ｰウェスタンパーク前ｰ

「……」

ウェスタンパークの入り口を目の前に悠は近づけずにいた…

「…いくぞ」

「あぁ…(弱ったな…)」

立ち塞がる男、宮塚。
さっきまでなら互いの制空圏(攻撃の間合い)は同等…
だった…

しかし、今は…

「…(4、5倍以上かよ…)」
宮塚から円状に軽く3メートルは制空圏が広まり。

今悠が立ってる場所もすっぽりと収まってしまっている。

「はっ…」

ひゅ……

地面を這いていた黒蛇(鞭)が生きているかの如…

斜め下から悠目掛け襲い掛かる。

「…っ！」

ザッ！パァン！

後ろに跳び下がるが、悠の顔元で空気が割れる…

「ぐ…っ！」

ひゅるる…パシッ…

手首を二、三振と黒蛇は波を立てながら宮塚の手中に戻っていく。

「なろっぉ…」

悠の両目が赤く充血する…

「……鞭「は」避けたか」

ｼｮｯｸｳｪｲﾌﾞ(衝撃波)と言う言葉を知っているだろうか？

弾丸やジェット機、火薬の爆発で生まれる波動が音速を超えたこと事を知らせる波。

その衝撃の波が目の前で爆ぜたなら…

人の目など簡単に破壊される。

「…(ぼやけやがる…回復には時間が掛かるな……)」

悠は改めて鞭の恐ろしさを認識した。

音速…
そんな、エンジンや爆発でしか出せないはずの超音速を「人力」で出せる道具「鞭」

「ふっふふ…(やれやれ、ダメだな俺は…こんな時にも…)」

楽しいって…思うなんて…

ザリっ…
悠は半歩だけ前に進む。

「……」

しかし、宮塚は動かない。否動く必要が無い。

「…(駄目か食い付かない)」

攻撃後の隙を討つ！

単純で当たり前、しかし、それが悠にとれる一番最高で決定的な行動だった…

だが…
宮塚は動かない…

頭の良い魚は疑似餌(やすい餌)には食い付かない様に…

本物の餌が制空圏内に入った時だけ喰らう…

「…来ないのか？」

「はっ…………行ってやるよ！」

本来…
この勝負時間を掛け……

無数に絡まった糸を一本一本、解いていく様に確実に攻略するべきだった。

ザリ…

しかし、この男(馬鹿者)は死地に真っ正面から挑む。
無謀、無茶、無計画

何がこの男を向かわせる？

囚われた海達への安否が…
まだ見ぬ相手への挑みが…
五体に巡る小鳥遊の血が…
もしかしたらその全てが混ざりに混ざり…

突き進ましたのかもしれない。

「すっ…ぱぁ！」

ドッ！ザッ…！
縮地は使わず、息を吐き出しながら、トップスピードで走り出す。


「…ふっ、破！」

ひゅっ！パァン！ブチチ…

「のっぉ！」

首元を目掛け襲い来る黒蛇を避けるが…
悠の後ろ髪が散る…

「(あと、数メートル！)」
ひゅるる…
コンマ数秒で宮塚の手元に戻り

「破ぁっ！」

ひゅっ…ん！

「？！」

再び首を喰らおうと襲い掛かってきた黒蛇は突然左右に細かく波打ち…

バッビュン！！

首を狙っていた黒蛇はガグッンと落ちて脚に喰らい付く…

「っとぉ！」

パァアァン！

「っち…(器用な真似を…)」

悠は靴を飛ばし、黒蛇は本体を喰らえずに靴を打ち抜いていく…