「これを…振りおろす！」

ひゅば…

勢い、重さとも十分な手刀を放つ。

「(ほぉ…成る程成長はしてんなぁ…)たく、てぇしたこたぁねぇなぁ…そんなじゃ爪楊枝すら折れねぇぜ？」

館長はボリボリと頭をかきながら俺を見る。

「そりゃ…館長のに比べたら…」

俺は肩を竦める。

「「俺の」に比べたなんだぁ？」

ずぃっ！
館長は俺の顔をのぞきこむ様に懐に入り、指先でトンっと胸を突く。

「え…ぁ…比べたら威力が違う…」

「あぁ確かにちげぇねぇ。けどなぁやってるこたぁ同じだぜ？」

ググ…
指先に力が込もっていく。

「それは…」

「いいかぁ？体力、技術は修練と努力で習得できんだよぉ。だからこぉして俺ぁ館長って立場で技術を伝えてる。」

「……」

「亮、心技体(しんぎたい)…俺ぁテメェに技体は伝えれても心は伝えれねぇ。」

「心…」

「そぉ、心だ。勝ちてぇつぅ心、強くなりてぇつぅ心上等じゃねぇか。けどなぁお前は「凡才」だ。強くなりてぇなら時間を掛けろ凡才が1日2日で強くなれると思うな！」

羅漢は笑顔で話ていたが、流れる様に三戦に構え。

右腕を綺麗なＬ字に曲げ腰まで引き、真っ直ぐに正拳を打った。

ヒュッ…ガァドッ！

「がはっぁ？！」

皮膚を突き抜け筋肉を無視し、まるで直接内臓に打ち込まれた様な圧迫と衝撃が襲う。

「う゛ぶっぇおぇ…がはっごぼっ…」

ビチャチャ…

襲ってきた圧迫と衝撃に胃は揺れ、驚き。

反射的に体内に残ってた物と胃液を体外に放出する。

「此が空手に人生を捧げた拳でぃ。亮よぉテメェはどう感じたよ？」

まだ、ゲホゲホと嗚咽を漏らしてる俺に羅漢館長はまったく気にせず言葉を投げる。

「がはっ…はぁはぁ…重たい…痛い…硬い……くは…それに何より…」

ヒュッ…ヒュッー…

横隔膜が限界まで持ち上がり。

潰れた肺に酸素を必死に取り入れ…

「濃厚だ…」

「ニィィ…わかってんじゃねぇかぁ。」

館長は半月の様に口を弓引きニタリと笑う。

「どぉれ…構えな。」

「はっ?」

「ま、今すぐ強くなるのは無理でもなぁ。三日ありゃ持ってる『武技(わざ)』を限りなく完成に近づけるこたぁ出来んだぜぇ?」

ひゅっ…ひゅっ…
館長は拳を握り、2度3度と軽く打つ。

「それって…」

「速破突ったかぁ?未完成の高速突き。」

「は、はい。」

「腰を引き地を確りと踏みつけ。腕、っうよりまず肩と腕を繋ぐ間接を引く…」

館長は肩幅程に足を開き、腰をドシリと落とす。

次いで右腕を腰に添える様に引いて構え……

「そっから、肘から先、腕、手首の間接を固定する。さらに拳を固め……打つ!!」

ひゅぅッ…
パアァッン!!!

放たれた拳が空気を壊し
大気が哭く…

「ごくッ……(凄い)」

息をのんだ。

俺が理想としている。

いや、完成形態をたった一度で成功させた羅漢に…

「こんな感じかぁ?」

「は、はい。完璧です。」

「完璧なぁ…」

館長は右、左と首をゆっくり振りながら拳を見つめる。