ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】

ー大江戸学園:工場跡地前ー

人間弾丸の猛撃を避け続けること数回、ついに獣の動きが停止する。

「はぁっ……はぁーーっ。」

地面に伏せこそしないが両腕を力なく下げ降ろし拳も解いて直立ではあるがしっかりとその目は悠を捕えている。しかし、肩で息をして尋常ではない量の汗が全身から零れ落ちている。

「だいぶん、怒りも落ち着いてきたか?」

「うる……せぇ……はぁっ。」

人間、獣、虫、大概の生物は怒ると攻撃的になり力を解放する。しかし、それはあくまでも一時的なもの、怒りというものは維持するのが難しいのだ。もちろん、恨みなど忘れようがない類の怒りは存在する。だが、それにしてもずっとずっと最頂点で怒髪を維持することはない。

怒ることは爆発的な力を得れるだが、同時に消費するエネルギーも相当のものなのだ。

心身の疲労、蓄積されたダメージ、限界を超えた絶技の連投……いくら獣のような男でも限界が来ているのだ。

「へへっ……ごふっ、んっ。」

笑ってはいるがそれは悠も同じ、ダメージガ内臓にも到達しているのか軽く咳をしただけで口の中に広がる鉄のフレーバー。

ここが勝負の決め時、両腕をクロスさせて右手の甲を左耳に、左手の甲を右耳に当てて腰を落とす。



足を止めて妙な構えをとる悠の姿に顔を見合わせたのは竜の親子。

「あの構えは……」

「蜷の構え」

「けん?なんだそれは。」

王の問いに答えたのは神姫だった。

「蛇が蜷局(とぐろ)を巻いたような構えからついた名よ。正式には……臥劉蜷の構え」

「臥劉…?」

「ええ、察しの通り臥劉螺拳の構えよ。」

崇は軽く首をひねる。

「京の技なのはしっているが……悠も使えるのか?」

「まさか。臥劉螺拳は男には使えない拳法よ。やわらかくしなやかな女の筋肉でしかね。そもそも臥劉螺拳自体臥劉家の相伝の技術。」

「なら、アレは?」

「……教えたんでしょうね。がりゅーが悠に」

はあぁっと深いため息をつく神姫。

「教えられて使えるものなのか?」

呆れている神姫の代わりに道玄が言った。

「無理だな。神がいった通り、臥劉螺拳は男では使えない。だが……」

「だが?」

「氣を集中するぐらいなら効果があるのかもしれん」

「だけど父さん、完全にアレは打つ気よ。」

話しているうちに悠は蜷の構えから、かなり無理に身体を捻ったような妙な構えに変わっている。
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