「くっ…はは…」

「ぐちゅ…ｶﾞｼｭ…ｶﾞﾁｭ」

「くはははは！そうか！成る程、柳が正しかったか！ははは！」

「グルルル！」

魔獣は弥一を睨む。
高々数分で200キロ超の肉を食らい終わり次の肉(獲物)を狩るために…


「俺を喰らうか？やってみろよ？犬。」

ゴッ……

「(消えた…)いや、そこか！」

バァンンｯ！？
強風…突風…神風…

爆発にも音と風、黒犬が消えた瞬間、弥一が立って居た場所が大きく抉れた…
「グルルル！」

「成る程中々速い…」

最初、熊を葬った一撃…
犬科最大の持ち味である脚力に物を言わせ飛びかかり、その巨大な前足での一閃…

すべてが規格外…
すべてが完璧…
すべてが異質…

ライオン？熊？シベリア虎？チーター？鰐？そんな者は最早別格。

犬としての身体を超え
シベリア虎の速さを超え
熊の腕力を超え
狼の気高さを超えた…

獣が目の前に居る。

「ふっ、ははははは！最高だ、太古より生き残った獣か異の進化を得た獣か！どちらでも構わん！」

本来、人間ならこの異質に泣いて悲願するであろう。生き延びたいと…

だがそれは不可能、0スタートと同時に100エンジンを掛け動ける生き物から逃れる生き物は存在しない…それは勿論弥一も例外では無い。

「どうした？来いよ？」

ただし、それは逃げるとしたらの話…
弥一には関係無い事だ…

「グルルル！」

ズガッ！ﾄﾞｶﾞｶﾞｯ！

黒犬は地面を割らん勢いで再び飛びかかる。

ビュザ！

弥一はグッと右へスウェイ(上半身のみの回避)で死の風を紙一重で避ける。

バギギギ！ｽﾞﾄﾞｫｫﾝ…
死の風が直撃した木は無惨に薙ぎ倒れていく。

「ほぅ(まだ速くなるか)」
「グルルル…」

この時、獣のは考えただろう「コノイキモノハナンダ？」と…

「次は俺からだ」

ﾄﾞｯﾝ！

弥一は笑うと同時に姿が消え…

「グルァ?!」

ﾋｭﾀ…
ﾄﾞｶﾞｶﾞﾝｯ！

獣は横に跳び大きくその場から遠退いた。…

「避けたか…」

弥一は地面に突き刺さった拳を引き抜く。

「グルル…」

四足獣は人間の其とは違う関節の造りにより並外れた脚力を生む事で放たれる体当たりはまさに、0～100のﾆﾄﾛﾌﾞｰｽﾄ。

「くくく…」

そして、本来人間には決して真似の出来ない、ﾆﾄﾛﾌﾞｰｽﾄ脚撃を見せつけた弥一。
「そら、続けるぞ？」

「ｸﾞﾗﾞｧ！」

ｽﾞﾄﾞｫｫﾝ！岩が砕け…
ｶﾞｺﾞｫｫﾝ！木々がへし折れ…
ｸﾞｫﾄﾞｫｫﾝ！地が抉れ…

2つの死が山を壊し蠢く…
ビュザ！

「捕まえた！」

互いに触れられ無かった死、先に掴まえたのは弥一だった。

一撃を避け、自分と交差する瞬間右拳を顔面に叩き込むように振り抜いた。

「グルワッッ！」

「チッ！」

弥一は顔面目掛けた拳を地面に向けた。

ﾄﾞｶﾞｯ！
ｶﾞｷｬﾝ！

「獣が…」

「グルルル…」

獣は大きく口を開き鋭利な刃(歯)を見せつける。
あのまま放てば拳は腕から離れていただろう。

「知恵もあるか…」

「グルル…」

勢い突いた拳の方向を変えた弥一
体当たりの最中に口を開いた黒犬

人の反応速度を超えた人間
獣で有りながら知を使う黒犬
互いが互いの力量を計り違えていた…

「グルル…」

「ふっ…」

二対の距離は互いに射程内…
ガッ！ガッ！ガッ！
先に仕掛けたのは黒犬。

「ふっ、はっ、っ！」

一撃目は右前足を縦振り
半歩後ろに跳び

二撃目は真横に一閃
身を屈め紙一重で避け

三撃目は顔狙いの突き
身体を捻り一回転し直撃は受けない物の髪の一部を持っていかれる。

「…(大技のみならまだしも小技に隙の無い斬打撃…)」

「グルルル！」

この勝負イーブンと思われるが…
弥一は圧倒的アドバンテージを背負っていた。

それは一撃も受けられない事。
破壊力的な意味でならこの獣を前には本来人間など紙きれと同じ。

しかし、小鳥遊弥一は違う一撃を見た時、耐えられる事を確信していた…だが、受けない、受けられない答えは簡単、野生獣の爪、歯には細菌やウィルスの巣窟下手に傷を追えば破傷風、狂犬病、化膿…あらゆる狂気が待っている。

「……(一撃も受けず、更にあの速(はやさ)に反応して倒す……)」

「グルルル！」