悠はジッと襲撃者の顔を見つめた。
しかし、見覚えがないらしく首を左右に振っていった。

「誰だ…てめぇ？」

「ふふっ……誰？誰だと？くくっ…くはっは…くはははは！」

堰を切ったように男は大笑いする。
狂ったように身体を振るって全身で執念というか怨念じみた動きだった。

「俺が…俺が解らないのか！きさま…貴様らのせいで俺の人生はむちゃくちゃになった……それを…それをキサマッアアァアァアァァァァッ」

人はどこでどんな怨みを買うかはわからない。
しかし、今目の前にいるこの男の言葉は狂気さえも帯びて夜空に響き大気を揺らしていた。

おぞましいその雄叫びにコマリは小さく悲鳴をもらし、ライトを構えているヤツの味方でさえ動揺を隠せていない。

だが、そんな怒気を吹き飛ばし返すように悠はいった。

「うるせぇ！それよりテメェこそどういう了見だ…俺が掴まなかったらカゲコの面に刺さってたぞ！」

不気味にうごめいていたヤツはピタリと動くのを止めていった。

「インビジブル(不可視)が見破られた時点で廃棄だ。その小娘はもういらん。」
道ばたに落ちた一円玉を見るような、新しく買ってもらうためにわざと置き忘れたオモチャを立ち去り際に一瞥するような子供のような目が悠の後ろにいるカゲコを切った。

彼女は悠を押し退けていった。

「あたいは柏さんにっ…」

「ミスターカシワはこの私にお前を自由に使うことの許可をいただいている。お前は…用済み、処分だ。」

「そんなっ…」

支えていた糸が切られたようにカゲコは膝を折ってヘタリと地面に座り込んでボロボロと泣きはじめた。
顔を歪めるわけでなく真顔で泣く少女は本当に心だけを切られたように痛ましい。

悠は泣く少女よりも、その姿を見下ろしているボディアーマーの男の醜悪な態度が気に入らなかった。

執念と怨念に狂った表情だったのが今は喜劇でも見つめるような笑顔…。
この男は完全に壊れているのだろう。

悠はカゲコの前に立ちふさがっていった。

「いい加減にしとけよ…お前が誰かは知らねぇ。けど目的は俺だろ。だいたい処分だと？何様のつもりだ。グダグタとくっちゃべってないでとっとと…この傷の代償は償ってもらうぞ。」

腕を伸ばして拳を突きつける悠に男はいった。

「傷の……代償ぉ……？たかが…たかが…切り傷程度で…代償だとぉ？ふ、ふざけるなぁ！俺がこの俺が受けた苦しみに比べたら…」

また狂ったように吠え始める男に悠は一喝した。

「黙れ！！さっきからしつこいんだよ。テメェはいったい誰だ。俺が知ってるっていうなら、なにか証明できることでもあるのかよ。ただの逆恨みか柏の入れ知恵なら……とっとと消えてくれないか。っか、消えろよ。」

悠は返答などは待つ気は更々なかったらしく、喋り終わると同時に右足を振り上げていた。
ヤツの横面にシューズのつま先が襲いかかった。

男はそれをキッチリと右腕でガードして何かを呟いた。