ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】
ー大江戸学園:工場跡地前ー
「……それから不良へと?」
想の問いに左近は笑って首を振った。
「いいえ、むしろ逆ですよ。学校での態度は今までよりも真面目になったそうです。ただし、学内ではですけどね。」
崇が言った。
「理由は?」
「とにかく学校に縛られる時間を最小限にとどめるため……って、ところですかね。一分でも長く力をつけて、ひとりでも多く喧嘩を吹っ掛ける。なかなかおかしな話ですよね。はははっ。」
真面目な不良、言葉にしてみるとおかしなものだが、右京山寅という人間を見ればそれも納得できる。
その男がついに動き出した。
「すーー…………はーー…………」
全身で大きく深呼吸を繰り返す男の身体がググッと前のめりになる。
「……」
対して悠は足を止め。半身を反らして「受け」の体勢。攻めてくるのなら受けて止める。そういう算段……。
「フッ……」
寅が一瞬笑った。そして、次の瞬間、前のめりのまま倒れていく、地面すれすれ、鼻先がつくか着かないかの刹那……姿が消える。
革製の鞭が何かを斫ったような音ともに悠の身体が大きく傾く。
「っぁ……?!」
ほんの一瞬、冷たいものが右ほほに走るがすぐそれは熱に変わり鮮血が噴出した。
「はぁぁぁ……!」
痛みよりも背後から聞こえる獣の荒呼吸に振り返った。
ほんのさっきまで前にいた男が今度は真後ろにいた。そして、また同じように前のめりになっていく。
「マジっ……か!!?」
やられている事は至極単純。目にも止まらぬスピードで飛びつきながら殴りかかる。
だが、それは単純ゆえに強力で凶悪。シンプルな行動ゆえに対策が練られない。超スピードの長力押し……。
「ガァァッ!」
咆哮と共に寅の姿が消える。悠はとっさに顔をガードしようとしたが、それよりも先に衝撃がぶつかり真後ろに倒れた。
「ぐっぁ……!っのぉ!」
殴られた右半分の顔を押さえて起き上がり、振り返る。
「ガルルルッ……!」
目に映ったのはまさに獣……。
手負いの野獣が今にも飛びかかるという殺意をぶつけてきている。
「この動き……ヤベぇな。」
悠は押さえていた顔右半分から手を外す、内出血を起こし、瞼がこぶ状に膨れて右目が機能していない。両目で見ていても姿を見切れきれずにいたのに、片目ならなおさらだ。
しかし、悠がゾッとしていたのソコではない。この動きを知っていた。いや、この動きができる生き物はたった一人だけだったはずなのだ。
ただ「直線に走る」そして「殴る」、その二点だけで全て破壊しねじ伏せる。その「行為」が許される絶対にして頂点の「王」の御業……。
そう……虎狗琥崇(絶対王者)。
獣は今、その領域へ足を踏み入れたのだ。
「……それから不良へと?」
想の問いに左近は笑って首を振った。
「いいえ、むしろ逆ですよ。学校での態度は今までよりも真面目になったそうです。ただし、学内ではですけどね。」
崇が言った。
「理由は?」
「とにかく学校に縛られる時間を最小限にとどめるため……って、ところですかね。一分でも長く力をつけて、ひとりでも多く喧嘩を吹っ掛ける。なかなかおかしな話ですよね。はははっ。」
真面目な不良、言葉にしてみるとおかしなものだが、右京山寅という人間を見ればそれも納得できる。
その男がついに動き出した。
「すーー…………はーー…………」
全身で大きく深呼吸を繰り返す男の身体がググッと前のめりになる。
「……」
対して悠は足を止め。半身を反らして「受け」の体勢。攻めてくるのなら受けて止める。そういう算段……。
「フッ……」
寅が一瞬笑った。そして、次の瞬間、前のめりのまま倒れていく、地面すれすれ、鼻先がつくか着かないかの刹那……姿が消える。
革製の鞭が何かを斫ったような音ともに悠の身体が大きく傾く。
「っぁ……?!」
ほんの一瞬、冷たいものが右ほほに走るがすぐそれは熱に変わり鮮血が噴出した。
「はぁぁぁ……!」
痛みよりも背後から聞こえる獣の荒呼吸に振り返った。
ほんのさっきまで前にいた男が今度は真後ろにいた。そして、また同じように前のめりになっていく。
「マジっ……か!!?」
やられている事は至極単純。目にも止まらぬスピードで飛びつきながら殴りかかる。
だが、それは単純ゆえに強力で凶悪。シンプルな行動ゆえに対策が練られない。超スピードの長力押し……。
「ガァァッ!」
咆哮と共に寅の姿が消える。悠はとっさに顔をガードしようとしたが、それよりも先に衝撃がぶつかり真後ろに倒れた。
「ぐっぁ……!っのぉ!」
殴られた右半分の顔を押さえて起き上がり、振り返る。
「ガルルルッ……!」
目に映ったのはまさに獣……。
手負いの野獣が今にも飛びかかるという殺意をぶつけてきている。
「この動き……ヤベぇな。」
悠は押さえていた顔右半分から手を外す、内出血を起こし、瞼がこぶ状に膨れて右目が機能していない。両目で見ていても姿を見切れきれずにいたのに、片目ならなおさらだ。
しかし、悠がゾッとしていたのソコではない。この動きを知っていた。いや、この動きができる生き物はたった一人だけだったはずなのだ。
ただ「直線に走る」そして「殴る」、その二点だけで全て破壊しねじ伏せる。その「行為」が許される絶対にして頂点の「王」の御業……。
そう……虎狗琥崇(絶対王者)。
獣は今、その領域へ足を踏み入れたのだ。