ー夏休み編ー技と力と策
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俺は肩を振って仰向けに転がった。水たまりにでも浸かったように汗をかいているらしい、その仕草だけでべちゃっと濡れタオルを落としたようなぶっさいくな音がする。それにしても……痛い、激しく痛いぜ。上半身の全面を巨大な蠅たたきで叩かれたようにジンジンとした痛みと熱がジクジクっと侵食して皮膚と筋肉を犯していく。関節という関節が軋んだ。翠龍の毒は確実に蝕んでいっている。そして……なにより執拗に狙われている右あばら骨のした腹……ここだ。ピンポイントに攻撃を受けすぎて痛みが痺れに変わっていた。危険信号だ。痛みというシグナルが麻痺しているのだ。視線を横に向ける。仰向け呼吸を乱す俺とは対照的に摩耶は四つん這いで既に立ちあがろうとしていた。
「ぐっ……あぁっ!!」
崩れた。悠は何もしていない。自身もまだ立ちあがれてないのだから。それでも摩耶は起き上り損ねた。
「こんな……事くらいでっ……たった一撃で……っはぁ……」
自分を呪うように言葉を漏らして必死に起き上る。摩耶の背負った最大の弱さ。それはタフネス(耐久力)。歳不相応な身体に搭載できる筋肉は限られている。骨の太さも同様。人間本来の強さを数値に例えることは出来ない。それでもあえて例えるなら「100」と「1」。鉄と紙だ。絶対的な差。悠は……タフだ。さんざんぱら殴られても、まだ立とうとしている。いや、立つ彼はまだ立ちあがる。しかし、摩耶は違う一撃、たったの一撃で立ちあがれないほど体力を削られてしまっている。そのくらい摩耶と悠には打たれ強さのアドヴァンテージがあるのだ。
俺はいった。
「恵まれない身体で……よく頑張った。もう十分だ。」
摩耶はピクッと肩を動かした。俺は続ける。
「……なんて、思っちゃいないよな。決着つけにきたんだろ……今思ったら最後に摩耶と喧嘩したのいつだったかな、摩耶とだけじゃない金剛とも…………。俺は逃げてたんだもんな。お前は真剣なのに……そろそろ蹴りをつけるときなんだよな。さぁ、摩耶来いよ……。お前の全力を本気を受け止めてやる。……約束だ。今すぐ果たす約束だ。」
耳に届いたのか届いてないのか、摩耶は無言で立ちあがって俺に背を向けた。そして……ズズッ……長い物が地面を這う音がして、俺の頭上に影が迫る。棒、鉄パイプではなく木でできた円錐の琨が振り降りてくる。目測で狙いは首とわかった。さすが摩耶だ。的確に最善最高の一手を繰り出してくる。風を切る音が異様なほど鮮明に聞こえて……。
「師匠!」
右の耳を劈(つんざ)いたデコの声と視野の端に捉えたのは高速で飛んでくる物。ソレが俺の眼前を通りぬける寸前に掴んだ。ガイィィンっと硬い物同士がぶつかる音がして手に電流が走った。俺は自分が握ったもので琨をはじき返して立ちあがる。刀のひと振り。雪之承楓子の佩刀【雪月下】だ。
「使ってくださいやよっ!レプリカモデルですけど本物と寸分狂いませんやよ!!」
「おう。多分壊すけど借りるわ」
両手で柄をしっかりと握り込む。レプリカモデルとはいえ手にしっかりと馴染む。刃引き済みの銀刃でもキラリと刃先は輝いた。ヒュッヒュッと風を切る音がして視線を向ける。
「日本刀……悠君に似合うね。」
身の丈を大きく超える真っ赤な琨を巧みに振るう姿は孫悟空を思わせる。対武器のスペシャリストは、対処法だけでなく扱うことにもたけているのだった。俺は正眼に構えていった。
「似合うだけで腕はからっきしだけどな」
気がついてるか……摩耶。
「はは……言ってなよ。さぁ、いくよ。」
さっきとは全然違う。
「ああ、来いよ。俺も本気で迎え撃ってやる」
「悠!!!」
「摩耶っ!!」
お前、すっげぇ笑ってるんだぜ摩耶。きっと他の奴らは分からない。けど、俺にはわかる。真っ暗な井戸の底みたいな黒から洗いたてのシーツみたな白へと変わったお前の笑顔と気迫。だけど、一点の曇りない白じゃなく黒い円を残す白。摩耶は自由自在だ。陰陽の玉のように黒と白を均等に二分して武器とする、その姿はまるで黒天白夜。俺は空気を吐いて深く吸って取り込んだ。体内で少なくなっている超加圧エアークッションを増加させる。当然それはより身体へ負荷をかける毒。確実そして着実に朽ち果てていくのを分かっていても使うのを辞めない自分が居る。それでもいい、ここで使わずに終わるくらいなら出し切って、使い切って果ててやる。
「ぐっ……あぁっ!!」
崩れた。悠は何もしていない。自身もまだ立ちあがれてないのだから。それでも摩耶は起き上り損ねた。
「こんな……事くらいでっ……たった一撃で……っはぁ……」
自分を呪うように言葉を漏らして必死に起き上る。摩耶の背負った最大の弱さ。それはタフネス(耐久力)。歳不相応な身体に搭載できる筋肉は限られている。骨の太さも同様。人間本来の強さを数値に例えることは出来ない。それでもあえて例えるなら「100」と「1」。鉄と紙だ。絶対的な差。悠は……タフだ。さんざんぱら殴られても、まだ立とうとしている。いや、立つ彼はまだ立ちあがる。しかし、摩耶は違う一撃、たったの一撃で立ちあがれないほど体力を削られてしまっている。そのくらい摩耶と悠には打たれ強さのアドヴァンテージがあるのだ。
俺はいった。
「恵まれない身体で……よく頑張った。もう十分だ。」
摩耶はピクッと肩を動かした。俺は続ける。
「……なんて、思っちゃいないよな。決着つけにきたんだろ……今思ったら最後に摩耶と喧嘩したのいつだったかな、摩耶とだけじゃない金剛とも…………。俺は逃げてたんだもんな。お前は真剣なのに……そろそろ蹴りをつけるときなんだよな。さぁ、摩耶来いよ……。お前の全力を本気を受け止めてやる。……約束だ。今すぐ果たす約束だ。」
耳に届いたのか届いてないのか、摩耶は無言で立ちあがって俺に背を向けた。そして……ズズッ……長い物が地面を這う音がして、俺の頭上に影が迫る。棒、鉄パイプではなく木でできた円錐の琨が振り降りてくる。目測で狙いは首とわかった。さすが摩耶だ。的確に最善最高の一手を繰り出してくる。風を切る音が異様なほど鮮明に聞こえて……。
「師匠!」
右の耳を劈(つんざ)いたデコの声と視野の端に捉えたのは高速で飛んでくる物。ソレが俺の眼前を通りぬける寸前に掴んだ。ガイィィンっと硬い物同士がぶつかる音がして手に電流が走った。俺は自分が握ったもので琨をはじき返して立ちあがる。刀のひと振り。雪之承楓子の佩刀【雪月下】だ。
「使ってくださいやよっ!レプリカモデルですけど本物と寸分狂いませんやよ!!」
「おう。多分壊すけど借りるわ」
両手で柄をしっかりと握り込む。レプリカモデルとはいえ手にしっかりと馴染む。刃引き済みの銀刃でもキラリと刃先は輝いた。ヒュッヒュッと風を切る音がして視線を向ける。
「日本刀……悠君に似合うね。」
身の丈を大きく超える真っ赤な琨を巧みに振るう姿は孫悟空を思わせる。対武器のスペシャリストは、対処法だけでなく扱うことにもたけているのだった。俺は正眼に構えていった。
「似合うだけで腕はからっきしだけどな」
気がついてるか……摩耶。
「はは……言ってなよ。さぁ、いくよ。」
さっきとは全然違う。
「ああ、来いよ。俺も本気で迎え撃ってやる」
「悠!!!」
「摩耶っ!!」
お前、すっげぇ笑ってるんだぜ摩耶。きっと他の奴らは分からない。けど、俺にはわかる。真っ暗な井戸の底みたいな黒から洗いたてのシーツみたな白へと変わったお前の笑顔と気迫。だけど、一点の曇りない白じゃなく黒い円を残す白。摩耶は自由自在だ。陰陽の玉のように黒と白を均等に二分して武器とする、その姿はまるで黒天白夜。俺は空気を吐いて深く吸って取り込んだ。体内で少なくなっている超加圧エアークッションを増加させる。当然それはより身体へ負荷をかける毒。確実そして着実に朽ち果てていくのを分かっていても使うのを辞めない自分が居る。それでもいい、ここで使わずに終わるくらいなら出し切って、使い切って果ててやる。