ー夏休み編ー技と力と策
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春のビオプラートドームから脱出して、数分もしないうちに雨が顔をうち視界を阻めてくきた。雨は嫌いじゃない、むしろ好きな天候ではあるが、今の状況だと恵みの雨じゃなく、削りの雨だ。おれはいった。
「どーなってる、天気予報だと一週間はカンカン照り予報で、最高気温更新記録に貢献します宣言してなかったか?」
自分より少し前を走るデコがいった。結構な雨脚なので声を張っている。
「ここらは海域の関係で昼間暑すぎると夜に雨が降るんですやよ。朝方には止みますが、どーしますやよ?」
じゃあ、ちょっと雨宿りしていようなんて言うわけがない。こうしている間にもおれのなかでは体力が激減していっている。ガソリンタンクに穴が開いて走っている車と同じだ。自分の身体は自分が良く分かっている。さっきから両足の足首から脹脛にかけてプップッという音がして何かが切れていっている。皮下出血が外まで滲み出て血液と汗が混ざり合ってぬるぬるとした体液が流れ落ちていることを……。
この満身創痍無身体で果たして金剛と闘りあえるのだろうか……余計なことを考えているとおれはすっ転んだ。頭からぶっ倒れると思ったが誰かがおれの腕を掴んだらしく中途半端な浮遊感に苛まれた。
「あ・ぶ・っ・ねぇ~~っ……!!」
カゲコだ。存在を今の今まで忘れていたがついてきていたらしい。両手で引っ掴んで全力でおれを引っ張って支えようとしているが……体重差があり過ぎて結局おれは自分で手をついて起き上った。
「おう。すまん、助かったわ。」
「お前……実はめちゃくちゃヤバいだろっ!」
雨の中、年下の少女に怒鳴られるという貴重な体験だが、脚を止めて言い合いするほど時間に余裕は無いので走りながら離せと顎をしゃくった。一瞬顔をしかめたが、おれが走りだすと奴もしっかりと着いてくる。
「聞いてんのかよ!お前、手の血もとまってねーじゃん!」
「聞いてるし、血は止まってる。これは乾いた血が雨と汗で溶けただけだ。」
実際、おれの両腕はズタズタに切れたり裂けたりはしていた。弾針剄と風障壁の連投による衝撃と摩擦の前に人間の皮膚など、タワシでジャガイモの身を擦るが如くズルズルになってしまう。恐らく……全力全開(ガチガチ)で撃てる弾針剄は多くても五発。その数でこの先必ず待っているであろう金剛を倒し切れるかどうか……。
「……おい、大丈夫なのか?」
人の顔色をうかがうのは得意な様だ。不安な気配を感じ取ったのかカゲコは心配そうに声をかけて来た。カゲコのくせに……。
「なに、心配してくれてんのか?優しいじゃん」
「ばっ、馬鹿っじゃねーの!お前の心配なんかしてねぇーし!こんなところで倒れられたりしたら迷惑だからいってるだけだしーっ!」
カゲコはそっぽを向くと闇と同化した。消えた……ように見えるが、消えていない。姿こそ晦ましているが音、足音は聞こえる。おれがカゲの位置を正確に把握している理由は匂いと音だ。この雨と自分の血の臭いで鼻ではもう探れない。そして足音だって消そうと思えばカゲコは消せるはず。そうすればもうおれからのアプローチは出来ない。このことに気が付いていないのだろうかそれとも、カゲコ自体が柏の策のひとつなのか……読み切れない。一抹の不安は消えず夜の森を走り続けていると、少し前を行くデコの歩みが止まった。おれも止まる。
「どうした?」
「師匠……なにか、近づいてきてますやよ。」
「あー?」
デコの横に並ぶとドスッと白銀の刃が心臓を貫いた。四肢を切断され、最後に首を切り落とされる。そんなヴィジョンが脳裏をよぎった。
俺は脊髄反射的に、生理的に、デコとカゲコの腕を引っ掴んで少しくぼみになっている地面へと飛び込んだ。暴れそうになる少女二人の身体を両腕で抱いて口を手で抑え込んだ。俺も呼吸を止める。皮膚に細かい電流が走っていた。これは殺気、しかもとてつもない程の……。柏かと勘違いしそうになるほどの純粋な殺意。その気迫に包まれた誰かが雨の中を走ってきている。俺はギリッギリまで頭をあげて殺意の波動の主を見ようとした。
「…………」
「っ……!」
その男と目があった。殺気の毛先に触れた俺の存在に気がついていたのだ。その男の眼はまるで蛇のようだった。獲物を逃がさない、逃げれなくする威圧の眼力。男の手に持つ刀は自身の身長すら追い抜く長さの得物だった。俺はあの刀を知っている。殺意の主のことよりも長刀に集中してしまった隙。俺は死を覚悟した。
「どーなってる、天気予報だと一週間はカンカン照り予報で、最高気温更新記録に貢献します宣言してなかったか?」
自分より少し前を走るデコがいった。結構な雨脚なので声を張っている。
「ここらは海域の関係で昼間暑すぎると夜に雨が降るんですやよ。朝方には止みますが、どーしますやよ?」
じゃあ、ちょっと雨宿りしていようなんて言うわけがない。こうしている間にもおれのなかでは体力が激減していっている。ガソリンタンクに穴が開いて走っている車と同じだ。自分の身体は自分が良く分かっている。さっきから両足の足首から脹脛にかけてプップッという音がして何かが切れていっている。皮下出血が外まで滲み出て血液と汗が混ざり合ってぬるぬるとした体液が流れ落ちていることを……。
この満身創痍無身体で果たして金剛と闘りあえるのだろうか……余計なことを考えているとおれはすっ転んだ。頭からぶっ倒れると思ったが誰かがおれの腕を掴んだらしく中途半端な浮遊感に苛まれた。
「あ・ぶ・っ・ねぇ~~っ……!!」
カゲコだ。存在を今の今まで忘れていたがついてきていたらしい。両手で引っ掴んで全力でおれを引っ張って支えようとしているが……体重差があり過ぎて結局おれは自分で手をついて起き上った。
「おう。すまん、助かったわ。」
「お前……実はめちゃくちゃヤバいだろっ!」
雨の中、年下の少女に怒鳴られるという貴重な体験だが、脚を止めて言い合いするほど時間に余裕は無いので走りながら離せと顎をしゃくった。一瞬顔をしかめたが、おれが走りだすと奴もしっかりと着いてくる。
「聞いてんのかよ!お前、手の血もとまってねーじゃん!」
「聞いてるし、血は止まってる。これは乾いた血が雨と汗で溶けただけだ。」
実際、おれの両腕はズタズタに切れたり裂けたりはしていた。弾針剄と風障壁の連投による衝撃と摩擦の前に人間の皮膚など、タワシでジャガイモの身を擦るが如くズルズルになってしまう。恐らく……全力全開(ガチガチ)で撃てる弾針剄は多くても五発。その数でこの先必ず待っているであろう金剛を倒し切れるかどうか……。
「……おい、大丈夫なのか?」
人の顔色をうかがうのは得意な様だ。不安な気配を感じ取ったのかカゲコは心配そうに声をかけて来た。カゲコのくせに……。
「なに、心配してくれてんのか?優しいじゃん」
「ばっ、馬鹿っじゃねーの!お前の心配なんかしてねぇーし!こんなところで倒れられたりしたら迷惑だからいってるだけだしーっ!」
カゲコはそっぽを向くと闇と同化した。消えた……ように見えるが、消えていない。姿こそ晦ましているが音、足音は聞こえる。おれがカゲの位置を正確に把握している理由は匂いと音だ。この雨と自分の血の臭いで鼻ではもう探れない。そして足音だって消そうと思えばカゲコは消せるはず。そうすればもうおれからのアプローチは出来ない。このことに気が付いていないのだろうかそれとも、カゲコ自体が柏の策のひとつなのか……読み切れない。一抹の不安は消えず夜の森を走り続けていると、少し前を行くデコの歩みが止まった。おれも止まる。
「どうした?」
「師匠……なにか、近づいてきてますやよ。」
「あー?」
デコの横に並ぶとドスッと白銀の刃が心臓を貫いた。四肢を切断され、最後に首を切り落とされる。そんなヴィジョンが脳裏をよぎった。
俺は脊髄反射的に、生理的に、デコとカゲコの腕を引っ掴んで少しくぼみになっている地面へと飛び込んだ。暴れそうになる少女二人の身体を両腕で抱いて口を手で抑え込んだ。俺も呼吸を止める。皮膚に細かい電流が走っていた。これは殺気、しかもとてつもない程の……。柏かと勘違いしそうになるほどの純粋な殺意。その気迫に包まれた誰かが雨の中を走ってきている。俺はギリッギリまで頭をあげて殺意の波動の主を見ようとした。
「…………」
「っ……!」
その男と目があった。殺気の毛先に触れた俺の存在に気がついていたのだ。その男の眼はまるで蛇のようだった。獲物を逃がさない、逃げれなくする威圧の眼力。男の手に持つ刀は自身の身長すら追い抜く長さの得物だった。俺はあの刀を知っている。殺意の主のことよりも長刀に集中してしまった隙。俺は死を覚悟した。