ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】

ー大江戸学園:工場跡地前ー

「ぐぁぁっ!」

背中から地面に落ちる寅。

「悪いな。もう終わりにさせてもらう。」

立ち直す隙を与えない。おれはさらにそこから反対側に腕を引いて再び地面に叩きつけた。

「ぐぅっ!」

更にもう一度、反対に、もう一度、もう一度、もう一度……。

人形でも振り回す様に右に左にと連続して叩きつける。ここで決める。とにかく、寅をもう一度立たせるわけにはいかない。



少し離れた場所で傍観を決めていた鬼が誰ともなしに呟いた。

「決まりですね。」

一歩踏み出そうとした雲山の肩を崇が掴んだ。

「何処へ行く気だ?」

「止めるんですよ。ああなれば、寅君は何もできない。悠君の勝ちです。それともこのまま彼を殺人者にでもしますか?」

冗談とも皮肉ともとれる問いにキングはわずかに笑った。しかし、それは別の意味の笑いだ。

「止める必要はない。」

「なぜです?もうこれ以上は無駄でしょう」

「これ以上は?むしろ、これからが本番だろう」

肩を掴んでいる手を振り払って雲山は振り返っていった。

「何を言ってるんです?」

「俺からしたら何を言っているはお前の方だ。周りを見てみろ誰もお前と同じ意見のやつはいない。」

雲山は視線を流す。確かに崇を筆頭に誰一人止めようとしているものは居ない。だが、ひとりだけは雲山と同じ意見だった。

「私も止めた方がいいんではないかと……」

小さく手をあげたのは灯だった。

「あぁ、そうか。お前らはまだ分かってなかったか。」

崇は不意に何かを思いだしたように肩を竦めた。

「分かってない?」

「何がですか?」

「あそこに……」

「あそこにいる二人は馬鹿じゃないからね。」

キングの声に割り込んだ声の主は摩耶だった。

「遅い登場だな」

「いやー、崇さんみたいに情報通でもなかったら特別に足があるわけじゃないからね。それに金剛君がお店抜けるのに時間かかっちゃって」

摩耶と並ぶとひと際目立つ巨大な男がいった。

「こっちの予定まるで無視して勝手に始めるから困ったもんだ」

「あいつはそういう男だろ」

「……それもそうか。」

巨人とキングが低く笑う。

それを横目に灯が摩耶に尋ねた。

「本当に止めなくていいんですか?」

「大丈夫大丈夫。あそこにいる二人は本気でどっちかがどっちかを殺すまでやるほど馬鹿じゃないよ。ただし……」

「ただし?」

「納得のいく決着がつくまで止まらない、大馬鹿だけど、ね♪」
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