ー夏休み編ー命を燃やせ、今がその時だ
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さっき、『消える――』そう発した金剛の言葉に遠巻きに眺めている楓子は首をかしげた。悠が手をあげて何かをいって、半円を描くように飛びこんで殴りかかった……その姿がハッキリ見えていたからだ。
対して、金剛はまだ内心は驚いていた。いきなり目のまえから悠が消えて、意識せぬ方向から現れて殴りかかって来たのだから……。とはいえ奇襲なせいか威力は大したこと無かった。驚きはする、驚くからこそ冷静に対処する。悪魔による徹底した危機反射反応の調教を受けていたからの結果だった。
そしてもうひとり……影子、彼女は何をしてどうなったかが頭では理解できていた。結果だけ言うならば金剛の視線から消えて死角に飛び込んで殴りかかった。しかし、そんなことが可能なのだろうか?答えは不可能。『消える』ことはできない。ならば何をしたのか?『消える』のではなく『消えた』ように思わせたのだ。
人間の判断力を間違ったほうにそらせる手法。判断を誤らせ、見当違いさせ、誤った指図と誤った方向に導く心理的手法……ミスディレクション。悠はフィジカル(身体的)、サイコロジカル(心理的)、タイム(時間)の三種類を一瞬にして操ったのだ。超々高速移動でもワープでも無い。日本では古来より「目にもととまらぬ早業」とか「電光石火の早業」などという慣用語がある。欧米においても、奇術師の手先の器用さをHandisquickerthaneye(手は目より早い)と表現されているが、本当に奇術師の手先はそんなに素早いものなのだろうか?
答えはノー。奇術師の手先は見る人の目をあざむくほど素早いものではない。
よく引用される例で、交番の前で突然走り出す人が怪しまれるのと同様、奇術師のすばやい動作は、見る人に疑惑を植え付ける結果になるだけ。むしろ、ゆったりした動作の中で演技をこなしてしまうことの方が、見る人を騙せる効果的な結果となる場合が多い。
奇術師が見る人の目をあざむくのでなければ、それでは奇術師のテクニックとはいったい何なのか……。奇術の本質は、人工的な「うそ」を「本当」と思いこませる「だましのテクニック(トリック)」にあるが、そのほとんどが見る人、つまり観客の心理をあざむくもので、その代表的なものがミスディレクションなのだ。本筋から観客の目をそらせたり、真相から遠ざけていることをミスディレクションと呼んでいる。ミスディレクションというと、何か大げさな動作をするように思われがちだが、決してそのようなことはない。ゆったりとした動き、自然な動作の中で行うものであって、決して素早く行うものでは無いのだ。
それを踏まえて悠は他人の視線を操ることが上手かった。『月が見えているか?』という言動に『腕をあげて指さす』行動。そして絶妙な時間の捉え方で、ほんのわずかにできるか、出来ないか程度に生まれる金剛の視線の動きに合わせて動き死角に入って殴りかかる。これが『消える技』の正体。相手が注意深く強い者にしか通用しない荒技。以前、神崎獅子丸に使った時より性能は上がっていた。それは影子と出会ったことにより技を完成させたのだ。
彼女の場合は影の薄さと他人の死角を把握する認識能力が幸か不幸か身についてしまった上、それに加えて悠と同様にミスディレクションで自身を見えなくしている。それが彼女の技術の正体。だからこそ……悠のやったことが頭では理解できたのだ。
「ちっ……マジで困ったな。」
今の一連の攻防で思ってしまった。評価するとしたら……『消える技』を使えるおれじゃなくて、そんな技に対応した金剛を賞賛すべきだろうと……。初見殺しというレベルの技を止めてくれる。この男をどうすればいいのか考えれば考えるほど笑いそうになっちまう。
「おい、顔がにやけてっぞ。」
「笑ってねーよ!」
「そうか、それで……?」
「で?」
おれは問いかけの意図が分からず首をかしげた。
「テメェのワザ(手品)は使い切ったのかって聞いてんだよ。出し終わったんなら殴り合いだ。てっとり早くな」
笑わせてくれるよな。『殴り合い』なんて殴りあえるとか思ってんのかよ。
「へっ、手札はまだあるんだよ。」
「じゃあ、使え。それを使いきって勝てなかった時が……最期だ。」
あぁ、マジだ。今ので金剛のスイッチを押しちゃったらしい。だったら、こっちも集中だ。原点回帰、単純に威力のあるおれらしいやり方をする。かいなの力を抜いて歩く。今日この日だけで何度目だったか忘れた……真向勝負。巨人の前に立つ。手を伸ばしあえば互いに当てれる必殺の間合いだ。
おれは満を持していった。
「パンチ、打ってみろよ」
「それかぁ……!」
金剛は笑う口角を吊り上げて悪魔染みた笑みで。そして、睨みあったまま火ぶたを切るようにヤツは動いた。なんの細工もない弩直球のストレート。しかし、おれの蹴りのが僅かに早かった。飛びあがって金剛の顔を蹴りつける。超至近距離ソバットがさく裂した。
「ぐっ……だが、それで俺は倒せんぞっ!!」
顔面を蹴られて金剛は後退し傾くも踏ん張って身体を固定して、腕を大きく内側に振るって横から打ちつけてきた、ヤツにとってはカトンボを叩き落とすのと同じらしい。横っ飛びなりながら思った。それでもいい、吹き飛びながらおれは右手で地面を叩いた。ブレーキがかかって身体が一回転した。重心を下半身に落として着地に成功する。しかし、当たればその部分が壊れる必殺パンチだ。腹の中から込み上がって来た血液が口の端からこぼれ出る。
「んつ………べっっ。胃の中が空っぽすぎて血しかでねーでやんの、ぺっ……貧血になりそうだ。」
「フンッ……。こっちは鼻の通りが良くなったぜ」
血痰を吐きだすおれを見ながら金剛は鼻の穴を片方抑えて鼻血を吹きだす。ソレを終えると元通り傷一つ付かないとはこのことだな。やっぱりゼロ距離戦しかないなこりゃ……。
対して、金剛はまだ内心は驚いていた。いきなり目のまえから悠が消えて、意識せぬ方向から現れて殴りかかって来たのだから……。とはいえ奇襲なせいか威力は大したこと無かった。驚きはする、驚くからこそ冷静に対処する。悪魔による徹底した危機反射反応の調教を受けていたからの結果だった。
そしてもうひとり……影子、彼女は何をしてどうなったかが頭では理解できていた。結果だけ言うならば金剛の視線から消えて死角に飛び込んで殴りかかった。しかし、そんなことが可能なのだろうか?答えは不可能。『消える』ことはできない。ならば何をしたのか?『消える』のではなく『消えた』ように思わせたのだ。
人間の判断力を間違ったほうにそらせる手法。判断を誤らせ、見当違いさせ、誤った指図と誤った方向に導く心理的手法……ミスディレクション。悠はフィジカル(身体的)、サイコロジカル(心理的)、タイム(時間)の三種類を一瞬にして操ったのだ。超々高速移動でもワープでも無い。日本では古来より「目にもととまらぬ早業」とか「電光石火の早業」などという慣用語がある。欧米においても、奇術師の手先の器用さをHandisquickerthaneye(手は目より早い)と表現されているが、本当に奇術師の手先はそんなに素早いものなのだろうか?
答えはノー。奇術師の手先は見る人の目をあざむくほど素早いものではない。
よく引用される例で、交番の前で突然走り出す人が怪しまれるのと同様、奇術師のすばやい動作は、見る人に疑惑を植え付ける結果になるだけ。むしろ、ゆったりした動作の中で演技をこなしてしまうことの方が、見る人を騙せる効果的な結果となる場合が多い。
奇術師が見る人の目をあざむくのでなければ、それでは奇術師のテクニックとはいったい何なのか……。奇術の本質は、人工的な「うそ」を「本当」と思いこませる「だましのテクニック(トリック)」にあるが、そのほとんどが見る人、つまり観客の心理をあざむくもので、その代表的なものがミスディレクションなのだ。本筋から観客の目をそらせたり、真相から遠ざけていることをミスディレクションと呼んでいる。ミスディレクションというと、何か大げさな動作をするように思われがちだが、決してそのようなことはない。ゆったりとした動き、自然な動作の中で行うものであって、決して素早く行うものでは無いのだ。
それを踏まえて悠は他人の視線を操ることが上手かった。『月が見えているか?』という言動に『腕をあげて指さす』行動。そして絶妙な時間の捉え方で、ほんのわずかにできるか、出来ないか程度に生まれる金剛の視線の動きに合わせて動き死角に入って殴りかかる。これが『消える技』の正体。相手が注意深く強い者にしか通用しない荒技。以前、神崎獅子丸に使った時より性能は上がっていた。それは影子と出会ったことにより技を完成させたのだ。
彼女の場合は影の薄さと他人の死角を把握する認識能力が幸か不幸か身についてしまった上、それに加えて悠と同様にミスディレクションで自身を見えなくしている。それが彼女の技術の正体。だからこそ……悠のやったことが頭では理解できたのだ。
「ちっ……マジで困ったな。」
今の一連の攻防で思ってしまった。評価するとしたら……『消える技』を使えるおれじゃなくて、そんな技に対応した金剛を賞賛すべきだろうと……。初見殺しというレベルの技を止めてくれる。この男をどうすればいいのか考えれば考えるほど笑いそうになっちまう。
「おい、顔がにやけてっぞ。」
「笑ってねーよ!」
「そうか、それで……?」
「で?」
おれは問いかけの意図が分からず首をかしげた。
「テメェのワザ(手品)は使い切ったのかって聞いてんだよ。出し終わったんなら殴り合いだ。てっとり早くな」
笑わせてくれるよな。『殴り合い』なんて殴りあえるとか思ってんのかよ。
「へっ、手札はまだあるんだよ。」
「じゃあ、使え。それを使いきって勝てなかった時が……最期だ。」
あぁ、マジだ。今ので金剛のスイッチを押しちゃったらしい。だったら、こっちも集中だ。原点回帰、単純に威力のあるおれらしいやり方をする。かいなの力を抜いて歩く。今日この日だけで何度目だったか忘れた……真向勝負。巨人の前に立つ。手を伸ばしあえば互いに当てれる必殺の間合いだ。
おれは満を持していった。
「パンチ、打ってみろよ」
「それかぁ……!」
金剛は笑う口角を吊り上げて悪魔染みた笑みで。そして、睨みあったまま火ぶたを切るようにヤツは動いた。なんの細工もない弩直球のストレート。しかし、おれの蹴りのが僅かに早かった。飛びあがって金剛の顔を蹴りつける。超至近距離ソバットがさく裂した。
「ぐっ……だが、それで俺は倒せんぞっ!!」
顔面を蹴られて金剛は後退し傾くも踏ん張って身体を固定して、腕を大きく内側に振るって横から打ちつけてきた、ヤツにとってはカトンボを叩き落とすのと同じらしい。横っ飛びなりながら思った。それでもいい、吹き飛びながらおれは右手で地面を叩いた。ブレーキがかかって身体が一回転した。重心を下半身に落として着地に成功する。しかし、当たればその部分が壊れる必殺パンチだ。腹の中から込み上がって来た血液が口の端からこぼれ出る。
「んつ………べっっ。胃の中が空っぽすぎて血しかでねーでやんの、ぺっ……貧血になりそうだ。」
「フンッ……。こっちは鼻の通りが良くなったぜ」
血痰を吐きだすおれを見ながら金剛は鼻の穴を片方抑えて鼻血を吹きだす。ソレを終えると元通り傷一つ付かないとはこのことだな。やっぱりゼロ距離戦しかないなこりゃ……。