰も何もいわない。いえるわけもいない、言う必要がない。二匹の雄が戦い、闘い抜いて、手に入れた勝利。


「決着、か。」

道玄が視線を雲水へと向ける。

「だな、小僧の技も冴えていた。だが、それでもなお、寅の坊主の気迫が上回った。死ぬ前にさっさと小僧を医者に見せてやるか。」

死闘の終わり。なり止まぬ勝者の雄たけびを撃ち抜く悲痛ではない、懇願でもない、信念を思いの丈を乗せた声が響いた。

「悠ーーーーーーーーーーーっ!」

誰もが声の主を見た。
叫んでいた寅ですらも、臥劉京に視線を向けた。

満足そうに胸を張る臥劉。なにに満足した?その純粋で強い瞳の先にあるもの……。

ソレに気がついた寅は身体ごと振り返った。

「……」

絶対に置きあがれない、それが立ち上がっている。

「てめっ……。」

「……」

しかし、動かない。立ち上がっただけ?否、立ち上がっただけでもとんでもないことなのだが……。

寅はいった。

「意識……あるのか?」

「…………」

顔にかかる長髪も払わず、ただただ棒立ちだ。やはり無意識に立ち上がっただけ……。

「意識なら……あるぜ」

「っ……。」

頭を大きく振って髪を払う。現れた顔は……笑顔。

「はっ、ははっ、なんか……起き上がれちゃったわ。がりゅーに名前呼ばれて、起き上がれた。くくっ、寅、起き上がれちまったよ。女の声で起き上がるって感動的じゃね?」

「……くっ、くくっ、くはははっ!」

「ははははっ!」

「「アーーッハハハハハッ!!」」

大笑い両雄は狂ったように大笑いする。

「こりゃ、負けられんよな、負けられねぇよ。」

拳にならない右手を固め、ひび割れて動かぬはずの腕を捩じり龍剄を装填する。

「俺も……勝利を確信したんだ。負けるわけには……いかんよなぁ!」

傷がより深く開こうとも、もう一撃、もう一撃のために全身を奮い立たせる猛虎。

次はない、次はいらない、互いが本当の最後の最期の勝負に出るのだった。
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