「ま゛で！ま゛っでぐれっ！」

ウォーケンは悲痛に叫んだ。
首を押し潰そうとしている拳を、悠の数倍は筋肉を搭載している両手で持ち上げようとしているがビクともしないらしい。
それでも声を張り上げている。
死に物狂いとはこのことだろう。

悠は何も言わない。もしかしたら理性という物が崩壊しているのかも知れない。

「……」

「あがあぁっ…」

ウォーケンの悲鳴が再び夜空に舞い上がった。
喉が潰せないなら顔を潰す気なのか右手に力がこもり腕には血管が浮き出ていた。

血管が脈動するのに連動して手のひらから血が溢れてウォーケンの顔を血化粧で汚して鼻や口に流れていき気管を支配され陸地で窒息を起こしかけている。

「ｺﾞﾎﾞｯｺﾞﾎﾞｯ…だ…だの…む…ｺﾞﾎﾞｯ…」

「……」

悠はなにも言わずに顔を掴んでいた右手を解放した。
訴えが聞いたのかとウォーケンは血まみれの顔で安堵していたがすぐに凍りついた。

悠はいつの間にかさっき投げ捨てナイフを握りしめて振りかざしていた。

「や、止めてくれ……」

「もう、何もかも遅いんだよ」

冷徹な声だった。
本気で殺すという意識の前には感情など無意味な物だと思わせる。
その殺意だけを込めた刃を振り下ろした。

同時、悠の腕に二人の手が伸びた。
カゲコとコマリがその行為だけは止めようと飛び付いて押さえようとしたが、薬を使用してまで造った筋肉に覆われた大男を片手で押し倒すほどの悠の力を少女二人で止められる訳がなかった。

ドンッ…とナイフは根本まで深々と地面に突き刺さった。
ウォーケンの頬ギリギリを通りすぎたためザックリと傷が刻まれる。

「ひ、ヒイイィィ！も、もう許してください！全部嘘なんだ俺は…久保田には…なにもしてない…あれから一度もあってはいないんだ……本当だ…」

悠は自分の腕にしがみついている二人の少女をゆっくりと押し退けていった。
声には温度が戻っている。

「初めから殺す気なんかねぇよ。久保ちゃんがお前なんかにどうにかされるとは思えないしな……ただ、ひとつだけ気に入らない事がある」

ウォーケンは首をフルフルと左右に振っていった。

「謝る、君へと久保田君への無礼は謝るから…」

「そうじゃねぇ…。謝るのは俺にじゃなくカゲコにだ。人間は機械じゃないんだ。テメェが勝手に処分だの廃棄だのほざいたのを撤回して謝罪しろ。」

「あ、あぁ、影子君…申し訳ない…済まなかった…許してほしい。」

悠はカゲコの方を見た。
口には出さないで「これでいいか？」とアイコンタクトで伝えてくる。
目を赤く腫らした少女は条件反射的にうなずいた。

それを見て悠もうなずき返して、ウォーケンにいった。