ー夏休み編ー技と力と策
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
しかし……おれの覚悟は徒労に終わった。有象無象の一切を断ち切らんとする覚悟を持った目でひと睨みするものの、すぐにおれ達が来た道を逆順していってしまう。すれ違いざまの一瞬奴の唇が動いた。
『お前の相手は俺じゃない。』
狩る者は他に獲物がいるらしい。見逃してくれたとはいわないが腹のなかで何かが煮え立つのが分かった。いつでも殺せる、本当なら今すぐにでも殺してやりたい……幾千幾万もの殺意を視線だけでぶつけていった。血で血を洗うおぞましいモノを見たような不愉快な気分のままおれは数分呆然としていた。
「師匠?」
「おい、離せよ」
腕のなかから聴こえる二つの声に我に帰って、おれはカゲコとデコを腕の拘束から解放した。咄嗟のこととはいえ自分でもよく見えないカゲコを捕まえれたものだ。ちなみにふたりの顔は血まみれ。もちろん、おれの血だ。不機嫌に顔を拭っているカゲコに聞いた。
「さっきの男……なにもんだありゃ?」
「アイツは…………」
そこで言葉を切った。考えるように首を少し傾けている。
「えーと、よく分かんない。いつも柏さんの側にいるけど喋ったことねぇし」
正体不明だが柏の側近というわけか、ヤヴァい猟犬を飼っている悪魔だった。あ、むしろ悪魔の飼い犬か……。おれは質問の矛先を変えた。
「デコ、あいつの持ってた長刀って……」
「はい、お察しの通りですやよ。三大刀(さんだいとう)のひと振り『怪』の字を持つ怪刀『月下美人』ですやよ。」
遥か古(いにしえ)……神と魔が争いしときに生まれたという伝説の刀…………等ではなく、小鳥遊家(梔)が管理する怪刀のひとつが『月下美人』。怪刀の由来は、まずその規格外の刀身だ。長いというだけの物なら斬馬刀や太刀も存在する。しかし、月下美人はそれらの刀のような抜き身で使われる日本刀ではない。事実は小説より奇なり。彼の刀は居合を目的とされた構造になっているのだ。長さもさながら全長に見合った重量も有り。素人はもちろんのこと達人とあっても居合抜くことなどまず不可能。
しかし、居合刀という造り故、人ならざるものが使う刀、怪物の刀と噂が達っていつしか怪刀の異名がついた。その曰くをなしにしても異常な刀であることには違いないのだ……。おれが知る限りあんな刀を扱える人間は爺を例外にしたら梔姉さんただひとりのはずだった……。一番の根本を辿ると理由で爺亡き後は
「梔姉さんが……渡したのか?」
「すいませんやよ。詳しい事は……」
申し訳ないという顔をするデコ。仕方ないといえば仕方ないし、当然といえば当然だ。楓子は親父のSPとしてずっと世界各地をまわっていて数年間の事情なんて知る由がない。日本いて近いはずのおれだって知らないことだらけだ。ヘタしたらデコより一族の内情に疎い始末。それになにより、思い返してみれば……一番最初に不門外の禁を破ったのは、このおれだ。
三大刀のひとつ『怪』ではなく『妙』の字を与えられし妙刀『雪月下』。この刀は梔姉さんから、おれへと送ってくれたものなんだが……色々あって昔デコにやったのだ。ふと、そこで思い出して聞いた。
「そういえばさっき……雪月下へし折っちゃったけど……良かったのか?」
「あれはレプリカモデル(模造刀)ですから問題ないですやよ。ただ……光臣殿が持っているのは……」
「本物の月下美人か……。」
怪刀の由来はもうひとつのある。あの刀は伸びる刀だ。その意味を知っている者でも対処するのは難しく、初見なら100%負傷する。
楓子は奴が消えていった闇の中を見る。
「師匠……もし、狙いが摩耶さんだったら。」
あの殺戮者は怪我人だろうと容赦なく斬りかかるだろう。おれのなかで二人が激突するヴィジョンが脳裏を過ぎったが……くぼみから飛び出して前の道を見た。
「いいや、進むぞ。摩耶は対武器の達人だ。お前だって身を持って味わっただろ。」
他人の心配をしてる場合じゃない。おれの敵はまだ二人いるのだ。
「あっ!」
「どした?!」
声をあげるおれにカゲコが身構えた。
「悪い、ちょっとお花つみにいってくる。」
「……っ!!キモイ言い方してんじゃねーぞ!!さっさとしてこいっ!!」
レディの前だからわざわざ表現をぼかしたのに酷い扱いだ。雨でぬれて気が立ってるのかもしれない。おれはそこそこ離れた木陰で用を足した。こんな状況でも縮みあがることなく我が分身は元気だった。元気すぎて……尿が赤い。それも薄赤いじゃなく本当に真っ赤だった。
「内臓に来てるな……」
医者に診てもらわなくてもおれは理解した。これはそのうち本気で死ぬと。
『お前の相手は俺じゃない。』
狩る者は他に獲物がいるらしい。見逃してくれたとはいわないが腹のなかで何かが煮え立つのが分かった。いつでも殺せる、本当なら今すぐにでも殺してやりたい……幾千幾万もの殺意を視線だけでぶつけていった。血で血を洗うおぞましいモノを見たような不愉快な気分のままおれは数分呆然としていた。
「師匠?」
「おい、離せよ」
腕のなかから聴こえる二つの声に我に帰って、おれはカゲコとデコを腕の拘束から解放した。咄嗟のこととはいえ自分でもよく見えないカゲコを捕まえれたものだ。ちなみにふたりの顔は血まみれ。もちろん、おれの血だ。不機嫌に顔を拭っているカゲコに聞いた。
「さっきの男……なにもんだありゃ?」
「アイツは…………」
そこで言葉を切った。考えるように首を少し傾けている。
「えーと、よく分かんない。いつも柏さんの側にいるけど喋ったことねぇし」
正体不明だが柏の側近というわけか、ヤヴァい猟犬を飼っている悪魔だった。あ、むしろ悪魔の飼い犬か……。おれは質問の矛先を変えた。
「デコ、あいつの持ってた長刀って……」
「はい、お察しの通りですやよ。三大刀(さんだいとう)のひと振り『怪』の字を持つ怪刀『月下美人』ですやよ。」
遥か古(いにしえ)……神と魔が争いしときに生まれたという伝説の刀…………等ではなく、小鳥遊家(梔)が管理する怪刀のひとつが『月下美人』。怪刀の由来は、まずその規格外の刀身だ。長いというだけの物なら斬馬刀や太刀も存在する。しかし、月下美人はそれらの刀のような抜き身で使われる日本刀ではない。事実は小説より奇なり。彼の刀は居合を目的とされた構造になっているのだ。長さもさながら全長に見合った重量も有り。素人はもちろんのこと達人とあっても居合抜くことなどまず不可能。
しかし、居合刀という造り故、人ならざるものが使う刀、怪物の刀と噂が達っていつしか怪刀の異名がついた。その曰くをなしにしても異常な刀であることには違いないのだ……。おれが知る限りあんな刀を扱える人間は爺を例外にしたら梔姉さんただひとりのはずだった……。一番の根本を辿ると理由で爺亡き後は
「梔姉さんが……渡したのか?」
「すいませんやよ。詳しい事は……」
申し訳ないという顔をするデコ。仕方ないといえば仕方ないし、当然といえば当然だ。楓子は親父のSPとしてずっと世界各地をまわっていて数年間の事情なんて知る由がない。日本いて近いはずのおれだって知らないことだらけだ。ヘタしたらデコより一族の内情に疎い始末。それになにより、思い返してみれば……一番最初に不門外の禁を破ったのは、このおれだ。
三大刀のひとつ『怪』ではなく『妙』の字を与えられし妙刀『雪月下』。この刀は梔姉さんから、おれへと送ってくれたものなんだが……色々あって昔デコにやったのだ。ふと、そこで思い出して聞いた。
「そういえばさっき……雪月下へし折っちゃったけど……良かったのか?」
「あれはレプリカモデル(模造刀)ですから問題ないですやよ。ただ……光臣殿が持っているのは……」
「本物の月下美人か……。」
怪刀の由来はもうひとつのある。あの刀は伸びる刀だ。その意味を知っている者でも対処するのは難しく、初見なら100%負傷する。
楓子は奴が消えていった闇の中を見る。
「師匠……もし、狙いが摩耶さんだったら。」
あの殺戮者は怪我人だろうと容赦なく斬りかかるだろう。おれのなかで二人が激突するヴィジョンが脳裏を過ぎったが……くぼみから飛び出して前の道を見た。
「いいや、進むぞ。摩耶は対武器の達人だ。お前だって身を持って味わっただろ。」
他人の心配をしてる場合じゃない。おれの敵はまだ二人いるのだ。
「あっ!」
「どした?!」
声をあげるおれにカゲコが身構えた。
「悪い、ちょっとお花つみにいってくる。」
「……っ!!キモイ言い方してんじゃねーぞ!!さっさとしてこいっ!!」
レディの前だからわざわざ表現をぼかしたのに酷い扱いだ。雨でぬれて気が立ってるのかもしれない。おれはそこそこ離れた木陰で用を足した。こんな状況でも縮みあがることなく我が分身は元気だった。元気すぎて……尿が赤い。それも薄赤いじゃなく本当に真っ赤だった。
「内臓に来てるな……」
医者に診てもらわなくてもおれは理解した。これはそのうち本気で死ぬと。