ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】

ー元発電施設:内部ー

寅「残り七本か」

豊久「その前に本体を叩いても良し!」

灯「ですが、そう美味くいかないでしょう。」

朱金「なぁに、同じようにやりゃあ問題ねぇだろ」

悠「軽く言うなよ!」

風魔「腕を取られるか……ならば、これならばどうだ。」

縮んでいた腕が四方八方に伸びると何かを掴んで戻っていく。

悠「おいおい……」

風魔「八双棍……いや、今は七双か。くくっ。」

今までは伸びる機械腕を撓らせ鞭のように操っていたが、今度は一本一本が鉄パイプのようなものを握っている。

寅「たかが棒切れだろ」

灯「猿渡家は……棍術長けています。それは風魔も同じです。」

風魔「一双……」

灯「はっ、皆さん!飛んでください!」

灯の声に反応して皆、その場で跳ねた。

風魔「!」

ギャリリリッと床を削りながら横薙ぎに棍が走る。力技に見えて一定の角度を保ち避けにくく、受けにくく、なおかつ弾きかえしにくい。ただの棒を技術はここまでしっかりとした凶器へと変貌させる。

しかし、その棍技術を上回るのは風魔の狡猾さ、全員を狙うのではなく棍の軌道上で一番近い人間に狙いを絞り返たことだ。

狙われたのは悠と寅。

振るうスピードに緩急が入り着地のタイミングに合わせてきた。

寅「悠!」

悠「すぅ……風衝壁(バリアー)!」

向かい来る強撃を受け止める。風の壁に鉄の棒が激突した。

耳が破裂しそうになるほどの轟音。

灯「悠さん、逃げて!」

風魔「くくっ。歪鉤(ゆがみかぎ)」

ぶつかり合っていた空気の壁を掬うように棍が振るい上がった。

瞬間……風の壁が削り取られた。

悠「なっ」

寅「おぃっ!」

風魔「鉤歪猿吠(かぎゆがみえんこう)」

風壁を削り取った棍がさらに大きく弧を描いておれと寅を穿った。

棍が当たったのではない。空気、風の衝撃波がおれと寅を飲み込んで吹き飛ばしたのだ。

悠「ぐぁっ?!」

寅「ぐっぅ!?」

風魔「ふはは。流石、八双棍。一本でこの威力」

追いうちは仕掛けずに伸ばした腕を広げた。その姿はまるでアシダカグモだ。握りしめた棍を地面に突き立て這うように移動する。

雲水「今のは?」

灯「対龍剄の返し技です。本来は風壁を打ち破るまたは風の砲弾を弾く技なのですが、あの棍……猿王八双棍を使えば削り取った空気を龍剄と同じように撃てるのです。……もちろん、それを使える技術は必要ですが……それよりも、なぜ八双棍が風魔の手に……」

豊久「ありゃあ、ただの棒切れと違うのか」

灯「……八双棍は、その名の通り八本の棍がひとつとなることで形成されています。父が四、私が一、残り三双は父がどこかに隠してあるはずでした……」

風魔「探すのに骨が折れたよ。くくくっ」

灯「くっ……!」
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