ｰ山道ｰ

ｽﾞﾁｬ…ｽﾞﾁｬ…

山の中は木々が生い茂り人の通りは少ないのだろう。道が草で覆われつつある。
「さて、鬼が出るか蛇がでるか。」

人の道をわざと避け、獣道に進む弥一。

「む？」

暫く進む内にあるものが目に入り歩みを止める。

「これは…」

山では時折見るで有ろう物、獣の爪痕。

「熊…か？」

弥一の身長は約2メートル前後で体格もかなり良い。しかし、目の前の大木にある爪痕は子供の手が入るほどの溝を斜めに刻み込んである。

「(少なくとも全長270～370で体重は200～300は越えているな。)」

普通ならこの様な物を見たら引き返すのが当たり前、だがこの男は違う。

「ｸﾝ…水場が近いな…」

ｽﾞﾁｬ…ｽﾞﾁｬ…
更に山中に進んでいく。

…………

ｰ小河ｰ

「ふむ…」

獣道の先に有った水場は人の手が入って居ないのが一目で分かるほどの自然。

「……」

河に近づき辺りを調べると獣の毛が落ちている。

「化け物？はっ…正体は所詮獣。」

山のヌシは熊、つまり…神隠しでは無く骨も残さず喰われた。

…………ｶﾞｻﾞ…

「！どうやら…嗅ぎ付けたか…」

河の流れに木々の揺らぐ音の中感じた、常人には…いや、人間には感じ取れぬ、近づいて来る気配を弥一は待ちわびた。

ザザザ！

「ゴァァ！」

草木を薙ぎ倒し飛び出て来た者…

「グァアァァ」

熊、想定以上に巨大な熊、体長は2メートルは超え体重は軽く200を超える程強大な熊。

「…違う」

弥一は動かない、いや、動く必要が無かった。

死…

最大最長の獣は「死」を告げた目…

「グァマアァァ゛!?」

つまり…この熊は…

ビュザ！
ﾌﾞﾁﾞﾁﾞﾁﾞ…

捕食者(狩る者)では無く…獲物(狩られる者)…
弥一の思考が答に行着くとほぼ同時…

獲物(熊)はそのｺﾝﾏ数秒で頭が消えた…

ズシャァァ…

「これは…」

熊を一撃で倒(絶命)した捕食者…

犬科目最大の生物は現在熊とされている。
ただし、それは最大サイズの話だ。
犬科最強の捕食者は狼、巨大な身体を持たないが最速の暗殺者。

そして…更にその上をいく猫科目最大の生物シベリア虎。

最大全長300超、最大重量400超を誇る四足獣界最強に近い生物。



だが………

今、目の前に居る

「者(生物)」

はシベリア虎のサイズを保持し、一本一本が鋭利な針の様な毛並みを持つ魔獣(黒犬)…

「ウォオォォーン！」

ｶﾞｼｭ！ﾌﾞﾁﾞﾁ！ｸﾞｼｭｸﾞｼｭ！
咆哮を挙げると同時に肉塊を貪り喰らう魔獣…