ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】

ー大江戸学園:工場跡地前ー

膝蹴りを止められ、身体は下がったが顔のガードは崩さなかった。落ち着いて対処する。おれは後退しようと重心を背中に向けた瞬間、ガッと鈍い音が脳に響く。

何?

視界が歪む、というか空が見える。

ああ、そうか……殴られたんだ。顎を……肘で膝を叩き防がれたついでに拳をかちあげて顎を穿たれた。腕で顔をガードしていたから視野を塞いでしまったせいで油断した……。

痛みと甘い痺れに脳がとろける長い長い一瞬。

その声だけははっきりと聞こえた。

「そのまま……吹き飛べっ!」

獣は右足側の手を腰の後ろに大きく振り、上半身を後方に倒さず、蹴り足の膝を正面に上げ、軸足のかかと・腰の順に回転させ、蹴り足の脛をぶち当ててきた。

視界が二転三転する。ノーガード状態でのハイキック…。痛い、じゃなく激痛だ。

今日何度目かわからないがまたもおれは地面を転がる。

「ぐっ、あっ……ぐぇ……」

どっちが上か下か分からないほど転がってようやく身体が止まった。

今のは……ヤバい、寸前、ほんと紙一重で首を振ったので首への直撃は逃れたが右肩の先から鎖骨にかけて動かない。いや、動くには動くが、動かせないほどの激痛。

左腕の痺れが治った矢先に右腕がこれだ……。いや、まぁ、それ以上に全身が滅多打ちなんだけどな……。

とにかく蹲ってるままじゃいられない。とっとと起きて奴を視界に入れておかないと……。頭をあげようとすると自分の意思よりも更に上に置き上がった。

いや、違う……髪を掴まれて引っ張りあげられてる。

「オラァ!」

「ぶぇっ…」

寅と目が合った瞬間、おれの顔に拳が入った。反動で頭が揺れるとブチブチと髪の毛が抜ける音がした。

「トドめだ!」

ゴォッと風を切るパンチ。

「まだだっ!」

おれは不安定な体勢ながら膝をついて寅の拳に拳をぶつけた。

ゴッ!ゴッ!と硬いもの同士がぶつかる激突音。

「っ……おおおっ!!」

「うぉぉっっ!」

互いに拳を引かず押し合いながらおれは立ち上がった。メリメリ、ゴリゴリと拳でつば競り合うおれと寅。

「ぐうぅぅっ!」

「はぁぁぁっ!」

体型だけ見れば、身長体重ともおれの方が勝っている。だが、奴はそれもものともしない勢いと力で拳の先からおれを圧倒しようとしている。

ぶつかり合う拳、伸びきっている互いの腕……その拮抗状態が、グッ、ググッ、グググッと、本当に少しずつではあるがおれの肘が曲がり始める。
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