「さぁ、ちっと肌焼いていけや。こんがりイイ感じで夏ギャルに変身させてやるぜあ？」

千草は考えていた。
炎氣…はたして、本当にそんな物が存在するのかと、勁の技は知っている。

だけど、万能に火や雷を操れるものじゃない。
だとすれば……なにかの手品の種(トリック)が…

「きゃあ！」

「！？」

後ろからコマリの悲鳴が聞こえた思考が遮断した。
振り替えると火車の後ろにいたはずのネコと呼ばれた少女がいつの間にか回り込んでいる。

「よそ見はダメだにゃ。おねーさん」

千草は火車を無視してネコを捕まえようとした、伸ばした手が空を切る。
スルリッと避けコマリに飛びかかる。

「そうね。よそ見はダメよね。けど、二人がかりって方がもっとダメじゃない？」

トッ…ゴッ！！
コマリの後ろから腕が伸びてネコの胸元に掌がめり込み。

に゛ゃっと悲鳴をあげて地面に落ちる。
倒れる事はなく跳び跳ねながら体勢を立て直し四つん這いで着地した。

「ライカちゃん。私の後ろに下がって、千草ちゃんはその男に集中してこっちは大丈夫だから。」

千草はうなずくと踵を返し再び火車と対峙する。
鈴猫はまだ四つん這いでいる少女を見る。

ピョンッと手を着いて立ち上がり胸元を撫でながらいった。

「いっちち…びっくりしたぁ～…。おねーさんはだれ？」

いつ飛び着かれても反応できるように八極の構えに入りながらいった。

「私は桜花鈴猫よ。鈴に猫って字。悠の……友達よ。」

「私は猫(ねこ)。同じだねー。おねーさん、強いにゃあ……。けど、どうして今手加減したの？」

「貴女もライカちゃんを本気では狙って無かったでしょ。だから、警告を兼ねて力を抜いた。……ねぇ、退いてくれないかな。」

スズネは八極の構えを解いて諌めるように問いかけた。
ネコは首を左右に振った。

「おねーさんは優しいにゃあ。けど、答えはNO。後ろのおねーさんに怪我はさせにゃいから…。安心してほしいにゃ」

交渉は決裂…
鈴猫は再び八極の構えに入ろうとしたが違和感に気づいた。
右手首がピリピリと痺れている。

「っ？(なにかしら。)」

意識する間にタンッタンッと壁を蹴って飛び掛かってくる。
高速移動の正体は脚力と見た。

敵を蹴る用の脚力ではなくロケットスタートの為の瞬発的に反応できるしなやかで柔らかい筋肉を培っているに違いない。

スピードは確かにあった、だけど、その小柄な身体で突進してくるのはハッキリいって無謀。

スズネは前に出していた右足を退馬歩(後ろ踏み込み)でぶちかましの衝撃を相殺してネコを抱き締める用に捕まえた。

「っ…」
「あにゃ！？」

腹部に打痛と圧迫…。
体当たりは受けとめたが膝蹴りが打ち込まれていた。それでもスズネはネコを離さない。
宙に浮いた状態でいった。

「お、おねーさん、見た目より筋肉質なのかにゃ？」
「そうでも無いわよ。かなり痛いし……。」

退馬歩は後ろに踏み込む歩方。

同時に足から背骨を一線に支える形になり肉をしぼりこむ。
つまり一時的にではあるが下半身の筋肉を張り出す事ができる。