ー夏休み編ー技と力と策
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温い風が吹き唐草が擦れあいカサカサと音がなる。それほど静寂な空間で対峙しあうふたりの雄……。身体をしなやかに揺らし氷室薫は革製の靴の爪先で地面を真横に擦った。定規でも当てたようにピッチリとした線が引かれる。そして、境界のまえに一歩踏み出て後ろで座り込んでいる炎銃にいった。
「この線の後ろにいてくださいね。守ってみせますから。」
憎しみを込めた言葉が氷室の背中にぶつかった。
「動けるようになったらテメェも殺す……。」
「おや困りましたね。元気になられる前に決着をつけませんと。」
恨み怒りも吹き流す風のように氷室は爽やかに笑った。火と水ならぬ炎と氷。相反する双方のやり取りにくすくすと颯天もつられて笑っていた。闘争の空気は皆無だった。だが、それもほんのひと時、止まらない時間(とき)が無いように、満ちない月が無いように、最高の女と最高の男が同じ部屋に居るように、その瞬間は必ず訪れる。
今宵は満月だった。叢雲か風に靡きその姿をゆっくりと現し、辺りを照らす。
「それじゃ……改めて自己紹介させてもらおう。向颯天(むかいはやて)だ。」
「氷室薫です。さて、始めましょうか。」
東の氷結界主
name:氷室薫
Style:抜拳の極
vs
謎のナイフトリッカー
name:向颯天
Style:???
先手を取ったの颯天だった。名乗り終えると、同時に手を鳥が翼を広げるように振るった。一本の長い銀の帯が氷室に向かっていく。夜に引かれたシルバーラインの正体はおびただしい数のナイフ(投刃)。真一直に並んだそれは恐ろしく美しい。幻想的な凶器が触れそうになった瞬間、氷室は一度だけ腰を切った。自分の身体を覆う面積だけのナイフが音も無く地面に落ちる。
「これならっ、どうだっ!」
息つく暇もない。今度は上から下に手を振る颯天。横の次は縦、再び銀の帯が現れる……っが
、氷室は前に出た。縦に並んだ物は芸術的であっても、決して「横」の帯より脅威では無い。その場から一歩でも横に動けば当たりはしない。薫はハッタリの攻撃を余裕で避けて、ぐんぐんと間合いを詰める。颯天はわずかに眉を上げた。驚いたのだろう。もちろん、それは避けられた事にではない。大ぶりの攻撃とはブラフ、いわば罠なのだ。特にトッリキーな闘い方をstyleとする大技で敵を誘い、死角から致死撃を繰り出すのが常套句。颯天も勿論そのつもりだったのだろう。何度も大技や奇抜な手品を見せつつ氷室を追い詰めていくはずだった……。
だが、彼は違った。その罠に飛び込んだのだ。愚者なのか、自信家なのか、彼は不敵な笑みを浮かべたまま、間合いを潰す。敵が自ら来るならと、迎え撃った。どこにどれだけの投刃を隠し持っているのか右手の指の間に銀の束を握る。その手を上下に細やかに振るうと、ヒュヒュヒュ……っと、風をきりながら投刃が発射された。飛び散った銀の鱗は不規則な軌道で氷室を襲った。
しかし、どの刃も刃先が触れる寸前に地面に落ちていく。はたから見れば、推進力が突然、凍りついたように見えるかもしれない。ナイフを生み出す奇術師と空間すらも凍らせる氷結界師。人智を超え、いにしえの魔の力を操り合う真夏の夜の夢のようなひと時。だが、この二人は決して特別な力は使っていない。どちらも人間の持つ技と術なのだ。もちろん、異常ではある……が。
氷室は経路を読み切った。というより、ただ、真っ直ぐの最短ルート。今のスピードを維持したままなら、あと約三歩。
「おっと、こりゃ、マズイっと!」
そういった颯天は両手を振った。氷室の顔元に三枚の鱗が光った。さっきよりスピードを増した刃は氷結界を抜いた。首を振り、凶刃を避け、エビのように跳ねた。あと一歩という所で消えた氷室が現れたのは、木を背に座り込んでいる炎銃の前。ハンドポケットから抜いた手に
握られていたのは十五インチ級のサバイバルナイフ。
「ふぅ、間に合いました。」
炎銃はごくっと息を呑んだ。油断していた。回復に専念していて、自分に向けられた刃に気がつかなかったと……。氷室は指先でメガネの縁をあげていう。
「卑怯ですね。一騎打ちを誘って、祭さんへ不意打ちとは」
悪びれも無く颯天はいった。
「予想以上にアンタが速くて試してみたくなったんだ。ここで矛先を変えたら、俺を取るか、それとも彼女さんを取るか、そして追いつけるかなって。」
「やれやれ。悪趣味だ方だ……。私はフェミニストと言いませんでしたか?こういう場合なにがあっても女性を優先しますよ。」
氷室の背中で炎銃は身を震わせた。
「気持ち悪ぃこといってんじゃねぇよ!!サブいぼ出ただろうが!!」
「この線の後ろにいてくださいね。守ってみせますから。」
憎しみを込めた言葉が氷室の背中にぶつかった。
「動けるようになったらテメェも殺す……。」
「おや困りましたね。元気になられる前に決着をつけませんと。」
恨み怒りも吹き流す風のように氷室は爽やかに笑った。火と水ならぬ炎と氷。相反する双方のやり取りにくすくすと颯天もつられて笑っていた。闘争の空気は皆無だった。だが、それもほんのひと時、止まらない時間(とき)が無いように、満ちない月が無いように、最高の女と最高の男が同じ部屋に居るように、その瞬間は必ず訪れる。
今宵は満月だった。叢雲か風に靡きその姿をゆっくりと現し、辺りを照らす。
「それじゃ……改めて自己紹介させてもらおう。向颯天(むかいはやて)だ。」
「氷室薫です。さて、始めましょうか。」
東の氷結界主
name:氷室薫
Style:抜拳の極
vs
謎のナイフトリッカー
name:向颯天
Style:???
先手を取ったの颯天だった。名乗り終えると、同時に手を鳥が翼を広げるように振るった。一本の長い銀の帯が氷室に向かっていく。夜に引かれたシルバーラインの正体はおびただしい数のナイフ(投刃)。真一直に並んだそれは恐ろしく美しい。幻想的な凶器が触れそうになった瞬間、氷室は一度だけ腰を切った。自分の身体を覆う面積だけのナイフが音も無く地面に落ちる。
「これならっ、どうだっ!」
息つく暇もない。今度は上から下に手を振る颯天。横の次は縦、再び銀の帯が現れる……っが
、氷室は前に出た。縦に並んだ物は芸術的であっても、決して「横」の帯より脅威では無い。その場から一歩でも横に動けば当たりはしない。薫はハッタリの攻撃を余裕で避けて、ぐんぐんと間合いを詰める。颯天はわずかに眉を上げた。驚いたのだろう。もちろん、それは避けられた事にではない。大ぶりの攻撃とはブラフ、いわば罠なのだ。特にトッリキーな闘い方をstyleとする大技で敵を誘い、死角から致死撃を繰り出すのが常套句。颯天も勿論そのつもりだったのだろう。何度も大技や奇抜な手品を見せつつ氷室を追い詰めていくはずだった……。
だが、彼は違った。その罠に飛び込んだのだ。愚者なのか、自信家なのか、彼は不敵な笑みを浮かべたまま、間合いを潰す。敵が自ら来るならと、迎え撃った。どこにどれだけの投刃を隠し持っているのか右手の指の間に銀の束を握る。その手を上下に細やかに振るうと、ヒュヒュヒュ……っと、風をきりながら投刃が発射された。飛び散った銀の鱗は不規則な軌道で氷室を襲った。
しかし、どの刃も刃先が触れる寸前に地面に落ちていく。はたから見れば、推進力が突然、凍りついたように見えるかもしれない。ナイフを生み出す奇術師と空間すらも凍らせる氷結界師。人智を超え、いにしえの魔の力を操り合う真夏の夜の夢のようなひと時。だが、この二人は決して特別な力は使っていない。どちらも人間の持つ技と術なのだ。もちろん、異常ではある……が。
氷室は経路を読み切った。というより、ただ、真っ直ぐの最短ルート。今のスピードを維持したままなら、あと約三歩。
「おっと、こりゃ、マズイっと!」
そういった颯天は両手を振った。氷室の顔元に三枚の鱗が光った。さっきよりスピードを増した刃は氷結界を抜いた。首を振り、凶刃を避け、エビのように跳ねた。あと一歩という所で消えた氷室が現れたのは、木を背に座り込んでいる炎銃の前。ハンドポケットから抜いた手に
握られていたのは十五インチ級のサバイバルナイフ。
「ふぅ、間に合いました。」
炎銃はごくっと息を呑んだ。油断していた。回復に専念していて、自分に向けられた刃に気がつかなかったと……。氷室は指先でメガネの縁をあげていう。
「卑怯ですね。一騎打ちを誘って、祭さんへ不意打ちとは」
悪びれも無く颯天はいった。
「予想以上にアンタが速くて試してみたくなったんだ。ここで矛先を変えたら、俺を取るか、それとも彼女さんを取るか、そして追いつけるかなって。」
「やれやれ。悪趣味だ方だ……。私はフェミニストと言いませんでしたか?こういう場合なにがあっても女性を優先しますよ。」
氷室の背中で炎銃は身を震わせた。
「気持ち悪ぃこといってんじゃねぇよ!!サブいぼ出ただろうが!!」