ｸｯｸｯ…ひゅん…
手首を振り、宮塚は鞭を急ぎ手元に戻す…

その間…約3秒

ダッ！ダッ！ダン！

「くっ！」

しかし……
その3秒が宮塚にとって…
一番畏れていた結果を生んだ…

ガシッ！

「捉えたぜ…」

悠は宮塚の胸ぐらを力いっぱい掴み上げる…

1秒で1歩…
2秒で2歩…
3秒で3歩…

人は…一撃で倒せぬが3歩あれば倒せる…

「ぐっ…(三歩破軍…)」

1歩目で崩し…
2歩目で撃ち…
3歩目で備える…

昔に…槍が相手ならば地を丸太橋と思えと云う…

その世界に「横」は無い…

攻めるも守るも縦方向しか動いてはならん…

体育の反復横飛びを思い出して欲しい。
一見すると俊敏で捉えにくい運動に見えるが…

反転の時に慣性エネルギーを相殺しなければならないため一瞬とはいえ静止せねば次の行動に移れ無い…

槍の間合いの中で静止とはつまり……【死】を意味する。

それは鞭とて同じ、当たれば皮膚を裂き、肉を潰し、骨を砕く…

しかし、突いてくる槍の穂先(鞭)に対して己も踏み込むのは口で言うほど容易くは無い。

それに踏み込むために必要な物…
それは……

勇気

迫り来る【恐怖】捩じ伏せ相手の懐に飛び込んで初めて相手の備えは【崩れ】勝利を得る！

「うぉらぁ！(真技・空転硬爬山(くうてんこうはざん)！)」

掴んだ胸ぐらを自らの元に引き込みながら、右腕を宮塚の腹部に当て其処を支点に…

ブォン！
背後へと投げ飛ばし…

ダン！
踏み込むと同時に…背中をぶつける！

【真技・空転硬爬山】
合気道の空転(近距離で相手を掴みテコの原理で真後ろに投げる技)と八極拳の猛虎硬爬山(踏み込みと同時に背中を相手にぶつけて重い一撃と気を打ち当てる技)を組み合わせた技」


頭から落下していく宮塚に迫る一撃…

悠の勝利が確定し…

「……ふっ…」

パァアァン！

「ぐっ？！があぁぁぁ？！」

ドン…ザリリ…

「ふぅ…ごほっ…アブねぇ……」

しゅるる…
宮塚は猛虎硬爬山が直撃するが既に威力が落ちたため簡単に受け身をとる。

「痛…ぁ…ぐっ…」

対して悠は嗚咽を漏らし…

片膝を着いて屈んでしまう…


「…一流の鞭使いは……」

ひゅん…ひゅん…

宮塚の手から黒蛇が二匹うねる…

「…片手で二本扱える。」
長い馬尾鞭を確り握りながらも…

人差し指と中指の間から短いゴムの鞭が延びている…

「ぐっ…(油断した…)」

悠の背中は……
右肩の付け根(右首の下辺り)から左斜め腰の辺りまで線上に服が破け、肉が削げ落ちている…

「……右(手)は使わないじゃなく使え無かったのか…残念だ。」

間を置かず…

宮塚は止めの一撃を与えんと鞭を振り下ろした…

ひゅっ…

「(くそっ…こんな所で…)」

今まで幾度と無く【激痛】(いたみ)に受けてきた悠だが…

立ち上がる事も受ける(ガード)仕草もとれずにいた。

鞭…
鞭は精々、競馬で使われる物位にしか思わないだろう…

だから、改めて言おう、アレは武器なのだ…

中東の辺りではいまだに鞭打ちの刑が残っている。
刑の重さに従って叩く回数が決められているが……

意味がない…
何故？
それは決められた回数に達する前に死ぬからだ…

前面の数倍は強靭な背面…背中や尻、そんな急所でも無い部分を叩くにも関わらず…

十数回、悪ければ数回で…ショック死、激痛のあまりに身体が死を選ぶのだ。