ー夏休み編ー技と力と策
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「あっはっは。本当に豪快な彼女さんだな」
「えぇ、豪快ですがとてもチャーミングです。ですか、ひとつだけ訂正しておきます。「彼女」では無く「元カノ」です。」
「テメェら……ぶっ殺す。どっちもぜってぇ……ぶっ殺す。」
何処か間の抜けた会話で、一進一退をつづける三つの影。さざ波の音が遠くで聞こえて、夜風に常緑針葉樹の葉が揺れてカサカサと鳴る。穏やかで、ぬるく、やぼったい月が登る夜会はまだ、始まったばかりなのだ……。さぁ、踊ろう。つぎのダンスを始めよう、刃を隠し持つ奇術師が合図とばかりに右手のひらの指のあいだいっぱいに銀の鱗を握った。オーバースローに振りかぶり全力投刃を放とうとした腕が停止する。颯天の手首に圧迫した痛みに、自分に何が起こったか気がついた。
「いっておきますけど……私は怒っているんですよ?」
「マジ……すかっ。」
目のまえ、しかも、数メートルはあった距離を凌駕してこちらが攻撃を仕掛けるのを無視して氷室薫は颯天の手首を握り釣り上げた。バラバラと右手から銀の鱗が散る。鉄の雨でも降ったような音がした。引っ張り上げられた振り下ろされ、奇術師の身体もまえに倒れる。パァンと肉を打つ音がして「まえ」に倒れていた身体が「うしろ」に跳ねた。
「ガッ!?」
氷室が手首を掴んでいるので、颯天は倒れずに釣り上げられる。停止時間はほんの一秒か二秒。颯天は自由な左腕を動かそうとした瞬間、また肉を叩く音。そうして今度は仰向けに倒れかけた。ギシギシと我が身が揺れているのがわかる。しかし、地面に倒れることと右手の圧迫が取れることがない。それは、まだいい……動けない。否、動くことはできるし動きたい意思もあるが指一本、つま先を微動させようものなら。
「ガッ!?」
「ぐっ?!」
「ガハッ!!」
氷室は単純に「振り回して殴り止める」。これを繰り返していた。ナイフ等の刃物を得意とする者に対して近距離で戦うことは御法度。飛んで火にいる夏の虫。例えばそう、ハンドポケットのなかに仕込まれた拳もいうなれば近距離戦闘用の武器といっても過言ではない。動こうとすれば止められ、動かなければ一方的に殴られる。氷結の舞踏。氷室は颯天の動きたい意思をなぜ正確に読み取れるのか……。その答えは掴んでいる右手首にある。人間は動こうとすると頸から肩の筋肉にかけて反応(動き)が起こる。その僅かな振動を感じ取り、相手がアクションに移行する刹那的な「間」に攻撃を仕掛けて出だしを潰し、強制停止させる。やられている側はこう錯覚するだろう。
「げほっ、氷結……させられてるみたいだ。さすがぁ、氷結界のぬっぶぁっ!!」
何か言いかけた颯天は殴りあげられた。
「まだ、喋りますか。既にアナタの身体は氷結(とらえ)ました。さっさと意識も氷結してください。」
終わった。止血処理を終えた炎銃は立ち上がれる程に回復していて思った。完全に薫のペース。理想的な立ち回り。ゲームでいうならばハメ技。ただ、それを現実で行えることは決して口で言うほど簡単ではない。それを誰よりも理解している炎銃は腹が立っていた。理論的で完全な戦い方……理想的でだれしもが目指す領域かもしれないが火口祭はつまらなくくだらないとさえ考えていた。彼女にとって論理的(ロジック)な読みでは小技で去なしても喉を食いちぎられる喧嘩こそが勝負の醍醐味なのだ。火は薫と燻ぶってしまう。火は重なれば炎となりいずれは火炎と化す紅蓮の炎に身を焦がせない氷室を嫌う理由のひとつがそれだった。
交わらぬ思想を脳内で反芻しつつ決着の時が近いと思った時だった氷結されている奇術師が
、呪縛を解いたのは。
引っ張った腕が180°攀(よ)じれて、おかしな方に曲がった。折れたわけではない肩から骨が外れて腕が伸びきったのだ。間髪いれずに左手に刃を現した。自分の股下へと投擲する。氷室の足に向かって銀の鱗が掠めていったが当たってはない。そのかわりに掴んでいた手首を解放してしまう。右腕を振ってはめ込み治しながら何十もの銀刃を放ち威嚇する。バックステップで距離を取ろうした氷室の眼前に銀刃ではなく、サバイバルナイフが飛んで来ていた。左手で散らし放つ銀の鱗を目くらましに、右手で本命の大型ナイフ。いくらの氷室といえど捌くことも弾くことも不可能な距離に、頸を振るのが精いっぱいだった。ギャギンッと刃先が眼鏡のフレームと髪の一部を掻っ切っていく。
「えぇ、豪快ですがとてもチャーミングです。ですか、ひとつだけ訂正しておきます。「彼女」では無く「元カノ」です。」
「テメェら……ぶっ殺す。どっちもぜってぇ……ぶっ殺す。」
何処か間の抜けた会話で、一進一退をつづける三つの影。さざ波の音が遠くで聞こえて、夜風に常緑針葉樹の葉が揺れてカサカサと鳴る。穏やかで、ぬるく、やぼったい月が登る夜会はまだ、始まったばかりなのだ……。さぁ、踊ろう。つぎのダンスを始めよう、刃を隠し持つ奇術師が合図とばかりに右手のひらの指のあいだいっぱいに銀の鱗を握った。オーバースローに振りかぶり全力投刃を放とうとした腕が停止する。颯天の手首に圧迫した痛みに、自分に何が起こったか気がついた。
「いっておきますけど……私は怒っているんですよ?」
「マジ……すかっ。」
目のまえ、しかも、数メートルはあった距離を凌駕してこちらが攻撃を仕掛けるのを無視して氷室薫は颯天の手首を握り釣り上げた。バラバラと右手から銀の鱗が散る。鉄の雨でも降ったような音がした。引っ張り上げられた振り下ろされ、奇術師の身体もまえに倒れる。パァンと肉を打つ音がして「まえ」に倒れていた身体が「うしろ」に跳ねた。
「ガッ!?」
氷室が手首を掴んでいるので、颯天は倒れずに釣り上げられる。停止時間はほんの一秒か二秒。颯天は自由な左腕を動かそうとした瞬間、また肉を叩く音。そうして今度は仰向けに倒れかけた。ギシギシと我が身が揺れているのがわかる。しかし、地面に倒れることと右手の圧迫が取れることがない。それは、まだいい……動けない。否、動くことはできるし動きたい意思もあるが指一本、つま先を微動させようものなら。
「ガッ!?」
「ぐっ?!」
「ガハッ!!」
氷室は単純に「振り回して殴り止める」。これを繰り返していた。ナイフ等の刃物を得意とする者に対して近距離で戦うことは御法度。飛んで火にいる夏の虫。例えばそう、ハンドポケットのなかに仕込まれた拳もいうなれば近距離戦闘用の武器といっても過言ではない。動こうとすれば止められ、動かなければ一方的に殴られる。氷結の舞踏。氷室は颯天の動きたい意思をなぜ正確に読み取れるのか……。その答えは掴んでいる右手首にある。人間は動こうとすると頸から肩の筋肉にかけて反応(動き)が起こる。その僅かな振動を感じ取り、相手がアクションに移行する刹那的な「間」に攻撃を仕掛けて出だしを潰し、強制停止させる。やられている側はこう錯覚するだろう。
「げほっ、氷結……させられてるみたいだ。さすがぁ、氷結界のぬっぶぁっ!!」
何か言いかけた颯天は殴りあげられた。
「まだ、喋りますか。既にアナタの身体は氷結(とらえ)ました。さっさと意識も氷結してください。」
終わった。止血処理を終えた炎銃は立ち上がれる程に回復していて思った。完全に薫のペース。理想的な立ち回り。ゲームでいうならばハメ技。ただ、それを現実で行えることは決して口で言うほど簡単ではない。それを誰よりも理解している炎銃は腹が立っていた。理論的で完全な戦い方……理想的でだれしもが目指す領域かもしれないが火口祭はつまらなくくだらないとさえ考えていた。彼女にとって論理的(ロジック)な読みでは小技で去なしても喉を食いちぎられる喧嘩こそが勝負の醍醐味なのだ。火は薫と燻ぶってしまう。火は重なれば炎となりいずれは火炎と化す紅蓮の炎に身を焦がせない氷室を嫌う理由のひとつがそれだった。
交わらぬ思想を脳内で反芻しつつ決着の時が近いと思った時だった氷結されている奇術師が
、呪縛を解いたのは。
引っ張った腕が180°攀(よ)じれて、おかしな方に曲がった。折れたわけではない肩から骨が外れて腕が伸びきったのだ。間髪いれずに左手に刃を現した。自分の股下へと投擲する。氷室の足に向かって銀の鱗が掠めていったが当たってはない。そのかわりに掴んでいた手首を解放してしまう。右腕を振ってはめ込み治しながら何十もの銀刃を放ち威嚇する。バックステップで距離を取ろうした氷室の眼前に銀刃ではなく、サバイバルナイフが飛んで来ていた。左手で散らし放つ銀の鱗を目くらましに、右手で本命の大型ナイフ。いくらの氷室といえど捌くことも弾くことも不可能な距離に、頸を振るのが精いっぱいだった。ギャギンッと刃先が眼鏡のフレームと髪の一部を掻っ切っていく。