knkm短編
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※ネームレスです
腹が減った。しかし何か食おうと思っても、別に腹が満たされればいいと思っている月島はここのところ同じ店で蕎麦を食べている。若草色の暖簾を押し退け店内に入ると聞き慣れた快活な声が飛んでくる。
「あっ、月島さん!」
「どうも、こんにちは。」
小花柄の可愛らしい着物を身につけている彼女はここの店員だ。昼時は大忙しらしく、ぱたぱたと店内を行き来している姿をよく見ていた。
「今日もかけ蕎麦ですか?」
「はい、お願いします」
最近はこの会話が定着している。彼女は覚えが良いようで、訪れて三回目ほどにはかけ蕎麦かを聞いてくるようになった。
かけ蕎麦一丁ー!と厨房に声を掛ける彼女を横目で見ながら、月島は軍帽を外した。
「今日は空いてますね。」
「ええ、昼時は少し過ぎましたから、落ち着きました。月島さんとお話出来る時間が取れて嬉しいです」
「…そうですか」
「はい。今日も巡回ですか?」
「ええ」
「毎日お疲れ様です、…あ、かけ蕎麦お待たせしました!」
月島はこうして彼女と他愛も無い話をしている時だけ、少しだけ自分が置かれている状況を忘れる事が出来た。
仕事も、金塊も、故郷も、あの人も。風呂に入っても、与えられた自室で横になっている時も、銃を構えている時も頭から離れなかった事が、この店に来て彼女と話すだけで何故か脳みそを空っぽにする事が出来た。
「月島ぁ!どうせここだろう!」
「…他の客に迷惑です、少尉」
出来たのだが。それも今日は少しの間だけだった。勢いよく入ってきた鯉登の声で現実に引き戻された月島は深い溜息を吐いた。
「別に他の客は今居ない、そうだろう?」
「はっ、はい…」
「鯉登少尉も座って食べたら如何ですか」
「ふむ、偶にはそれも良いな。にしん蕎麦をくれ。」
「はいっ、ただいま!お持ちします!」
本当に座って食うのか、と内心月島は苦虫を噛み潰していた。並の量を食べ終わった月島が席を立つとまた鯉登が「もう行くのか月島!」と吠えていた。
彼女が鯉登と話をしたくて落ち着きがなくなっている様を、月島は見ていられなかった。
「月島さん!ありがとうございました、また来てくださいね。」
俺への礼じゃないだろ、それ。別の男に好意を抱いている彼女は、月島のその先を見ている。それを知っている彼は今日もその言葉を『幸せだ』と自分を騙すのだ。
「ええ、また来ます。」
店を出た後に聞こえた「置いていくな月島!」という声と、出る間際に見た彼女の赤らめた頬を思い出し、また一人歩き出した。
***
お題は【君に恋したあの日から。】より、
『幸せだ、と自分を騙した。』です。
お題見た瞬間月島さん…ってなりました。
圧倒的闇深は悲恋が似合う。好きだよ月島さん。
22.04.20
腹が減った。しかし何か食おうと思っても、別に腹が満たされればいいと思っている月島はここのところ同じ店で蕎麦を食べている。若草色の暖簾を押し退け店内に入ると聞き慣れた快活な声が飛んでくる。
「あっ、月島さん!」
「どうも、こんにちは。」
小花柄の可愛らしい着物を身につけている彼女はここの店員だ。昼時は大忙しらしく、ぱたぱたと店内を行き来している姿をよく見ていた。
「今日もかけ蕎麦ですか?」
「はい、お願いします」
最近はこの会話が定着している。彼女は覚えが良いようで、訪れて三回目ほどにはかけ蕎麦かを聞いてくるようになった。
かけ蕎麦一丁ー!と厨房に声を掛ける彼女を横目で見ながら、月島は軍帽を外した。
「今日は空いてますね。」
「ええ、昼時は少し過ぎましたから、落ち着きました。月島さんとお話出来る時間が取れて嬉しいです」
「…そうですか」
「はい。今日も巡回ですか?」
「ええ」
「毎日お疲れ様です、…あ、かけ蕎麦お待たせしました!」
月島はこうして彼女と他愛も無い話をしている時だけ、少しだけ自分が置かれている状況を忘れる事が出来た。
仕事も、金塊も、故郷も、あの人も。風呂に入っても、与えられた自室で横になっている時も、銃を構えている時も頭から離れなかった事が、この店に来て彼女と話すだけで何故か脳みそを空っぽにする事が出来た。
「月島ぁ!どうせここだろう!」
「…他の客に迷惑です、少尉」
出来たのだが。それも今日は少しの間だけだった。勢いよく入ってきた鯉登の声で現実に引き戻された月島は深い溜息を吐いた。
「別に他の客は今居ない、そうだろう?」
「はっ、はい…」
「鯉登少尉も座って食べたら如何ですか」
「ふむ、偶にはそれも良いな。にしん蕎麦をくれ。」
「はいっ、ただいま!お持ちします!」
本当に座って食うのか、と内心月島は苦虫を噛み潰していた。並の量を食べ終わった月島が席を立つとまた鯉登が「もう行くのか月島!」と吠えていた。
彼女が鯉登と話をしたくて落ち着きがなくなっている様を、月島は見ていられなかった。
「月島さん!ありがとうございました、また来てくださいね。」
俺への礼じゃないだろ、それ。別の男に好意を抱いている彼女は、月島のその先を見ている。それを知っている彼は今日もその言葉を『幸せだ』と自分を騙すのだ。
「ええ、また来ます。」
店を出た後に聞こえた「置いていくな月島!」という声と、出る間際に見た彼女の赤らめた頬を思い出し、また一人歩き出した。
***
お題は【君に恋したあの日から。】より、
『幸せだ、と自分を騙した。』です。
お題見た瞬間月島さん…ってなりました。
圧倒的闇深は悲恋が似合う。好きだよ月島さん。
22.04.20