ｰ大江戸学園:工場跡地前ｰ

「そうこなくちゃなぁ!」

寅の咆哮にも思える叫び声に鼓膜がビリビリと震える。しかし、それ以上に身が震えたのは、目の前で縦に振りあがっている奴の足。

おれは大きく開脚していて左右には逃げれない。

動くの前!両手を思い切り地面に叩きつけて無理やり身体を持ち上げて前に転がる。

「うおぉぉっ!」

「遅ぇっ!」

おれが一回転してぶつかろうとするのも臆せず奴は足を振り下ろしてきた。

頭が真下に向いたところで足を閉じ膝を曲げて奴の踵落しを受け止める。

ガツンとした衝撃。いくら膝を曲げたとはいえ変な位置で受けたため痛みが尋常ではない。しかも全体重を足ではなく、二本の腕で支えているので足から腕へと電撃が走ったような痛み。

「ぐっ、のぉぉ!」

グッと、肘を曲げて一気に肘と膝を伸ばしあげた。寅の足を弾いて、さらに大きく開脚して両手を廻して身体を回転させる。

ブレイクダンスでもする要領で、逆立ち状態で寅に蹴りかかる。

「くっ…。」

これは寅も予想外だったのだろう。捌き難そうに何とかガードをしていた。

このまま、攻め続けてタイミングを見計らって立ち上がろうと思った瞬間、奴はスウェイで蹴りを避けて半歩前に踏み込んできた。

おれは今逆立ちの状態だ。半歩踏み込まれただけで、奴の凶器(足)が顔のすぐそばにある。そうなれば当然……。

「やべっ!」

「食らえっ!」

おれの悲鳴が早いか、奴の動きが早いか、地面を支えている腕を蹴り払おうと振りぬいてきた。腕を下げたら頭を弾かれる……かといって、このまま蹴られても頭から落下する。

おれは一か八かで両手を地面から離して、右腕を後頭部に左腕を側頭部に添えてガードした。

「吹っっ飛べえぇぇぇ!」

獣の剛脚がおれの左手首に衝突する。衝撃は当然、添えている顔にまで浸食した。さらに横薙ぎにおれの身体は弾き飛んでいく。

意識が飛びそうになるも、幸い(といっていいのか)地面に落下する衝撃で覚醒する。後頭部に添えた右腕がクッションになりつつ地面に擦り付けられて熱を感じた。

全身が地面に落ちたのを確認すると同時におれは飛び跳ねるように起き上がって、頭を振るう。

「っ……あー、痛ぇっ。」

頭を振りながら全貌を確認、左腕は手首の辺りに青痣。痺れてはいるものの折れてはいない。右腕は擦り傷程度でちょっと皮膚が裂けて血が出ているも問題なし。口を動かす。鉄の味が広がるもしっかりと奥歯でかみ合わせられる。

身体は問題なし。問題なのは……少し離れたところで陣取っている奴だ……。