ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】

ー大江戸学園:工場跡地前ー

「ふーー……」

蛇が蜷局(とぐろ)を巻いたような構えからついた名が蜷の構え。一見すれば不自由に格好だが、仮に殴られかかったとしてもクロスさせている腕を振り下ろせば弾くも掴むもよし。

なによりも敵に対する防衛判断よりも頭を挟み込むようにして耳をふさぐことで三半規管を安定させ脳の揺れを抑え、未だぼやける司会をクリアーにしていく。

そして心音、自らの心音に合わせ氣を練っていく。足の先から腰を抜け胸に渡って腕へと運ばれていく。

本来ならたまりにたまった剄は押し出される水鉄砲のごとく発射されるが……腕の筋肉を捩じり龍剄をこぶしに留めている。

「いけ……そうだな。」

拳の暴発に注意しながら腰を切る。

「はぁ……はぁ、準備はいいのか?」

苦悶、苦痛、疲れの色も見える、しかし一向に闘志の炎を燃やす瞳で寅は視線をぶつけてくる。

「ああ、待たせたな。でも、そっちこそ大丈夫かよ。汗だくじゃないか」

寅は歯をむき出しにして笑った。

「大丈夫じゃねぇな……ねぇから、てめぇを倒して湯にでも使って死ぬほど寝る」

悠は同意したように首を縦に振る。

「おれも同感だ……ふふっ。」

「くくっ」

軽口を叩き合って小さく笑う。次の瞬間、悠が動いた。

最速で腰を切って右足で大地を踏みしめて右こぶしを放った。絞られていた筋肉がうなりをあげ、蓄積されていた剄が発射される。

臥劉京の螺拳とも、九頭竜家の弾針剄とも違う。しかし、双方の良しを併せ持つ拳。相当な速度で寅の懐に突き刺さる。

「そいつは……悪手だっ!」

ガギャッ、グシャッ!鈍い破壊音が二つ鳴り響いた。

苦悶の表情を浮かべるのは……悠だった。

「なっ……あっ!!」

「くっ、はっ!!」

短く悲鳴を漏らす悠と全身をかけて最後のひと息のように笑う寅。

それ以外を音は聞こえない。圧倒的な静寂……。ぶつかり合っている悠と寅の一挙一動に歓声や声援を飛ばしていた野次馬が息を飲んだのだ。

そこにいるほぼ全員が何が起こったか分からなかったからだ。ただ、ひとつ分かっている確かな事実は小鳥遊悠が、先に動いたはずの小鳥遊悠が必殺の一撃らしきものを放ったはずだが、砕けている。否、潰されている?どう形容するべきなのか……とにかく、悠の拳は寅に届かずに潰されてしまっているのだ。

何が起こったのかが「わかった」組はすでに意見交換に移っていた。

最初に口を開いたのは道玄だった。

「ふむっ、龍剄という弾丸を螺拳という銃に装填し撃ち放つ……。この発想は儂にはなかったな。小僧の歪んだ発想には感心させられる。」

「がははっ。素直に褒めてやりゃあいいのに。けど、オレは寅の坊主を推すな。今のを見たか?奴は動かなかった。小僧の拳が己の致死圏内(キルゾーン)に入る寸前に肘と膝で挟み潰した。獣がその咢で喰らいつくようにな。」

雲水はパンッと両手を打つ。

それを見て崇が言う。

「龍が虎に喰われた……か。」
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