ー夏休み編ー命を燃やせ、今がその時だ
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日本人でありながら稀代の中国拳法家として名を馳せる達人、澤井健一氏がこんな言葉を残している。
野球の投手が投げるような柔らかさと手の振りで相手の顔を正面から打ったなら大変な攻撃となる。
目も鼻も一度に打たれて相手が見えなくなるほど涙が出るだろう。
佐藤嘉道著書「拳聖澤井健一先生」より
巨拳……ではなく、巨手。岩肌から無理矢理切り出した岩石の塊のようだった巨人のこぶしが、ふっと花開くみたいに広がる。金属から肉へと変貌を遂げて振り降りてきたそれはおれの顔面を余裕で覆い尽くして潰してきた。肉厚で勢いがあって鞭のしなりを思わせる打撃に顔が破裂したのではないかと一瞬思った。そして次の瞬間には「痛い」という思考しか沸いてこなくなる。
目から鼻から口からおびただしいほどの体液が流出し、スタンガンでも押し付けられ続けているようにビリビリとした痛みが走りつづける。
立ってることが出来ずに後ろに倒れそうになるも、掴まれた肩一本で支え止められてしまう。
「もう一発だ」
再び、金剛の腕が持ちあがって振り降りた。ビャッ!!といっていいのか……どうにもどんな音なのか表現できないがとにかく人の顔を叩いたとは思えない音がした。
「ぎ……ゃっぁ……!!」
「間違っちゃいねぇぜ……悠。使用(つか)うのは筋肉(にく)じゃねぇんだ……使用うのは筋肉に淀む肉の意思!!!」
三度目の打撃がたぶん一番痛かった。まぁ、どれも痛すぎてなにがどう痛いのかが分からなくなっていたんだが、前からぶつかった衝撃が頭を通って後頭部から突き抜けていく感覚。掴まれていた肩も離されたらしい。そのまま地面へと叩きつけられる。
後頭部が地面にぶつかっても衝撃は分散し切れず全身が大きくバウンドした水切り石のように跳ねてようやく停止する。
打撃による生体反応か己の無力への落胆か…………夥しい涙にまみれ…………おれは静かに決意するしかなかった。喧嘩どころではない格闘(たたか)わねば……。
「はぁぁ……ぁぁっ……ずずっ……ぁっ」
立つ。まずは立ち上がれ。口から鼻から滝のように血を落としつつおれは立ちあがった。
「んんっ……ぶーーーっ!ぶーーーっ!」
口と鼻を両手で覆って鼻をかむ要領で全部を吐きだす。手の中いっぱいに血液、鼻水、唾液、痰、肉片……ぐちゃぐちゃになったものが溜まったので投げ捨てる。べちゃべちゃになった手のひらをズボンになすりつけながら言った。
「顔じゅういてぇし、うまくしゃへれん。っか、みへ見ろよこへ。ばんてーじがべたべた」
拭き終わった手を広げてヤツに見せた。
「バンテージじゃなくて破ったパンツだろ」
「血にまひれてふぁんかネバネバひたたいへきにまみれのパンツとかまにあっくひゃね?」
「お前……目見えてるのか」
ヤツの打撃は顔全部を覆っていた。当然目も潰れるほど痛い左だけは……。現に今だって多分眼球の毛細血管が裂けたのか左に映るもの全てが赤く染まっている。金剛はジッとおれの顔をみていった。
「なるほど……叩きつけの手応えにほんのわずかな違和感があった。あの状況で庇い避けてたのか右目を。」
「へへっ……ぜんひゅ……んんっ、ぺっ……全部見えなくなったらお前の顔が見えなくなったらイヤだからな。」
「まだ、萎えちゃいないようだな」
「萎える?ひゃはは……まさか、びんびんだよ。」
両手を掲げて頂点で叩く。パンッと良い音がした。耳も聞こえてる。
「それもなにかの手品か?」
「鼓舞だよ。自分に対してのな。今おれの目のまえに居る男と渡り合うためには覚悟がいる。それも安い覚悟じゃダメだ。本当に命を捨てる覚悟をなっ!!」
金剛の片眉がつり上がる。
「結局……ソレか鬼状態か。」
「いいや、違うね。鬼状態でも龍剄気孔でもない。小鳥遊悠という「全おれ」でお前と闘ってる。まぁ……鬼状態と龍剄気孔も使った。それだっておれの一部だ、だってそうだろ……はい、スタートで殴りあって勝てるなら初めからそうしてる。それが出来ない以上――こうする他ない。探すしかない、探るしかない。弱者(チャレンジャー)の闘い方はこれだ。誤魔化して騙してお前に挑む。……それを、許して欲しい。」
おれは頭をヤツにしか分からない程度に下げた。突然の謝罪に金剛は面食らった。それでも表情は微動だにしなかった。それどころか今までより、明らかに闘争心が上がったのを肌で感じる。おれは続けた。
「命がいらないっていったて「怖い」ってのはあるんだな。お前と対峙して……今さら震える。」
膝が肩が歯の根が震えなりそうになる。それでも前に踏み出そうとするが身体が重い。ここに来て、ここまで来て、ここからというときに恐怖に竦んでるというのか。
恐怖は匂う。それは強者であり戦闘経験豊富な金剛は容易に嗅ぎつけた。だからだろうか、それをあえて口にする。
「お前が……悠、お前は俺にはなれない。おまえは俺にはなれない。だから自信を持って闘え。この残酷な世の中で生きていく術だろ。地球上でただ一個の我だ。ただ一個の誇りを持って闘え!この世界は基本的にはくだらない、そしておまえの人生がもし最悪になったとしてもお前の場合は『小鳥遊悠だ!』という『誇り』を持って…………生きていけばいい。弱いお前ならなおさらだ、そしたらな……」
楽しいぞ。
「………………ハハ」
「こい、小鳥遊悠」
「行くぜ、金剛!」
身体が軽い……!!
野球の投手が投げるような柔らかさと手の振りで相手の顔を正面から打ったなら大変な攻撃となる。
目も鼻も一度に打たれて相手が見えなくなるほど涙が出るだろう。
佐藤嘉道著書「拳聖澤井健一先生」より
巨拳……ではなく、巨手。岩肌から無理矢理切り出した岩石の塊のようだった巨人のこぶしが、ふっと花開くみたいに広がる。金属から肉へと変貌を遂げて振り降りてきたそれはおれの顔面を余裕で覆い尽くして潰してきた。肉厚で勢いがあって鞭のしなりを思わせる打撃に顔が破裂したのではないかと一瞬思った。そして次の瞬間には「痛い」という思考しか沸いてこなくなる。
目から鼻から口からおびただしいほどの体液が流出し、スタンガンでも押し付けられ続けているようにビリビリとした痛みが走りつづける。
立ってることが出来ずに後ろに倒れそうになるも、掴まれた肩一本で支え止められてしまう。
「もう一発だ」
再び、金剛の腕が持ちあがって振り降りた。ビャッ!!といっていいのか……どうにもどんな音なのか表現できないがとにかく人の顔を叩いたとは思えない音がした。
「ぎ……ゃっぁ……!!」
「間違っちゃいねぇぜ……悠。使用(つか)うのは筋肉(にく)じゃねぇんだ……使用うのは筋肉に淀む肉の意思!!!」
三度目の打撃がたぶん一番痛かった。まぁ、どれも痛すぎてなにがどう痛いのかが分からなくなっていたんだが、前からぶつかった衝撃が頭を通って後頭部から突き抜けていく感覚。掴まれていた肩も離されたらしい。そのまま地面へと叩きつけられる。
後頭部が地面にぶつかっても衝撃は分散し切れず全身が大きくバウンドした水切り石のように跳ねてようやく停止する。
打撃による生体反応か己の無力への落胆か…………夥しい涙にまみれ…………おれは静かに決意するしかなかった。喧嘩どころではない格闘(たたか)わねば……。
「はぁぁ……ぁぁっ……ずずっ……ぁっ」
立つ。まずは立ち上がれ。口から鼻から滝のように血を落としつつおれは立ちあがった。
「んんっ……ぶーーーっ!ぶーーーっ!」
口と鼻を両手で覆って鼻をかむ要領で全部を吐きだす。手の中いっぱいに血液、鼻水、唾液、痰、肉片……ぐちゃぐちゃになったものが溜まったので投げ捨てる。べちゃべちゃになった手のひらをズボンになすりつけながら言った。
「顔じゅういてぇし、うまくしゃへれん。っか、みへ見ろよこへ。ばんてーじがべたべた」
拭き終わった手を広げてヤツに見せた。
「バンテージじゃなくて破ったパンツだろ」
「血にまひれてふぁんかネバネバひたたいへきにまみれのパンツとかまにあっくひゃね?」
「お前……目見えてるのか」
ヤツの打撃は顔全部を覆っていた。当然目も潰れるほど痛い左だけは……。現に今だって多分眼球の毛細血管が裂けたのか左に映るもの全てが赤く染まっている。金剛はジッとおれの顔をみていった。
「なるほど……叩きつけの手応えにほんのわずかな違和感があった。あの状況で庇い避けてたのか右目を。」
「へへっ……ぜんひゅ……んんっ、ぺっ……全部見えなくなったらお前の顔が見えなくなったらイヤだからな。」
「まだ、萎えちゃいないようだな」
「萎える?ひゃはは……まさか、びんびんだよ。」
両手を掲げて頂点で叩く。パンッと良い音がした。耳も聞こえてる。
「それもなにかの手品か?」
「鼓舞だよ。自分に対してのな。今おれの目のまえに居る男と渡り合うためには覚悟がいる。それも安い覚悟じゃダメだ。本当に命を捨てる覚悟をなっ!!」
金剛の片眉がつり上がる。
「結局……ソレか鬼状態か。」
「いいや、違うね。鬼状態でも龍剄気孔でもない。小鳥遊悠という「全おれ」でお前と闘ってる。まぁ……鬼状態と龍剄気孔も使った。それだっておれの一部だ、だってそうだろ……はい、スタートで殴りあって勝てるなら初めからそうしてる。それが出来ない以上――こうする他ない。探すしかない、探るしかない。弱者(チャレンジャー)の闘い方はこれだ。誤魔化して騙してお前に挑む。……それを、許して欲しい。」
おれは頭をヤツにしか分からない程度に下げた。突然の謝罪に金剛は面食らった。それでも表情は微動だにしなかった。それどころか今までより、明らかに闘争心が上がったのを肌で感じる。おれは続けた。
「命がいらないっていったて「怖い」ってのはあるんだな。お前と対峙して……今さら震える。」
膝が肩が歯の根が震えなりそうになる。それでも前に踏み出そうとするが身体が重い。ここに来て、ここまで来て、ここからというときに恐怖に竦んでるというのか。
恐怖は匂う。それは強者であり戦闘経験豊富な金剛は容易に嗅ぎつけた。だからだろうか、それをあえて口にする。
「お前が……悠、お前は俺にはなれない。おまえは俺にはなれない。だから自信を持って闘え。この残酷な世の中で生きていく術だろ。地球上でただ一個の我だ。ただ一個の誇りを持って闘え!この世界は基本的にはくだらない、そしておまえの人生がもし最悪になったとしてもお前の場合は『小鳥遊悠だ!』という『誇り』を持って…………生きていけばいい。弱いお前ならなおさらだ、そしたらな……」
楽しいぞ。
「………………ハハ」
「こい、小鳥遊悠」
「行くぜ、金剛!」
身体が軽い……!!