ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】

ー大江戸学園:工場跡地前ー

感じる……。いや、気がついた……のが正しい表現だろう。

投げ飛ばし、地面に叩きつけ……くるはずの、この掌に伝わるはずの衝撃が僅かずつだが足りない。

「はあぁぁ!」

「ぐぁっ!!」

また……だ。勢いをつけ、がむしゃらに叩き付けているのに足りない。

けっして平らではない地面。石が散らばり、木偶人形の残骸が散らばかる鋭利な着地地点に対し、弾き、躱し、破壊(こわ)し……致命傷を避け切っている。

それに気がついてしまったおれ……。

その一瞬の恐れに獣は喰らいついてきた。

叩き付け、次の投げに入ろうとした瞬間、右足にズキリッと痛みが走る。更に、引っ張り上げれていた寅の身体が動かない。

それどころか、奴を動かそうとすればするほど痛みが肥大する。

「っ……てめぇっ!」

「がぐぁっ……!」

痛みの先に目を向ける。そこには脹脛に噛みついている寅の姿。ギチッと肉を噛み潰す音が聞こえた。

「痛っ……こっのおぉっ!」

掴んでいた腕を離して下段突きを放った。狙うは奴の頭……。

本気で打ちこんだが、既に寅の姿はない。地面にめり込んだ拳を引き抜いて頭をあげる。

「んっ……ぶべっ!」

幾度となく叩き付けられて泥と血にまみれた獣が何かを吐きだした。赤黒い血反吐。それは奴の吐きだした血だけでなくおれの肉も混ざっている事だろう。

「っ……」

どんな力で噛んでいたのか、軍パンの布ごと肉の一部を喰いちぎっていかれてる。

「はぁぁ…………。」

手負いとなった獣は大きく息を吐きだしながら口をぬぐう。

そして、自身の服の胸ぐらを掴んだかと思うと勢いよく破り捨てた。

「まだまだ、やれますって……か。」

裸体をあらわにした奴の上半身を見て、ついそう口からこぼれた。アレだけ叩きつけたにもかかわらず……綺麗なものだ。

もっと痣だらけにっていてもおかしくないと思っていたが、ほとんど傷ついていない。

「身体も……温まっただろ。そろそろ、本気でやろうぜ」

サバンナで狩りをする肉食獣が喋ったらこんな声だろうと連想させるような悍ましくも威厳に満ちた声。

「ああ、やってやる。やってやるよ、こん畜生……が!」

おれもインナーを脱ぎ捨てた。

今までだって本気じゃなかったわけじゃない。だけど、今からはもう冗談で済ませられない。奴は今、人であることを捨てた。ただ、一匹の獣と化したのだから……。
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