ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【2】

ー大江戸学園:旧工場施設ー

鬼状態の発動により雲山の心臓は爆発的なピストンで大量の血液を製造し、全身を駆け巡った。無傷ではない身体から血がにじみ出す。

風魔「まるでアカオニだな」

雲山「ふんっ!」

右腕を振り上げた。だが、拳は放たれない。放たれたのは左足。

風魔もこれは読めなかった。力任せの攻撃に出ると思っていたらしく、ワンテンポ遅れて膝と肘で挟むように蹴りを受け止めた……がっ。

風魔「ぬぅっ!」

不安定な体勢で受けたとはいえ風魔は足の先を挟み潰す気だったのだろう。だが、挟み折るどころか威力を殺しきれず風魔の巨体が浮いた。

受け止めきれないと察し、あえて大袈裟に吹き飛んだ。激流に逆らわない、川に踊る笹船のようにゆるりと衝撃を殺して着地する。

雲山「遅い!」

風魔「!!」

着地位置を先読みし、ジャストタイミングで風魔を強襲。岩のような拳が今度こそ風魔の腕を穿った。二の腕の芯を捉えた渾身の一撃は枯れ枝を砕くごとくに破壊する。

雲山「むっ?!」

腕は折った。目に見えて二の腕の中ほどからへし折れている……。だが、その折れた断面から覗くのは血肉でも骨でもない金属。

風魔「くくっ。腕はまだあるぞ」

ベリッと服を突き破って中から二本の腕が伸びて、雲山の腹筋へと突き立てられた。

雲山「ぐっ!」

風魔「硬い……」

第三、第四に生えてきた腕、その手刀の先は突き刺さったが貫けはしなかった。筋肉を硬め鉄壁のような腹筋で受け止め。敵を逃がさぬように指を抑え込む。

こっちの腕が本物。両こぶしで叩き折ろうとした雲山の目のまえで何かがうごめいた。腕……そうだ。もう一本、腕は残っている。

雲山「ぐっ!」

目標を腹部の腕から急所(首)を狙っている腕に切り替えた。首を後ろに振って、伸びてきた腕を両断した。こちらもやはり中身は機械……。硬めていた腹筋が緩み風魔は指を引き抜き、蹴りをいれた。その反動を利用して距離を取る。

風魔「見事見事」

雲山「ぐっ……」

筋肉を緩めたところへの蹴りは内臓へのダメージへとつながった。初めて鬼の顔に苦みが浮かぶ。

風魔「ふっ…」

薄く笑い。自分の肩を抱くように腕を回すと、バキンっと何かが外れるような音がして「肩」から「肩と腕」の残骸が捥げ落ちた。

雲山「義腕……とでもいうのか。」

風魔「ククククッ。鬼よ。見事だ楽しめた。だが、風を捕えることはできん」

捥げた肩と腕の残骸から煙が噴き出した。

ククククッははははははっ!

笑い声だけを残して風魔は消えてしまう……。

雲山「しまった……くそっ!」

久秀「ちょっと!そっちが済んだならこっちを助けなさい!」

ダンジョー『ジョー…』

ダンジョーにストックされた火薬も切れたのか久秀は壁際に追い込まれている。

雲山「あっ、今行きます!」

うっすらと血にまみれた身体だが鬼状態は未だに発動したまま。さっきの非ではないスピードで木偶人形達は残骸へと化していく。

久秀「……そんな動けるようになるなら、初めっから鬼状態になっときなさいよ」

雲山「無茶言わないでください。反動がきついんですから……」

久秀「あと、すっごい流血してるわよ」

雲山「見た目の出血が派手なだけで傷は浅い。問題ないです。」

久秀「ああそう……。でも、死人より怪我人の方が邪魔になるから治療してあげるわ。」

雲山「手厳しい……」

久秀「久秀は悪党だからね。」
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