ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー大江戸学園内ー

どうやらおれは道の選択を誤ったらしい。
カートの少女のいっていた危険はすぐにやってきた。道をしばらく進むと不意に流れる不振な空気を感じた。

そしていつのまにか天狗党の連中に取り囲まれていたのだ。

悠「まったく……。」

天狗党員F「うぅっ…」
天狗党員G「あぅっ…」
天狗党員H「うぇっ…」


最初に不意打ってきた奴等はおれの足元にうずくまってうめいている。

それでも十数人の天狗がおれを取り囲んでいた。
だが、瞬間的に三人を倒したのが牽制になったのか、こちらに向かってこない。

さほど広くはないこの場所で一斉に襲われたらたまらない。どうにかこの膠着状態を維持しつつ、逃げの算段を考えていた。

天狗党員I「くそ。ヤバいのは徳田新でコイツはただのキモい男じゃなかったのか」

本人を目の前にしていってくれる。
おれはなにか言い返そうかと思ったが下手に刺激するのは不味いと我慢して口を開かなかった。

天狗党員I「く、仕方ない……我らが御前と学園の秩序のためだ。先生!先生!お願いします!」

天狗のひとりが叫ぶと、天狗面に制服ではなく、髪の一部を編み込みにした黒いジャージ姿の男が後ろからのそりと現れた。

身長はおれと同じか、少し高い程度。
顔つきからして同世代くらいだろうか、鋭い目付きでおれを凝視する。

天狗党員I「先生、どうかひとつお願いします。骨の二三本くらい構いません。」

先生と呼ばれた男は下げていた両手を胸のまえに構えて、しっかりとテーピングされた手をゆっくり握って拳を固めた。
ファイティングポーズ……どうやら先生とやらのスタイルは拳闘(ボクシング)みたいだ。

先生と呼ばれた男「小鳥遊悠……なんだな?」

悠「そうだ。っていえば見逃してくれたりするのか?」

先生と呼ばれた男「減らず口…気味の悪い長髪…柄の悪い服……間違い無さそうだな。」

初対面の奴に散々な言われようだ。

悠「おれはアンタのこと知らないんだけど、見た感じここの生徒じゃ無…」

喋り終わる前に、奴は蛇行をしながら間合いを詰めてきた。

瞬間、腹部に三度の衝撃が走る。ワン・ツー・スリーのコンビネーションジャブだ。

おれは腕でのガードが間に合わず臍胆(へその下辺り)に限界まで力を込めて腹筋を固めた。
できうる限りダメージを最小限に押さえたが、潰れた胃から溜まった酸素がせりあがる。
奥歯がギリギリとなるほど喰いしばって、右肘を奴の後頭部に振り降ろした。
だが、奴はSの字を描くようにスウェイして肘鉄を避け、左のジャブをおれの顔面にぶつけてバックステップで、もと居た位置まで下がった。

ファイティングポーズを維持したまま奴は笑った。
おれはペッと血の混じった唾を吐きだした。
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