ー夏休み編ー命を燃やせ、今がその時だ
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立ち上がらなければならない。ならないのに、痛みで力が入らない。脂汗を顔中から滴らせつつ、目を開けるとゴム質の塊りがおれの顎にそえられていた。ググッと強制的に頭を上げさせられる。
「起き上れないなら手伝ってやるよ」
「――ッ!!」
パカンッ!!確かにそういう音がした。おれは見えていないがきっとヤツは真下から真上に足を振り上げている事だろう。文字どおり垂直に蹴りあげられたらしい。二度目の空中浮遊、意識が半分ドロップアウト。浮いていってるのか落ちていってるのか判断できないが、金剛の視線とおれの視線が重なる。
「シイッ!!」
おおよそ認識出来ない速さの巨拳がおれの腹を打った。ただ、おれには見えていた。ヤツの一連の動きが。小指から各指の根元へ順に薬指から中指へと折り曲げられる右指の第一関節、そこからは先とは逆に人差し指から順に折りたたんでいき仕上げは親指で締める。
人類最古にして最良の武器。それが拳だ。折りたたんだ指は力が抜かれ親指でそっと押えられていて、構えには拘らない。こぶしの配置は自身の肉体に任せた自然の位置。防御の一切を忘れ、重心を前足、拇指球へと集め……打ちこむことだけに集中した。静かで無駄のない破壊の一撃。
「――ッッッ!!!?」
空中で停止した。そしてすぐにボトリとおれは落ちた。叫び声とか呻くとかじゃない。目をこれでもかといっぱいいっぱいに開き、半開きになる口。無意識に手は打たれた腹を押えているもののどうにもならない。
鍛錬とは苦痛(いたみ)の連続だ。単純なロードワークひとつとっても…焦げ付くような心配の苦痛…………一歩刻みで連続(つづ)いてゆく足首、膝の苦痛……筋力トレーニングはさらに理解(わか)りやすい。まさに筋肉の苦痛と正面から向き合う行為だ。ときには、更なる苦痛が加算され、痛みのその先――やがて意思とは無関係に肉体が果てる。そうしなければ一つの種目が終了しない…………下半身への負荷はさらに苛烈を極める。筋肉が限度を迎えるころ大腿部は着火する………その苦痛は火炎……それ以外の表現が見つからない。
闘争(たたかい)になると事は単純だ。対戦者の五体は――鈍器となり刃となり槍となりつるはしとなり苦痛を与えるため容赦なく襲い来る。鋭く……重く……深く……荒く……硬く……苦痛をくぐりぬけてきた。
苦痛いことが日常……苦痛いからこそ安心……普通(なみ)ではない苦痛への免疫………………があったハズ。
だが、それでも苦痛い。激痛い。鈍痛い。圧痛い。衝痛い。いたい。イタイ。
「お前はすぐに復活するからな、もう対話はなしだ……。完全完膚なきままに……倒しきる。」
どうやら……本気らしい。金剛はドデカイ太股を突きあげて頭に照準を合わせた。象の足の裏を見上げたことはあるだろうか。踏み潰されるアリの気分を味わっていると、カジャジャジャっと重機がスクラップを力任せに押しやるような豪快な音がした。一応いっとくがおれの頭が潰れた音ではない。
金剛も驚いたらしく。上げた脚を地面に戻して、音のした方向に首を振った。
「なるほどねー。引き戸でも押し戸でもなくて、上げ戸だったんだね。なんか、酷くへこんでたから無理矢理あげちゃったよ」
金剛が叫んだ。
「摩耶っ!!」
「やっほー、やーっと追いついたよ」
首を振り上げて巨神の足の間から覗くと確かに摩耶がいる。しかも、おれが全力でぶつかってもビクともしなかった鋼鉄戸を開放している。金剛が吠えた。
「何してやがる!そこを通りたかったら俺を倒してからにしろっ!!」
「あはは、何してるはこっちのセリフだよボケが。なに、人の相手(悠)にトドメ刺そうとしてんだ。テメェこそ順番を守れ。」
怒鳴る金剛に臆することなく摩耶は早足に近づきながら怒鳴り返している。落ち着いてたと思ったら黒状態(クロモード)はいまだ健在らしい。それにしても、金剛に暴言を吐かれるより、摩耶に啖呵を切られながら毒を吐かれる吠えが怖い気がしてならない。金剛の目のまえで摩耶の足が止まった。充分に殴り合える間合いだ。
二人の口げんかは続く。
「順番だと?お前の番は終わっただろっ!!」
「いいや、終わってないね。あんな決着はなしだよ。」
「無しって何だ!充分楽しんでただろお前!」
「「楽しい」と「満足」は違うじゃない。それに言ったでしょ決着に納得してないって」
「だったら俺が終わってからにしろ。」
おれのことなんか忘れてる癖におれの話題での言い合い。まったく、やれやれだぜ。おれはゆっくりと立ち上がって金剛の大きな背中にペトっと足をつけた。
「あん?」
「悪いな金剛。こーゆー形だが……まぁ、さっきいったがチャレンジャー(弱者)は勝つために探るしかない、頼るしかない、誤魔化すしかない。」
「何をいって……」
金剛はハッとなり、おれではなく自分の腹に目を落とした。ほぼ金属に近い肌質の腹筋に小さな手がふたつ当たっている。おれと摩耶はぶ厚い壁を挟んで同時に叫んだ。
「蹴按!!」
「双按!!」
ドグンッ……巨大な心臓が跳ねたような衝撃。一秒、二秒と待ってゆっくりと当てていた足をそっと外して、軽くぶつける。直立不動のまま壁は前に倒れた。
「起き上れないなら手伝ってやるよ」
「――ッ!!」
パカンッ!!確かにそういう音がした。おれは見えていないがきっとヤツは真下から真上に足を振り上げている事だろう。文字どおり垂直に蹴りあげられたらしい。二度目の空中浮遊、意識が半分ドロップアウト。浮いていってるのか落ちていってるのか判断できないが、金剛の視線とおれの視線が重なる。
「シイッ!!」
おおよそ認識出来ない速さの巨拳がおれの腹を打った。ただ、おれには見えていた。ヤツの一連の動きが。小指から各指の根元へ順に薬指から中指へと折り曲げられる右指の第一関節、そこからは先とは逆に人差し指から順に折りたたんでいき仕上げは親指で締める。
人類最古にして最良の武器。それが拳だ。折りたたんだ指は力が抜かれ親指でそっと押えられていて、構えには拘らない。こぶしの配置は自身の肉体に任せた自然の位置。防御の一切を忘れ、重心を前足、拇指球へと集め……打ちこむことだけに集中した。静かで無駄のない破壊の一撃。
「――ッッッ!!!?」
空中で停止した。そしてすぐにボトリとおれは落ちた。叫び声とか呻くとかじゃない。目をこれでもかといっぱいいっぱいに開き、半開きになる口。無意識に手は打たれた腹を押えているもののどうにもならない。
鍛錬とは苦痛(いたみ)の連続だ。単純なロードワークひとつとっても…焦げ付くような心配の苦痛…………一歩刻みで連続(つづ)いてゆく足首、膝の苦痛……筋力トレーニングはさらに理解(わか)りやすい。まさに筋肉の苦痛と正面から向き合う行為だ。ときには、更なる苦痛が加算され、痛みのその先――やがて意思とは無関係に肉体が果てる。そうしなければ一つの種目が終了しない…………下半身への負荷はさらに苛烈を極める。筋肉が限度を迎えるころ大腿部は着火する………その苦痛は火炎……それ以外の表現が見つからない。
闘争(たたかい)になると事は単純だ。対戦者の五体は――鈍器となり刃となり槍となりつるはしとなり苦痛を与えるため容赦なく襲い来る。鋭く……重く……深く……荒く……硬く……苦痛をくぐりぬけてきた。
苦痛いことが日常……苦痛いからこそ安心……普通(なみ)ではない苦痛への免疫………………があったハズ。
だが、それでも苦痛い。激痛い。鈍痛い。圧痛い。衝痛い。いたい。イタイ。
「お前はすぐに復活するからな、もう対話はなしだ……。完全完膚なきままに……倒しきる。」
どうやら……本気らしい。金剛はドデカイ太股を突きあげて頭に照準を合わせた。象の足の裏を見上げたことはあるだろうか。踏み潰されるアリの気分を味わっていると、カジャジャジャっと重機がスクラップを力任せに押しやるような豪快な音がした。一応いっとくがおれの頭が潰れた音ではない。
金剛も驚いたらしく。上げた脚を地面に戻して、音のした方向に首を振った。
「なるほどねー。引き戸でも押し戸でもなくて、上げ戸だったんだね。なんか、酷くへこんでたから無理矢理あげちゃったよ」
金剛が叫んだ。
「摩耶っ!!」
「やっほー、やーっと追いついたよ」
首を振り上げて巨神の足の間から覗くと確かに摩耶がいる。しかも、おれが全力でぶつかってもビクともしなかった鋼鉄戸を開放している。金剛が吠えた。
「何してやがる!そこを通りたかったら俺を倒してからにしろっ!!」
「あはは、何してるはこっちのセリフだよボケが。なに、人の相手(悠)にトドメ刺そうとしてんだ。テメェこそ順番を守れ。」
怒鳴る金剛に臆することなく摩耶は早足に近づきながら怒鳴り返している。落ち着いてたと思ったら黒状態(クロモード)はいまだ健在らしい。それにしても、金剛に暴言を吐かれるより、摩耶に啖呵を切られながら毒を吐かれる吠えが怖い気がしてならない。金剛の目のまえで摩耶の足が止まった。充分に殴り合える間合いだ。
二人の口げんかは続く。
「順番だと?お前の番は終わっただろっ!!」
「いいや、終わってないね。あんな決着はなしだよ。」
「無しって何だ!充分楽しんでただろお前!」
「「楽しい」と「満足」は違うじゃない。それに言ったでしょ決着に納得してないって」
「だったら俺が終わってからにしろ。」
おれのことなんか忘れてる癖におれの話題での言い合い。まったく、やれやれだぜ。おれはゆっくりと立ち上がって金剛の大きな背中にペトっと足をつけた。
「あん?」
「悪いな金剛。こーゆー形だが……まぁ、さっきいったがチャレンジャー(弱者)は勝つために探るしかない、頼るしかない、誤魔化すしかない。」
「何をいって……」
金剛はハッとなり、おれではなく自分の腹に目を落とした。ほぼ金属に近い肌質の腹筋に小さな手がふたつ当たっている。おれと摩耶はぶ厚い壁を挟んで同時に叫んだ。
「蹴按!!」
「双按!!」
ドグンッ……巨大な心臓が跳ねたような衝撃。一秒、二秒と待ってゆっくりと当てていた足をそっと外して、軽くぶつける。直立不動のまま壁は前に倒れた。