ー夏休み編ー技と力と策
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八極拳。中国拳法の中でも、極めて近距離で戦うことを旨とした武術流派。その様相は「陸の船」(動かないもの)と形容されるほどに射程が短く、自分の腕の届く範囲を最大効果範囲とする。逆にいえば、この近距離だからこその力技での防御崩壊を可能にする。「八極」とは『八方の極遠にまで達する威力で敵の門(防御)を打ち開く(破る)』ことを意味している。単純に言い表わせば『相手にゼロ距離で大砲をぶっ放す』というところ。八極とは大爆発なのだ。
その大爆発を最低限のガードで受けたおれの意識はほぼ飛んでいた。自分の意思で立っているというより摩耶の短躯に押されて桜の木に張りつけられている状態だ。摩耶が一歩後ろに下がった。ズズズっとおれの身体は沈んでいく。もはや胃の中には胃酸も残っていないらしくゲロは吐き出さなかったが空気が足りない。せり上がった内臓器官を降ろさないと呼吸もままならない。
「コオオォォォッ……」
目のまえで摩耶が構えている。拳を固め、打つつもりだ。何処に?顔?首?胸?腹?力の入らない四肢だがかろうじて動きそうなのは左腕。ガードは出来る。だが、どこかが読み切れない。ぼやける視界では何処を狙っているのか追うことも出来ない。瀕死の相手にトドメを刺すつもりなら此処しかない。おれは顎を引いて首を守り、腕を振り上げて顔をカバーした。
しかし……勘は大外れ。摩耶の拳は腹部の右上に深くめり込んだ。内臓へのダイレクトアタックも同じだ。おれの身体は外も中も破壊されつつある。おれはうめき声にもならない音を喉の奥から吐き出し、体内には残ってはいないと思った水分が目から溢れだす。それほどの激痛、それほどの鈍痛。大爆発を起こして次はライフル弾を撃ち込まれ耐えきれなかったのはおれだけじゃなかった。後ろの桜、メギメギと音を立ててへし折れていく。当然おれはその木を背にしているので一緒だ。大きなものが倒れる音と散り誇る桜の花びら。とても美しい風景のなかでおれの脳裏にはある言葉がループしていた。死ぬ、このままだと死ぬ。見えなくても分かる摩耶は今も次の行動に移っている。それは完全決着への最後の一手だ。
摩耶は強い……。その身の不利を不利とせず持ち前の武器と昇華した。それに加えて並々ならぬ技術。一体どれだけの時間と痛みと疲れを超えてきたらそうなれる。どうすれば、そんなに圧縮できるのか。それに対して自分はどうだ?驕っている。油断している。本気の本気?ふざけるなよおれ……弩躬と闘って勝ったのか?あれが勝ったと勝利だと言えるのか?久保ちゃんの名前を出されて冷静にかけてそれで今が平然な状態といえるのか?おれは、まだ誰にも勝ってない、何もしてないじゃないか。自分自身に腹が立ってきた。俺のなかで何かに燃えた。
摩耶だって……もう何度も立ちあがるのが嫌になるときがあったはずだ。俺は違う……傷つきたくないから傷つけないフリしてた。転んで痛くない人間なんかいない。痛いから……めちゃくちゃ怖いから、立ちあがった自分が誇らしいんだろっ!!
俺は顎が外れるくらい大口を開けた。両手で目のまえの空気を叩いて圧縮する!!
「っ!」
「ごくっん!」
破裂する空気が摩耶の拳を遮った。龍剄気孔による風のバリアー。その強度はいくらライフル並の拳をもってしても易々とは破れない。摩耶は力を抜いて風の爆発に身を任せた。その結果紙切れのように吹き飛ぶが落下地点では綺麗に着地する。無理に破らず風圧に身を任せたダメージを完全に無効化する摩耶。だが、その額に一筋の汗が流れた。
「……やっと起きた、かっ。」
俺は飲みこんだ。風の爆発は身を守る盾であると同時に濃厚な空気の塊りを口から侵入し潰れて押しあがった内臓を膨らませる。肺の隅々まで行き渡った空気(毒)が次に侵すのは関節という関節の透き間。超加圧エアークッション。
「翠龍の気衣発動!!」
「うん、いい顔になった…。」
摩耶は笑う。いつもの幼さと女らしさのある顔じゃない。漢(おとこ)の笑顔だ。俺は腕にはめてある髪止めのゴムで後ろ髪をひとくくりにしていった。
「あぁ、摩耶のおかげでひとつだけ分かった。転ぶたびにこんな気持ちになるなら……痛いのが癖になるっ。」
「はは、よくわからないけど、そういう性癖に目覚めちゃったかな?」
「責任は取ってくれよ……摩耶」
俺と摩耶は構えながら間合いを詰める。さぁ、こっからが本当の喧嘩だ。
その大爆発を最低限のガードで受けたおれの意識はほぼ飛んでいた。自分の意思で立っているというより摩耶の短躯に押されて桜の木に張りつけられている状態だ。摩耶が一歩後ろに下がった。ズズズっとおれの身体は沈んでいく。もはや胃の中には胃酸も残っていないらしくゲロは吐き出さなかったが空気が足りない。せり上がった内臓器官を降ろさないと呼吸もままならない。
「コオオォォォッ……」
目のまえで摩耶が構えている。拳を固め、打つつもりだ。何処に?顔?首?胸?腹?力の入らない四肢だがかろうじて動きそうなのは左腕。ガードは出来る。だが、どこかが読み切れない。ぼやける視界では何処を狙っているのか追うことも出来ない。瀕死の相手にトドメを刺すつもりなら此処しかない。おれは顎を引いて首を守り、腕を振り上げて顔をカバーした。
しかし……勘は大外れ。摩耶の拳は腹部の右上に深くめり込んだ。内臓へのダイレクトアタックも同じだ。おれの身体は外も中も破壊されつつある。おれはうめき声にもならない音を喉の奥から吐き出し、体内には残ってはいないと思った水分が目から溢れだす。それほどの激痛、それほどの鈍痛。大爆発を起こして次はライフル弾を撃ち込まれ耐えきれなかったのはおれだけじゃなかった。後ろの桜、メギメギと音を立ててへし折れていく。当然おれはその木を背にしているので一緒だ。大きなものが倒れる音と散り誇る桜の花びら。とても美しい風景のなかでおれの脳裏にはある言葉がループしていた。死ぬ、このままだと死ぬ。見えなくても分かる摩耶は今も次の行動に移っている。それは完全決着への最後の一手だ。
摩耶は強い……。その身の不利を不利とせず持ち前の武器と昇華した。それに加えて並々ならぬ技術。一体どれだけの時間と痛みと疲れを超えてきたらそうなれる。どうすれば、そんなに圧縮できるのか。それに対して自分はどうだ?驕っている。油断している。本気の本気?ふざけるなよおれ……弩躬と闘って勝ったのか?あれが勝ったと勝利だと言えるのか?久保ちゃんの名前を出されて冷静にかけてそれで今が平然な状態といえるのか?おれは、まだ誰にも勝ってない、何もしてないじゃないか。自分自身に腹が立ってきた。俺のなかで何かに燃えた。
摩耶だって……もう何度も立ちあがるのが嫌になるときがあったはずだ。俺は違う……傷つきたくないから傷つけないフリしてた。転んで痛くない人間なんかいない。痛いから……めちゃくちゃ怖いから、立ちあがった自分が誇らしいんだろっ!!
俺は顎が外れるくらい大口を開けた。両手で目のまえの空気を叩いて圧縮する!!
「っ!」
「ごくっん!」
破裂する空気が摩耶の拳を遮った。龍剄気孔による風のバリアー。その強度はいくらライフル並の拳をもってしても易々とは破れない。摩耶は力を抜いて風の爆発に身を任せた。その結果紙切れのように吹き飛ぶが落下地点では綺麗に着地する。無理に破らず風圧に身を任せたダメージを完全に無効化する摩耶。だが、その額に一筋の汗が流れた。
「……やっと起きた、かっ。」
俺は飲みこんだ。風の爆発は身を守る盾であると同時に濃厚な空気の塊りを口から侵入し潰れて押しあがった内臓を膨らませる。肺の隅々まで行き渡った空気(毒)が次に侵すのは関節という関節の透き間。超加圧エアークッション。
「翠龍の気衣発動!!」
「うん、いい顔になった…。」
摩耶は笑う。いつもの幼さと女らしさのある顔じゃない。漢(おとこ)の笑顔だ。俺は腕にはめてある髪止めのゴムで後ろ髪をひとくくりにしていった。
「あぁ、摩耶のおかげでひとつだけ分かった。転ぶたびにこんな気持ちになるなら……痛いのが癖になるっ。」
「はは、よくわからないけど、そういう性癖に目覚めちゃったかな?」
「責任は取ってくれよ……摩耶」
俺と摩耶は構えながら間合いを詰める。さぁ、こっからが本当の喧嘩だ。