ー夏休み編ー命を燃やせ、今がその時だ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目の中でちかちかとした光が泳いでいる。
幻覚、幻視、あるいは本当に発光体が飛んでいるのか……。そんなわけがない。おれは一歩後づさる。膝が笑っている。これは脳が起こす現象だ。軽度の脳震盪、あるいは酸素不足による酸欠。殴られ過ぎてパンチドランカーになっているのかも知れなかった。一瞬でいい目を閉じてしまいたい。
その動きを見逃さないのが奴だった。
「どうした、ふらついてるぞ」
「昨日の酒が残ってるのかな」
「膝も震えてる」
「武者震いだよ」
馬鹿話を続けるあいだに鼻と口に空気を取り込む、ひと呼吸、ふた呼吸……それに目を閉じる時間もあった。いや、与えてくれてるのだ。コイツは待っている俺が恢復(かいふく)するのを……。灰に溜まった酸素を吐いていった。万全ではないにしろ動く分には問題はない。
「どうした、来ないのかよ?」
「俺から攻める理由はないだろ。」
「はっん、ビビってるのか金剛ちゃん。俺の本気を見せてやるから来なさいよ」
「本気か……」
金剛はそこで言葉を切った。それと同時に顔をしかめたのだ。どこか困惑したような苦笑い。なぜだかは分からない。だが、そのなんともいえない表情を見て俺の中でなにかが爆ぜた。
「なら、こっちから行くぞコラァァ!!」
踏み込む。いや、飛びかかったというのが正解だろう。真向、真一直の最短ルートで敵の懐に飛び込んで力いっぱい固めた拳を打ちつける。一見すれば、両腕を広げた大男の鳩尾に渾身の一撃をぶつけた決定的な勝利の瞬間……。
だが、現実はまるで逆だ。鉄の塊りにでもこぶしをぶつけたみたいに錯覚する。傷をつけるどころか自身のこぶしが壊れるんじゃないかと思うくらいの痛みが走る。しかし、止められない。右を引くと同時に左を打つ、右、左、右左右左右左右……。とにかく両手を振ってこぶしを叩きつけ続けた。
不意に頭の上にピリッと静電気みたいな殺気を感じて左こぶしをぶつけた反動でそのまま金剛の左側面へと飛んだ。ちょうど自分が立っていた位置に岩の塊りみたいな巨拳が落ちる。あのままでいたらどうなっていたかとゾッとした。しかし、それ以上にこの男のダメージの通らなさに恐ろしくなる。脳と心が震えるが身体は逆の働きをした。更なる追い打ちをと右こぶしを固めて横腹を叩いた。内臓と骨の密集した大よそ人間である以上、殴られればただでは済まない位置。そこを狙ったうえでもペキメキっと歪な音を立てるのは俺自身のこぶしだった。
硬いなんて、痛いなんてもんじゃない。まるで歯が立たないと一瞬気が抜けると、金剛の身体が動いた。俺は今度は後ろに飛ぶ、ジュッと鼻先に焼けるような痛みが走った。おそらく肘、鼻先をかすったのだろう。おれは手で押さえながら右足から着地した。雨でぬかるんだ地面にズブズブっとつま先が埋まったが辛うじて立っていられた。
「オラァっ!!」
「くっ?!」
最悪が目のまえを覆う。巨大な隕石の塊りが垂直に飛んで来たと錯覚してしまった。ガードは間に合わない。着地したばかりの足も動かない。さらに不運なことに右手が鼻に触れている。つはり、自分で呼吸軌道を塞いでしまっていた。このまま殴られれば翠龍の毒が解ける。風圧が顔を貫き雨粒が散弾のように弾けた。だが、痛みは来ない。衝撃もだ。なぜか、答えはひとつしかない目の前で止まっていたからだ。破壊の一点にのみ握られた岩のこぶしが停止しているのだ。
俺は一瞬口を開けたままぽかんとアホ面を曝していたことだろう。しかし、すぐに金剛の声が正気に戻してくれた。
「これで決着だ。もういいだろう、悠、引いてくれないか」
「おい、金剛……。」
「お前はとっくに限界だろ。調子に乗るなバカ」
「はっ……はははははっ!金剛よぉ、一体いつからお前は目線だけじゃなく態度までお高い位置から能弁たれるようになったんだよ?それになんだ?この手は?あぁ!!テメーは俺に情けかけて引けってのか!コラ!」
突き付けられたままのこぶしを叩き落とした。しかし、それと同時に奴の左腕が伸びて俺の肩を押す。本当にただ突き飛ばされただけだったが視界が急降下した……そう、俺は尻もちをついたのだ。ぬかるんだ泥に半身が埋まる。水がパンツまでしみ込んできて気持ち悪い。
はるか上空から声が落ちてくる。
「ただ押しただけでも倒れる……。足もガタガタなんだろう。諦めろお前はそれが限界だ。もっとも……摩耶と戦った時が最高潮だったんだろう。オニモードとスイリュウノドク……だったか?はっきりいって素晴らしかったぞ。俺は頭が良くないから単純に身体能力を向上させるって事しか理解してない。それでも、人間には限界がないことをお前は教えてくれた。もし、お前が万全の態勢でここにあらわれてくれてたなら、もしこれが俺とおまえだけの喧嘩だったなら…………どれだけ、どれだけ楽しかっただろうか、どれだけ本気で殴りあえたんだろうな。悠」
勝者の余裕にしては実に悲しみの慈愛に満ちた声だった。
幻覚、幻視、あるいは本当に発光体が飛んでいるのか……。そんなわけがない。おれは一歩後づさる。膝が笑っている。これは脳が起こす現象だ。軽度の脳震盪、あるいは酸素不足による酸欠。殴られ過ぎてパンチドランカーになっているのかも知れなかった。一瞬でいい目を閉じてしまいたい。
その動きを見逃さないのが奴だった。
「どうした、ふらついてるぞ」
「昨日の酒が残ってるのかな」
「膝も震えてる」
「武者震いだよ」
馬鹿話を続けるあいだに鼻と口に空気を取り込む、ひと呼吸、ふた呼吸……それに目を閉じる時間もあった。いや、与えてくれてるのだ。コイツは待っている俺が恢復(かいふく)するのを……。灰に溜まった酸素を吐いていった。万全ではないにしろ動く分には問題はない。
「どうした、来ないのかよ?」
「俺から攻める理由はないだろ。」
「はっん、ビビってるのか金剛ちゃん。俺の本気を見せてやるから来なさいよ」
「本気か……」
金剛はそこで言葉を切った。それと同時に顔をしかめたのだ。どこか困惑したような苦笑い。なぜだかは分からない。だが、そのなんともいえない表情を見て俺の中でなにかが爆ぜた。
「なら、こっちから行くぞコラァァ!!」
踏み込む。いや、飛びかかったというのが正解だろう。真向、真一直の最短ルートで敵の懐に飛び込んで力いっぱい固めた拳を打ちつける。一見すれば、両腕を広げた大男の鳩尾に渾身の一撃をぶつけた決定的な勝利の瞬間……。
だが、現実はまるで逆だ。鉄の塊りにでもこぶしをぶつけたみたいに錯覚する。傷をつけるどころか自身のこぶしが壊れるんじゃないかと思うくらいの痛みが走る。しかし、止められない。右を引くと同時に左を打つ、右、左、右左右左右左右……。とにかく両手を振ってこぶしを叩きつけ続けた。
不意に頭の上にピリッと静電気みたいな殺気を感じて左こぶしをぶつけた反動でそのまま金剛の左側面へと飛んだ。ちょうど自分が立っていた位置に岩の塊りみたいな巨拳が落ちる。あのままでいたらどうなっていたかとゾッとした。しかし、それ以上にこの男のダメージの通らなさに恐ろしくなる。脳と心が震えるが身体は逆の働きをした。更なる追い打ちをと右こぶしを固めて横腹を叩いた。内臓と骨の密集した大よそ人間である以上、殴られればただでは済まない位置。そこを狙ったうえでもペキメキっと歪な音を立てるのは俺自身のこぶしだった。
硬いなんて、痛いなんてもんじゃない。まるで歯が立たないと一瞬気が抜けると、金剛の身体が動いた。俺は今度は後ろに飛ぶ、ジュッと鼻先に焼けるような痛みが走った。おそらく肘、鼻先をかすったのだろう。おれは手で押さえながら右足から着地した。雨でぬかるんだ地面にズブズブっとつま先が埋まったが辛うじて立っていられた。
「オラァっ!!」
「くっ?!」
最悪が目のまえを覆う。巨大な隕石の塊りが垂直に飛んで来たと錯覚してしまった。ガードは間に合わない。着地したばかりの足も動かない。さらに不運なことに右手が鼻に触れている。つはり、自分で呼吸軌道を塞いでしまっていた。このまま殴られれば翠龍の毒が解ける。風圧が顔を貫き雨粒が散弾のように弾けた。だが、痛みは来ない。衝撃もだ。なぜか、答えはひとつしかない目の前で止まっていたからだ。破壊の一点にのみ握られた岩のこぶしが停止しているのだ。
俺は一瞬口を開けたままぽかんとアホ面を曝していたことだろう。しかし、すぐに金剛の声が正気に戻してくれた。
「これで決着だ。もういいだろう、悠、引いてくれないか」
「おい、金剛……。」
「お前はとっくに限界だろ。調子に乗るなバカ」
「はっ……はははははっ!金剛よぉ、一体いつからお前は目線だけじゃなく態度までお高い位置から能弁たれるようになったんだよ?それになんだ?この手は?あぁ!!テメーは俺に情けかけて引けってのか!コラ!」
突き付けられたままのこぶしを叩き落とした。しかし、それと同時に奴の左腕が伸びて俺の肩を押す。本当にただ突き飛ばされただけだったが視界が急降下した……そう、俺は尻もちをついたのだ。ぬかるんだ泥に半身が埋まる。水がパンツまでしみ込んできて気持ち悪い。
はるか上空から声が落ちてくる。
「ただ押しただけでも倒れる……。足もガタガタなんだろう。諦めろお前はそれが限界だ。もっとも……摩耶と戦った時が最高潮だったんだろう。オニモードとスイリュウノドク……だったか?はっきりいって素晴らしかったぞ。俺は頭が良くないから単純に身体能力を向上させるって事しか理解してない。それでも、人間には限界がないことをお前は教えてくれた。もし、お前が万全の態勢でここにあらわれてくれてたなら、もしこれが俺とおまえだけの喧嘩だったなら…………どれだけ、どれだけ楽しかっただろうか、どれだけ本気で殴りあえたんだろうな。悠」
勝者の余裕にしては実に悲しみの慈愛に満ちた声だった。