ー夏休み編ー命を燃やせ、今がその時だ
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「わからなくなって来たわ」
九頭竜神姫はモニターの真ん前を陣取ってそう呟いた。
父道玄はその後ろから声をかける。
「なにがわからん」
「圧倒的な実力差、血へど吐いて、顔を潰され簡単に泣いて、誤魔化して騙して、命を捨てる覚悟をもって……手段を選ばず勝ちを拾おうとしてるのになんで鬼状態も龍剄気孔も使わない気でいるのかがわからない。」
敵は強巨、恐らく小鳥遊悠という人間より強い。例え万全な状態だったとしても旗色は悪い。画面越しにでも伝わってくる金剛という男の戦闘能力は自分と近い位置にいる。ただの力という点で見れば凌駕されているだろう。そういう人間がいないわけではない。神姫にだっては父や雲水には逆上がりしても力では勝てないだろう。
そして、もし自分が悠の立場だったなら間違いなく使う。龍剄気孔を、できるのなら鬼状態だって…………。なのに、頑なに使おうとしないのは――神姫の脳裏にひとつの答えが浮かんだ。
「それは違うな」
まるで考えを読んだように声が否定した。誰の声だろうと?神姫は辺りを見回す。こんな声の主は知らない。知らないということは声を聞いたことがない相手、それはつまり普段口をまず開かない男。
察しのいい彼女はすぐに目線をひとりの男に向けて固定した。最初こそ皆とモニターを眺めていたが途中からは飲食すらもせずにずっと大鳳凰像のひざ元で座禅をしていた男の背中。十神将で「冬」を司る老将、冬花夜見。他の面々に比べ目立った所がなく口数も少ない。神姫も名前と顔は知っているものの何か秀でているかは知らなかった。その男がぼそぼそと続ける。
「もう一度使えば死ぬ――」
夜見の言葉に神姫はわずかに身体を揺らした。そう、使わないじゃなく使えなくなっているのだとしたら説明がつく。
「――訳じゃない。むしろ、使って死んだとしてもあのガキは勝ちを拾いに行くはずだ。死んだ鬼状態の真髄はそこにあるのだしな。」
逞しい腕を組んで立ったままモニターを眺めている雲水のぶ厚い胸板が上下した。たぶんうなずいたのだろう。声のボリューム調整がやや壊れている気がする音量で喋り出した。
「お前さんに語られちゃあ困るんだが、確かに『鬼状態(オニモード)』の真髄は命をとして身体能力を向上させる術。更にいうなら『鬼』と化すための術だ。真の意味で人間から抜けた時……『鬼』は完成する。命は有限だ……だが、それはそれだ。有限でないものは無い。だが、死んだから、死ぬ覚悟があるからこそ、そこに立てる――まぁ、死んじまったら終わりなんだがな。がはははっ!」
神姫は肩耳に手を当てて音を遮断しながらいった。
「じゃあ、死なないとわかっててなんで使用(つか)わないの?鬼状態でなくとも翠龍の毒だってあるのだし。」
翠龍の毒ならば使えば反動で全身が重度の筋肉痛と炎症と捻挫にはなるにしろ、今の状態で命をすり減らす鬼状態よりはいいはずだ。まぁ、乱用すれば血管や筋肉が耐えられずに破裂したり断裂したりする場合もあるのだが。
誰にでもなく問いかけた神姫に返答したのは夜見だった。
「使えないわけでなく、使わない……ということは既に答えはでている。」
「冬花さん、今なぞなぞをする気は無いの質問に答えてくださいますか?」
「ふふっ、答えは出ているといっておるだろ。龍と鬼を使うより、その上にあるものを使っているそれだけだ。」
「より強いもの……?」
神姫は首をかしげた。英明で勘のいい彼女でも疑問する。龍、つまりは龍剄気孔、鬼、つまりは鬼状態。格闘技という枠でなく、常識を超えた先にある、神がかり的な武術。自分がしている限り鬼と龍を超えるものは知らない。そして、あえていうのなら対摩耶戦の時に悠が使った翠龍の毒と鬼状態を併用したものだが、ソレではない。やはり答えが出ずに考え込んでしまう。
「まぁ、お嬢ちゃんにゃわっかんねーだろうな。」
「猿渡さん?」
こじゃれたガラス製のピッチャーグラスを掲げて中のウィスキー飲んでいる姿が、まるでヤカンを持って中のお茶を飲む猿にしか見えない。
顔を真っ赤にしてご機嫌に猿渡東はいった。
ちなみにこの男は酔った「フリ」をして抱きついたりする常習犯なので常に動きには目を光らせておく必要がある。
「お嬢ちゃんも話には聞いてるはずだが、実際に見たことねぇいから答えを無意識に外しちゃってんだろ。」
「……どういう意味です?皆さんは分かってるんですか?」
猿渡はモニターを指さした。
「これは誰だ?」
「小鳥遊悠でしょ」
「そうだ。小鳥遊悠だぜ。ムカつくくらいちょ~強ぇ~くそ爺、小鳥遊弥一の孫だ。濃ぉぉ~い血がこの男には流れてるだろ。龍を屠り、鬼をねじ伏せる化け物が小鳥遊弥一だ。あるがままで強い、多分やつの中では何かが弾けて小鳥遊の血が絶好調になったんだろぉなぁ。」
「翠龍の毒よりも鬼状態よりも、小鳥遊悠という個が強くなったというの……?」
神姫は十神将の面々を眺めてから、モニターに視線を戻す。絶望的圧倒的に不利な状況で笑っている悠。
「恋は落ちるものよ?」
そう囁く声とともに背後から腕が伸びてきて神姫を抱き締めた。しかし、彼女は言った。
「違いますわ。落とものです」
神姫はクールに笑った。
九頭竜神姫はモニターの真ん前を陣取ってそう呟いた。
父道玄はその後ろから声をかける。
「なにがわからん」
「圧倒的な実力差、血へど吐いて、顔を潰され簡単に泣いて、誤魔化して騙して、命を捨てる覚悟をもって……手段を選ばず勝ちを拾おうとしてるのになんで鬼状態も龍剄気孔も使わない気でいるのかがわからない。」
敵は強巨、恐らく小鳥遊悠という人間より強い。例え万全な状態だったとしても旗色は悪い。画面越しにでも伝わってくる金剛という男の戦闘能力は自分と近い位置にいる。ただの力という点で見れば凌駕されているだろう。そういう人間がいないわけではない。神姫にだっては父や雲水には逆上がりしても力では勝てないだろう。
そして、もし自分が悠の立場だったなら間違いなく使う。龍剄気孔を、できるのなら鬼状態だって…………。なのに、頑なに使おうとしないのは――神姫の脳裏にひとつの答えが浮かんだ。
「それは違うな」
まるで考えを読んだように声が否定した。誰の声だろうと?神姫は辺りを見回す。こんな声の主は知らない。知らないということは声を聞いたことがない相手、それはつまり普段口をまず開かない男。
察しのいい彼女はすぐに目線をひとりの男に向けて固定した。最初こそ皆とモニターを眺めていたが途中からは飲食すらもせずにずっと大鳳凰像のひざ元で座禅をしていた男の背中。十神将で「冬」を司る老将、冬花夜見。他の面々に比べ目立った所がなく口数も少ない。神姫も名前と顔は知っているものの何か秀でているかは知らなかった。その男がぼそぼそと続ける。
「もう一度使えば死ぬ――」
夜見の言葉に神姫はわずかに身体を揺らした。そう、使わないじゃなく使えなくなっているのだとしたら説明がつく。
「――訳じゃない。むしろ、使って死んだとしてもあのガキは勝ちを拾いに行くはずだ。死んだ鬼状態の真髄はそこにあるのだしな。」
逞しい腕を組んで立ったままモニターを眺めている雲水のぶ厚い胸板が上下した。たぶんうなずいたのだろう。声のボリューム調整がやや壊れている気がする音量で喋り出した。
「お前さんに語られちゃあ困るんだが、確かに『鬼状態(オニモード)』の真髄は命をとして身体能力を向上させる術。更にいうなら『鬼』と化すための術だ。真の意味で人間から抜けた時……『鬼』は完成する。命は有限だ……だが、それはそれだ。有限でないものは無い。だが、死んだから、死ぬ覚悟があるからこそ、そこに立てる――まぁ、死んじまったら終わりなんだがな。がはははっ!」
神姫は肩耳に手を当てて音を遮断しながらいった。
「じゃあ、死なないとわかっててなんで使用(つか)わないの?鬼状態でなくとも翠龍の毒だってあるのだし。」
翠龍の毒ならば使えば反動で全身が重度の筋肉痛と炎症と捻挫にはなるにしろ、今の状態で命をすり減らす鬼状態よりはいいはずだ。まぁ、乱用すれば血管や筋肉が耐えられずに破裂したり断裂したりする場合もあるのだが。
誰にでもなく問いかけた神姫に返答したのは夜見だった。
「使えないわけでなく、使わない……ということは既に答えはでている。」
「冬花さん、今なぞなぞをする気は無いの質問に答えてくださいますか?」
「ふふっ、答えは出ているといっておるだろ。龍と鬼を使うより、その上にあるものを使っているそれだけだ。」
「より強いもの……?」
神姫は首をかしげた。英明で勘のいい彼女でも疑問する。龍、つまりは龍剄気孔、鬼、つまりは鬼状態。格闘技という枠でなく、常識を超えた先にある、神がかり的な武術。自分がしている限り鬼と龍を超えるものは知らない。そして、あえていうのなら対摩耶戦の時に悠が使った翠龍の毒と鬼状態を併用したものだが、ソレではない。やはり答えが出ずに考え込んでしまう。
「まぁ、お嬢ちゃんにゃわっかんねーだろうな。」
「猿渡さん?」
こじゃれたガラス製のピッチャーグラスを掲げて中のウィスキー飲んでいる姿が、まるでヤカンを持って中のお茶を飲む猿にしか見えない。
顔を真っ赤にしてご機嫌に猿渡東はいった。
ちなみにこの男は酔った「フリ」をして抱きついたりする常習犯なので常に動きには目を光らせておく必要がある。
「お嬢ちゃんも話には聞いてるはずだが、実際に見たことねぇいから答えを無意識に外しちゃってんだろ。」
「……どういう意味です?皆さんは分かってるんですか?」
猿渡はモニターを指さした。
「これは誰だ?」
「小鳥遊悠でしょ」
「そうだ。小鳥遊悠だぜ。ムカつくくらいちょ~強ぇ~くそ爺、小鳥遊弥一の孫だ。濃ぉぉ~い血がこの男には流れてるだろ。龍を屠り、鬼をねじ伏せる化け物が小鳥遊弥一だ。あるがままで強い、多分やつの中では何かが弾けて小鳥遊の血が絶好調になったんだろぉなぁ。」
「翠龍の毒よりも鬼状態よりも、小鳥遊悠という個が強くなったというの……?」
神姫は十神将の面々を眺めてから、モニターに視線を戻す。絶望的圧倒的に不利な状況で笑っている悠。
「恋は落ちるものよ?」
そう囁く声とともに背後から腕が伸びてきて神姫を抱き締めた。しかし、彼女は言った。
「違いますわ。落とものです」
神姫はクールに笑った。