ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】

ー大江戸学園:工場跡地前ー

「…………」

「…………」

二人の男は睨み合ったまま動かない。ただ、互いの距離は一定を保っている。腕を伸ばしても足を延ばしても届かない。最低でも三歩、三歩は歩かないと詰めれない、そんな間合いだ……。

そんな二人を見つめるギャラリーのひとり、吉音がいった。

「動かないね。」

雲山がうなずく。

「動かないのか、動けないのか……。」

互いがけん制し合っている。先に動いた方が不利。そう見るのが普通である。

「動かない、のが不自然なのは寅の方だろうな。アレが亀になるのは戦闘スタイルが合わない。しかし、このまま時間がかかると不利なのは……寅だろうな。」

凍える王様のひと言に首を傾ける側と頷く側に分かれた。

傾けた側のひとり灯がいった。

「投げられたダメージが響いているからですか?」

「いいや、もっと根本的なことだ。小鳥遊悠は……小狡い。」

「こ、小狡い?」

「そうだ。奴は今まで純粋な戦闘能力面で圧倒的に不利な相手でも、どう考えてもひっくり返せない戦局でも小狡い手で逆転してきた。……悠を相手にするのなら時間をかけるのは逆効果、やるのなら短期で決めるのがいい。あれは例え出血していようが、内臓がこぼれ出ていようが意識がある限り立ち続けるゾンビのような男だ。」

「……つまり、悠さんを倒すなら一瞬で決着をつけるのがいい、と?」

「少し意味が違うが概ねそれだ。それよりも、まだ動く様子はない。お前ら「のは」どうなんだ?」

灯「私たちの?」

「寅の面倒を見ていて……今からの動きどう思う?」

灯は雲山の方を見た。

「……面倒を見たといってもたかだか数週間です」

「その数週間で成長させるのがお前らだろ?」

「無茶を言う。」

「腹の探り合いはいい。結局どうなんだ?」

雲山は腕を組むと寅たちではなく、崇の方に振り向いた。

「……腹を探っているわけではありません。ただ、ひとつ、アナタになにか連絡ははいっていませんか?」

崇は心当たりがあったのか、ひとりの名前を出した。

「禅……か。」

「なんと報告を?」

「報告と言うほどの物でもない、ただ、俺の動いている映像を買った奴がいるといっていた。まぁ、普通なら禅はそういう事をしないが、あいつが個人の判断で売ったというのなら、問題もない相手なんだろう……ぐらいに考えていたが?」

「そうですか。なら、ひとつ答えましょう。その映像を買ったのは寅君ですよ。」
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