ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】

ー大江戸学園:工場跡地前ー

ダンッという音ともに寅は動いた。それとほぼ同時に悠は右へと避ける。しかし、避け切った先はまだ寅の射程圏内。固めた拳が顔面と重なる。

「うおぉぉっ!」

凶拳が悠の顔を穿っ……らずに空を切る。地面をえぐりながら急停止し寅は獲物に目を向けると、本来拳が捉えた位置からさらに一歩先で悠は大きく息をついている。

それを見て寅も笑う。

「ハァっ……まだまだ余裕か」

「全然……余裕じゃねぇが余裕だ!!」

その一言を皮切りに寅はさらに速度を増して飛びかかる、そして悠も避ける。寅の猛進は確かに精度も速度も上がっていた、それに対してなぜか悠の回避力も上がっていた。

すべての致命的一撃に対し一歩先で避けきっているのだ。

「ほう……達磨避け、か」

道玄の一言に興味深げに崇はいった。

「あの転がってるのがか?」

「うむ。達磨避けとは名の通り達磨のように転げて攻撃を避け、さらに距離をとる回避術。小僧は虎の小僧の猛撃を一度の回避では避けきれない。だから、だから、最初のスウェイの発動に加えて頭を振った。」

「頭?」

「人間の頭部は重い。ゆえに全力でスウェイし頭を振りかぶることで回避行動に加え頭部の重みによる遠心力が加わり、それに身を任せ一回転する。やり方は無茶苦茶だが、寅の小僧はなぜ躱しているかをつかみきれていない。」

「アレだけ派手に動いているのにか?」

そこで雲水が大きく笑っていった。

「がはははっ。まぁ、寅っ子がお前さんみたいに神速移動と可変ができるのなら問題ないだろう。しかし、寅っ子のアレは「直進」かつ「一定距離」でしか発動できない」

雲水の言っていることを崇はおおむね理解していた。否、理解というより違うものと見極めていたのだ。

技術として扱う寅、できることと割り切っている崇……この差にある。

何度もいうようにスピード、速さに至っては確かに崇という王の域に達していた。だが、それはあくまでもスピードだけなのだ。

そして、寅のもっともスピードの乗る射程圏内はおそらく18から24フィート(5.47から7.31メートル)の範囲内。これは一般的なボクシングリングの広さ。なおかつ直進でしか発射できない。

対して崇はどの地点からでも0-100のブースト、急停止、さらにはホーミング……つまり全方向全距離に適応している。完全無欠の人間弾丸といってもいい。

もちろん、これは絶対王者の崇ゆえにできる行為。それでも、その王域に手をかけた寅の成長は目を見張るものがあった。

「だが、それなら躱しだした悠の逆転か?」

鬼と龍がにんまりと笑いを浮かべた。

「がはははっ、避けられるとしてもアレだけの大きな動きいつかは体力がきれてじり貧」

「うむ。回避はあくまでも回避。攻めに転じれなれば意味はない。」
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