ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】

ー大江戸学園:工場跡地前ー

「いい動きじゃねぇか!」

ゴッゴッと自分の胸元で拳をぶつけて、寅は不敵に笑う。

おれも笑い返していった。

「そっちこそ、少しぐらい手を抜いてくれてもいいんだぞ」

「ほざけ。」

おれが動こうとしないと見るや、奴の方から近づいてくる。まだ左腕は痺れたまま。この状態で寅と立ち会うのは控えめに言って……馬鹿だ。

なら、おれのとる行動は一つ、痺れが回復するまで距離を保ち続けること、呼吸を整えながら左足を軸にして半歩右足を後ろに引く。

おれが動いたことに素早く感づいて奴は速度を上げて近づいてきだした。

おれは引いた右足を素早く前にだす。そして止める。出す。止める。出す。止める……ブレーキングで生まれる慣性エネルギーを氣と融合して再び外に放出することで衝撃波を作る。

「いっけぇぇぇ!蒼龍の爪!」

神姫や道玄のように腕を振って放つほど、おれは龍剄の繊細な操作はできない。だが、こういう雑なやり方なら大得意だ。

横一文字に放たれた衝撃の刃。

「つぉっ!」

さすがの寅も……いや、さすがは寅と行った方が正しいだろう。前進していた身体を急停止して、横に跳ねた。脇腹の辺りに掠りはしたものの龍剄を避け切った。

「もう一発!」

自転車に乗るのと同じでコツを掴めば龍剄も安定して放てる……が、このやり方は、筋肉に凄まじい負担を与えるらしく、既に脹脛や太ももの筋肉が軋みだしている。連続して使い続けるのは難しい……それでも、やらなきゃ仕方がない。

さっきと同様に衝撃の刃を放った。

「ちっ!」

進むことをやめて寅はさっきよりも華麗に身を翻して避けた。その後ろにいた木偶人形の胴体が両断される。

威力も範囲も十分。だが、同時におれは蒼龍剄の使いかをようやく理解し始めた。

神姫や道玄が細かく連射する理由は大振りだと確かに威力も範囲も増すが著しく発射と速度が遅くなるのだ。

蒼龍とはより速く、鋭利に放つものなのだ。

「なら、こうかっ!」

おれは振っていた足の付け根を固定して、膝と足首だけを振るった。さっきまで大きく出ていた衝撃の刃が凝縮されて放たれる。

先ほどより範囲は狭いが速度は上がっている。

「ぐっ!!」

バシッと破裂したような音と同時に寅の胸元に刃物で切られたような痕ができた。

当たった。この速度なら寅も躱しきれないらしい。ならばと、そこから更に連射する。

「いっけえぇぇ!」

足の筋肉が悲鳴を上げるのも顧みず横、右斜め、左斜め三連蒼龍の爪を放った。
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