ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】

ー大江戸学園:工場跡地前ー

「そうか」

「あまり興味がないようですが?」

崇は小さく肩を揺らした。

「映像を見ただけで何かが変わるとは思わない……っと、思ってな」

「崇さんなら見るだけで何でも真似できそうだけどね。」

ニコニコと笑ってそう呟いた摩耶。

笑っていいのか適当に相槌を打つところなのかと皆が考えている中で口を開いたのは意外にも左近だった。

「まぁ、寅さんがわざわざ崇さんのビデオを見たっていうんなら、何か近いものを感じたのかもしれませんねぇ」

「近いもの?」

「……多分ですが、この中じゃあやっばり私が一番寅さんと付き合いが長いわけですけどねぇ。私から見ても寅さんは決して恵まれた方じゃないんですよ。」

それに異を唱えたのは雲山だった。

「そうですか?彼のセンスはなかなかだと思いますが」

「はは、そりゃそうだ。あのお人はソレだけに時間を費やしてきた。ただし、さっきも言ったように恵まれてはない。もともと彼ちいさかったですしね、今は奇しくも私と同じぐらいですが……。」

「その言い方はずいぶんと古い付き合いらしいな」

左近は首を二度三度と軽く振る。

「正確に知り合ったのは中学……ぐらいだったかな。その後噂やら本人から聞いたりやらで色々知ったんですよ。オフレコにしてくれるなら、少し昔話でもしますよ」

崇はひと言だけ呟く。

「つづけろ」

「彼がまだ小学生のころは家族と暮らしていました。まぁ、家族といっても男にだまされ捨てられ酒に溺れた典型的というとアレですがネグレイト気味のシングルマザー。まぁ、それは置いといて、この頃の寅さんはチビでヒョロイ子供だったそうです。っていうか、栄養失調?運動も勉強もまぁ「そこそこ」な子供。でも、ある時、些細なことでクラスの子と喧嘩になった。子供ですからねぇ取っ組み合いの喧嘩になったそうです。」

「ほう、らしいといえば、らしいな。」

「ただ、ここからが少し変わってきます。取っ組み合いになってヒョロクてチビな方は当然圧されます…………っが、恐らく偶然でしょうけど寅さんのつきだした拳が顎にクリーンヒット、相手の子は一発でノックダウン。」

摩耶と想が言った。

「いい具合に入ったんだね。」

「しかし、問題には?」

「当然なりましたよ。しかしまぁ、今よりは大分緩いというか親が出るほどの問題にはなりませんでしてが……寅さんはその日から目覚めてしまったんですよねぇ。「何かを殴り倒す」事に……。」
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