「簡単に言えば人材不足だ。」

「人材不足？」

俺は紅の肩からヒョコッと顔を出す。

「なあ、悠。いかにこの街で人材が払底してるか知ったら、いくらお前でも驚くぞ。」

拳二は腕を組んで首を振る。

「はーい、更に質問。人材が不足してるのは解ったけどなんで、悠なんだ？」

再び、紅が手をあげる。

「力の強い奴、こわれたやつは一山いくらでいる。けど、それなりに切れて裏を知ってて、ガキどもの間を目立たずに泳げる奴はそうはいない。更にこれは崇が言ってた事だ。お前はＳウルフの切り札だって。」

「……」

崇にこんなふうに誉められるためなら、命をおとしてもいいやつを俺は何人か知ってる。
できすぎた言葉。
あやしい。

「と言うわけだ。何も今すぐとは言わねぇ。高校抜けたらとでも考えとけ。ほれ。」

拳二はワニ革の財布を取り出して、その中から名刺を出してくる。

「TEL番だ。困ったら連絡しろ。あと…酒ぐらいやれっだろ？今度飲みにいこうぜ。」

「気が向いたらな。」

「なら早めに向けよ。じゃあな。」

拳二は「がっはは」と大笑いしながら街の中に消えていった。

「ったく、あのオッサンは何考えてんだか。」

「……」

「ん？紅、どうかしたか？」

紅は俺の顔をジッと見てくる。

「ん～…ちょっと嫉妬」

「あっ？嫉妬？」

「崇さんに必要とされてるだろ。」

「バーカ。そりゃお前も同じだろ。崇はああ見えて…」

「いいよ、解ってる。」

「…そか。ま、俺も紅の事を必要だからな。友人として。さっ、帰ろうぜ。」

ポンと肩を叩くと紅はニコリと、きれいな歯を見せて笑った。






ｰ悠の家(玄関)ｰ


「「ただいま～」」

朝でて結局、今昼前…

やっと帰れたと思いながら俺は玄関を開ける。

ズガン！

「痛っぁ！！？」

と同時、視界が回転したと思ったら、地面に叩きつけられた。

「な、なん…むぎゅ！」

ふみ…
何事かと頭を上げようとしたが頭を踏みつけられた。
「ただいま～……じゃ無い…なの」

声に感情を込めずに話してるのは、リアルな天才少女、秋宵月真桜だ。

「ま、真桜さん？帰るなりいきなりひっくり返えされて頭を踏まれるのは酷くないですか？」

「朝でて…何で帰りが昼になる…なの？」

ふみふみ…
真桜は楽しむ様に人の頭を軽く踏む。

「い、色々ありまして…」
ふみふみ…

コイツ、人の頭を足つぼマッサージの道具と間違えてないか？

「色々って…どおせ…頼まれ事をされて……断れずにたらい回しになってたんだろ…なの」

「むぅ…」

反論不可。
見事に正解だ。

「はは、秋宵月の嬢ちゃんは何でもお見通しだな。」

後から入ってきた紅がケラケラと笑う。

「…お前も…同罪……なの」

ズガン！

「痛！」

紅もどうやらひっくり返えされたみたいだ。

ざまぁ…

「ったく…予定が狂いぱなし…なの。とりあえず…さっさと起きろ……なの」


「「はい。」」

俺達は同時に立ち上がる。

「そうだ。…客が…来てる…なの。」

「客？誰だ？」

「牛と帽子と猫…なの」

真桜はそう呟いて歩いていく。