「はぁ……恥ずかしいわ。まるで、おばあちゃんね」

元気なお年寄りなら平気でペットボトルくらい開けられるが口には出さなかった。彼女はか細い声で続ける。ただ声は相変わらずか細い。窓を打つ雨おとに飲まれかけていた。

「私昔から身体が弱くてね。もう病気がちで床に伏せている方が多かったくらい。」

良い得て妙とはこのことらしい。今の彼女も圏構想には見えないので容易に幼少期が想像できた。肌の白く窓の外を見るのが楽しみな日陰の少女。

「一つ下に妹がいるんだけど、妹は私と違って健康そのものだったの。だから、親は私より妹に期待していたわ。あ、期待っていうのは私の家ってそこそこの資産家だったらしいの。色んな事業をしてたりもしてたらしいわ。それで、言い方は悪いけど男の子供が居なかったから私たち姉妹で政略結婚でより地位を盤石なものにするつもりだったみたい。まぁ、私はつま弾かれてたから妹に全ての期待をかけてだけどね。」

昼間にやっている主婦の好きなメロドラマのような話し。地位と権力と金と愛欲が絡みあった糸引くようにドロドロっの連続ドラマ。母親が大好きでよく見ているのを思い出した。鈴猫はあまりすきでは無かった。純愛なラヴロマンス派だ。

「大変だったんですね」

「ううん、大変なのは私じゃなく。こんな私を育ててくれた両親よ。相手にはしてくれなかったけど……ずーっとご飯とかは食べさせてくれてたし。」

「それでも……やっぱり酷いですよ。ネグレイトとはいいませんけど、娘を……あ、ごめんなさい」

家庭事情に口出したことに謝罪する。吉継は声を出して笑った。

「あはは、鈴猫ちゃんは気配りな子ね。平気よ、本当の事だもん。」

「そ、そうですか。えーと、でも……結婚されたんですよね」

「えぇ、突然だったわ。ホント……その日、私は妹のお見合いがあるって聞いて邪魔にならないように部屋を移動していたの。っで、その時、旦那様に出会って結婚。」

ふんふん、っとうなずいて聞いていたが、話しが急転直下した。

「え……妹さんのお見合いだったんじゃ?」

「そうよ。」

「でも、吉継さんが結婚したんですか?」

「ええ。本当に突然だったわ……その人はお見合いだっていうのに普通の格好でね。大きな人だったの。それで私と廊下で会って「お前がここの娘か」って聞いてきて、失礼がないように「はい、そうです」って答えたら。いきなり婚姻届を私に突き付けて……「サインと印を寄越せ。」っていうんだもん。ビックリしちゃった。」

大胆というか無茶苦茶だと思った。会って一秒で始まる婚姻、ちょっとだけ魅かれてしまうかもしれない。

「それで……サインしたんですか?」

「しちゃったの。」

照れ気味に笑って、小さく舌をだす彼女。

「でも、ちゃんといったのよ?私は妹じゃないですし、とても病弱だって……そしたら」

「そしたら?」

「「別に構わない。俺はこのあと仕事がある。お前が問題ないならさっさと名を書いて着いて来い」っていわれて……そのまま一分で出会って、一分で名前書いて、一分で着いて行っちゃった」

三分クッキングならぬ三分結婚。しかも、話しを聞く限りではまだ旦那は名前すら名乗っていない。

「そ、それから……?」

「荷物をまとめるとか親に話すかもすっ飛ばして寝巻のまま私は連れていかれちゃって……車で移動途中、仕事っていって旦那は降りて私はひとりで区役所に婚姻届出しにいったわ。それからは色んな人に警護されつつ、次に旦那とあったのは一週間後だった。電話も何も連絡がなかったけど……なんか嬉しかったの。誰にも必要とされてなかった私をあってすぐにさらうように連れて行ってくれたあの人の事……ひと目惚れってヤツよね。ドラマチックな」

ドラマチックというよりアバンギャルドな恋だと思う。それももの凄く理不尽な……。だけど当の彼女は両手を頬に添えてヤンヤンっと身を左右に振っている。精神年齢はとても若いらしい。