青楼・小話

小話8 『休日』

※この話は長編小説『青楼』第二章でシーザーが兄の元を去らず、上官トーラス・グスタキオ(オリキャラ)と兄を取りあうという設定です。
※BL注意!

 陸軍の軍団総司令参謀なんていう大層な肩書きを手に入れた兄は、留守の間の自分のことが心配だからという理由で小さいながらも庭付きの家を購入した。上層区という場所柄、同じ金額を中層区で出せばそれこそ豪邸が手に入るというほどの地価の高さだと、友人が話していた。
 休日ということもあって、昨夜は夜遅く…というより夜明けまで兄によって散々な目に遭い、腰どころか全身の節々が痛むという事態に陥っていた。そんなわけで寝坊は勿論のこと、起きて着替えてみたもののダルさも手伝ってソファの上でも惰眠を貪っていた。
 玄関から呼び鈴の音が聞こえたが、どうせ兄が出るので放置しておく。するとしばらくして聞き覚えのある声がしたので、なんとなく起きていた方が良いような気がしてゆっくりとそこから起き上がる。
「よう、元気か?ボウズ」
 現れたのは兄の上官で、トーラス・グスタキオ軍団長。兄も充分に長身の部類に入るというのにそれを越える大男だ。そろそろ40歳近いというのに結婚もしないでフラフラと遊んでいる。本人曰く、独身主義とやらで一生結婚せずに好き勝手に生きるつもりらしい。
「閣下はいつも元気そうだね」
 ついでに能天気そうだ、と言ってやりたかったが兄の手前、そうは口にしなかった。
「好きな奴に会いに来ているんだ。元気なのは当然だろう?」
「好きな人ってアルベルト?」
 まあな、と彼は嬉しそうに笑う。兄の方をチラリと見れば、どうでも良さそうな表情でテーブルの上を片付けている。
「…」
 実際に兄はどう思っているのだろう。兄は昔から異常にもてる。それこそ男女問わずに。あまりにもジッと見ていたのに気づいたのだろう。こちらに視線を向けた兄が苦笑を洩らしながら名前を呼ぶ。
「シーザー」
 今更顔を背けるのも子供っぽい気がして、不機嫌ながらも
「なに?」
と問い返す。
「お茶の用意をしてくれ」
 穏やかな口調で言われ、大人しく頷いてキッチンへと向かった。この家にも家政婦はいるが平日のみで、休日は自分と兄でどうにかしなければならない。兄が客の相手をするとなれば当然自分がお茶を出すことになるわけで…。

 紅茶を淹れてリビングへ行くと、兄と客が談笑していた。
「次の日曜の遠出には来ないのか?」
「ええ。先約もありますし、閣下はどうか他の方々と御ゆるりと…」
 確かその日はオレと買い物に出かける予定だ。多分それを覚えていて、断ってくれたんだと思って嬉しくなった。
「先約だと?」
 途端に閣下は不機嫌になってしまう。
「誰とだ?」
「あなたに関係ないでしょう?」
「いいや、オレの誘いを断るなど…相手のことを聞かずして納得などできるものか」
 だがアルベルトはフイと緩い仕草で顔を背けたまま、答えようとはしない。
「アルベルト。…オレはおまえに関しては多少のことは目を瞑ってやっている。だが、オレを無視するようなことは断じて許さん」
 そう言う男の手が兄の首にかかり、自分の見ている前でアルベルトの喉が締め付けられていくのを目撃する。
「止めろよ!」
 いくら何でもまさか閣下がアルベルトに暴力を振るうとは思ってもみなかっただけにショックだった。
「止めろ、アルベルトから離れろっ!」
 大好きな兄。自分にとっては大切な、何よりも掛け替えのないものなのだ。だが自分が近寄りかけると
「動くなシーザー…っ!」
アルベルトから制止されて体の動きを止める。だけど自分の見ている前でアルベルトの首が締め付けられていくのを黙って見ていることはできず、
「次の日曜にアルはオレと出かけるんだ!」
そう怒鳴るように答えた。その途端にアルベルトへの暴力の手は緩められる。
「シーザーと?」
 アルベルトは答えたくないといった様子ではあったが、ええ…と頷いた。それを見て、閣下はニヤリと笑みを浮かべる。
「…なるほど。弟の前でおまえに手出しをした方が、おまえ一人を締め上げるより効果的というわけか」
 もしかして…拙い人物に弱味を握られてしまったのだろうか?苦虫を噛み潰したような表情のアルベルトの傍で何事か企むような閣下の笑み。何だか嫌な予感…。
「よし、日曜には弟も連れて来い。命令だ」
 予感は的中。命令だと言われてしまってはアルベルトとしても断りづらい。この場での思いつきとはいえ、軍団長からの命令だ。アルベルトに断ることなどできるはずもなかった。
「御意に」
 そう答えて頭を下げた。無論自分としても責められるはずもなく、諦める他はない。せっかく、アルベルトと二人きりで過ごせる休日だと思ったのに。いつも、いつもあの軍団長閣下が邪魔をしてくれるのだ。

 軍団長閣下の強引な命令で馬での遠出に行くことになった。話の流れではオレの分も用意して貰えるとのことだが、当日その場へ行ってみると兄に促されて同乗することに。
「オレの馬は?」
 アルベルトに聞くと不要だと言われる。
「…おいおい。過保護が過ぎるんじゃないのか?」
 軍団長にもそう言われて、周囲にも笑われてしまう。
「アルベルト、やっぱり…」
「構うな」
 いやいや、構うよ。だってオレのせいでアルベルトが笑われるじゃないか。それに自分を乗せていたら彼らから大分遅れるんじゃないのかなぁ…と心配になってしまう。
「でも…」
「黙っていろ。舌を噛むぞ」
 形式ばった挨拶など特になく、時間になった途端にトーラス軍団長を先頭に一斉に駆け出した。予め指定された時間より1時間前に到着していなければならないと聞いた時には、軍人ってのも大変だなぁとしみじみと思っていた。しかし指示された時間が集合ではなく出発時間とは…。
 今回の参加は20名ほど。軍団長と副官の二人、あと従卒の二人も来ている。従卒たちもオレ同様、他の後列を行く人に乗せて貰っている。言っておくけど、オレは馬に乗れるのにアルベルトが無理矢理乗せたんだからな!…って、誰に力説してんだか…。
 あとは都合のつく師団長とその副官や補佐なんかがいる。オレは軍団長からアルベルトのオマケとして呼ばれたわけだけど、他は誰からか情報を聞きつけて参加の意思を直接伝えに行くらしい。
 強制ではないんだけど余程の用事がない限りは参加するもので、アルベルトみたいに弟と買い物へ行く…なんてことで断る人間は皆無だという。結局それは却下されたものの、そんなことを言えるだけ兄の扱いは別格なんだろう。オレの前でもそうだけど、仕事中でも暇さえあればアルベルトを口説いているらしいから。
「アルベルト」
 途中で師団長の一人が前方からやってきた。大抵は『参謀』と役職名で呼ばれるので、名指しは珍しい。
「ルーアン少佐」
「軍団長たちは先に行って獲物を仕留めるそうだ」
 わざわざ伝言を知らせに戻ってきたのだろうか。
「…では我々はスーノの池へ向かうとしよう」
 その池はこの先10kmほど行ったところにある、最大幅は300mほどの比較的大きなものだ。
「止めないのか?」
「少佐がここへやってくる間に、とうに行ってしまっている。今から全力で追っても追いつけはしない」
「…まあな」
 彼は頷いて、馬を反転させると前方へと引き返していった。どうやら自分たちより後ろには人はいないらしい。
「やっぱオレがいるから馬足が落ちてるんじゃないか?」
 そう問いかけると、関係ないとの返事が返ってきた。しかもさっきよりも遅くなっている気がする。
「…なぁ、追い付かなくていいの?」
「さっき少佐に言ったとおり、追い付くことなど無理だ」
 オレが言いたいのはそういうことじゃなくて…。しかも何故か馬の足が止まってるし。
「アルベルト?」
 突然兄は馬から下り、次いで自分も下ろしてしまうと、馬を引いて道から逸れた林の方へと向かう。どこへ行くのか不思議に思いながらとりあえずついていくと、小さな川に行き着いた。そこで馬に水を飲ませ、手頃な大きさの岩に腰を下ろした。
「馬を休ませるためだったのか…」
 だがアルベルトはいいや、と首を横に振る。
「おまえ、何か作ってきているんだろう?出せ」
「今食うの?」
 朝、余分に食事を用意していたのを見ていたらしい。朝食のサンドイッチとは違う具の入ったもの。遠駆けの際の昼食については聞いていないが、多分狩りなどの獲物を食べるんだろう。でもアルベルトは肉は好きじゃなく、きっと食べないだろうからと念のためにランチ用に持ってきたのだが。
「…軍団長が獲物を仕留めるというのに、その目の前でおまえの用意したものを食べるわけにいかないからな」
「あ…そうか」
 それについては全く考えていなかった。言われてみればアルベルトが軍団長に対等であるかのような態度を取るのは自宅のみで、しかも彼が一人でやってきている時に限られていた。周囲に人がいれば、例え軍団長本人が許しても不敬になる。それに参謀が軍団長に従わないと見られれば内部の結束が乱れる。…そういうことだ。
「獲物はどうせ猪かフライリザードだろう。おまえが用意してくれて助かった」
 そう言って頭を撫でながらアルベルトが笑ってくれた。
「あのな、タマゴのとチキンのがあるんだ。アルはどっちが…」
 良い?と言いかけた言葉は声にならず、アルベルトの唇に塞がれていた。
「ん…」
 決して性急ではないが、丹念に繰り返されるキスに、序々に息を乱されていく。下唇をゾロリと舐められ、口腔内に舌が入ってきて歯列をなぞられる。少しでもその動きに追い付こうとするが、逆に舌を絡められ吸われて翻弄されてしまう。
「…はっ…ん…」
 いつの間にか岩の上に横たえられ、アルベルトに圧し掛かられるような体勢になっていたことに気づいたのは、ズボンのベルトに手をかけられてからだった。
「や…っ…やだ、…こんなとこで…っ」
 だけど本気で抵抗しているわけでもない自分の制止など兄が聞くはずもなく、首筋に顔を埋めながら手際良くズボンを膝辺りまで脱がせてしまうと、躊躇いもなく熱を持ちかけているソレが口に含まれる。
「…あっ…ん、…やだ…って…」
 いきなりの行為に驚いて身を引きかけたものの兄の手管には勝てずに、深く根元まで銜え込んで唇と舌で扱かれる感触に、思わず興奮して腰を浮かせる。こんなところで、こんな姿で…こんなイヤらしいことをするなんて嫌なのに、相手が兄だというだけで許してしまう。
「ダメ、…アルっ…ぁ、あ…っ…」
 川の傍にいるというのに周囲に淫猥な水音が響くんじゃないかというほど、激しい口淫を受けて快感を追ってしまう。兄の頭を掴んで無意識に自分の局部に固定し、腰を押しつける。兄の唇が、自分の先端に吸い付くような素振りを見せた。
「あ、あ、あぁ…っ!!」
 おかげで射精はあっけないほどに早く訪れた。
「…は…ぁ…」
 急激な快感に、局部が痺れるような感覚がする。ぼんやりした頭で兄の顔をみながら、それが近づいてくるのを見て思わず両手でガードしてしまう。
「なんだ?」
 問われて、嫌だと首を横に振る。
「飲んだのでキスすんな!」
「…自分のだろう?」
 だから余計嫌なんだ!
「嫌だっ!口濯いで来いよっ!!」
「仕方ないな…」
 こちらが如何にも我がままを言っているような素振りで溜め息を吐き、川の方へと歩いていった。オレか?オレが悪いのか!?いいや、アルベルトがおかしいんだっ!こんな場所でするし…。気持ち良かったのは確かだけど…でも、オレが言いだしたことじゃないからっ!
 その後は濡らしたタオルで自分の下腹部を拭ってくれて、それ以上のことはしてこなかった。大人しく用意したサンドイッチを食べると、馬を引いて元の道へと戻った。
 それにしてもアルベルトはいいんだろうか。…オレばっかりして貰って…。いや、例えば自分が手で処理したとして、それで済むとは思ってないんだけど。でも口はなぁ…。本番なんてのは馬に乗れなくなるからもっての他だけど。いや…やっぱり黙っていよう。それに限る。
「どうした?…顔が赤い」
「!…な、なんでもないっ」
 さっきまでは何ともなかったのに、背に兄の体温を感じていると意識したらなんだか鼓動が速くなった。
「一度だけでは足りなかったか?」
「な…っ!」
 いつもより低いトーンで耳元に囁かれ、一気に体温が上昇する。無理矢理しておいてなんてことをいうのかと、頭にきて兄の足を蹴りつける。とはいっても自分の後ろにいるので、大した衝撃にはならないのだが。
「…二人だけなら、あのまま抱いても良かったが…」
 だから、耳元で囁くなよ!
「黙れっ、この色魔っ!」
 今度は肘鉄でも食らわせてやろうかと思ったのだが、そうする間もなくアルベルトに背から抱き込まれ、腕を動かせなくなる。
「暴れるな。馬から落ちる」
「誰のせいだと思ってんだ…っ」
 だがその反論にも動じず、自分を肩腕で抱いたまま馬を走らせる。それ以上ヤツが喋ることはなく、だけどその沈黙はそれほど居心地の悪いものではなかったために、強張っていた体の力を抜き、背後にいる兄にその背をもたれさせた。


  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 弟と共にスーノの池に着いた時には、既に軍団長たちが仕留めた獲物を丸焼きにしていた。さすがにかなり馬を飛ばしたせいで腕や腿に負担がかかっていたのか、自分に続いて馬から下りる際に弟の体が大きく傾いだ。
「うわっ!」
 それを横から支えたことで落下することはなかったが、面倒なのでそのまま抱き上げて下してしまうことにした。
「…大丈夫か?」
「あ…うん。ありがと」
 周囲の視線を感じたのか、恥じらうように頬を染めて俯く弟に、思わず笑みを浮かべてしまう。だがこちらの視線に気づいて、やや気分を害したように眉を顰める。弟の機嫌を取るのは意外と難しい。
「あとはオレがやっておくよ」
 そう言って自分から馬の手綱を奪い取る。せっかくやってくれるというのだからそれを断るつもりもなく、頼んだぞと告げてその場を離れた。馬の扱いのわからない弟ではないし、比較的大人しい馬だから問題はない。
 獲物はフライリザードのようで、焼きながら外側を順に削ぎ落していく。その際に滴り落ちる油も焼かれる獣の匂いもどちらも好きではなかったが、かといって他人の楽しみに水を差す気もない。軍人は肉が好き、とは一概に言えないが多いのも確かで、こうして狩りでそれらが振る舞われるのを彼らが楽しみにしていることも確かだ。
「遅くなって申し訳ありません」
 軍団長の元へ行き、身を屈めると片膝を落として謝罪する。
「構わん。こちらも勝手に始めていたところだ」
 言葉通り、既に酒樽は開けられていた。
「弟とのデートは楽しかったか?」
 無論嫌味だが、それに乗ってやるのも悪くない。
「お気遣い頂いて恐悦至極。おかげ様で…と申し上げておきましょう」
「ほう…」
 池で馬の世話をしている他の士官たちと、楽しそうに話をしている弟の姿が目に入る。
「どこがいいんだ?あんな痩せているだけの子供の…」
「それの何が悪いんです?」
 子供が好きなわけでも、華奢な体だから良いわけでもない。弟だから良いのだ。それ以外何があるというのか。
「シーザー!」
 少し離れてはいるが、自分が呼ぶと馬の世話を他に任せてすぐにやってくる。
「おーおー、犬っころみたいにまっすぐこっちに来る」
 ハルシュタットの揶揄に思わず自嘲する。どちらかといえば猫っぽいのだが、しかしこうやって自分に向かってくる姿は仔犬のようだと思えないこともない。
「なに、アルベルト」
「まだ食事を取ってないだろう?」
「え、オレも食っていいの?何にもしてないけど」
 そういって首を傾げながらこちらの顔と皿の上の肉、軍団長の方をそれぞれ眺める。
「構わん、好きなだけ食え」
「じゃ、遠慮なく頂きます」
 軍団長の許しを得てペコリと頭を下げ、こちらからフライリザードの肉片を受け取るとそれに齧りつく。
「ん、美味い!…なんはさ、はんりょくあっへ…はみほはえが、はるっへか…」
 弾力があって噛み応えがあると言いたいのだろうが、口いっぱいに頬張っているせいで言葉が上手く出ないようだ。
「…そうか、それは良かったな。喋らなくていいからよく噛んでゆっくり食え」
「……んー」
 その後も黙々と食べ続け、大人3人前ほどの肉を食べた弟は満足そうな笑顔を浮かべていた。
「はー、食った、食った。こんなに如何にも肉!みたいなの、久しぶり♪」
 自分が好きではないのであまり肉だけを食べるということはしないが、それほど好きならできるだけ譲歩しようか…とも考える。
「おまえ、意外と食うな?」
「ん、御馳走さま。美味しかったです」
 満腹になって柔和な表情が余計に緩んでいる弟の顔を眺めていた軍団長が何を思ったのか、
「シーザー、来い。オレの馬に乗せてやる」
「!」
突然そんなことを言い出すものだから、本人どころか周囲がまず驚いた。
「へ…、オレ?」
 少しの間の後、目を瞬かせた弟はやはり自分と軍団長を交互に見比べる。
「では我らも」
「少しは気を利かせろ」
 付き従おうとしたハルシュタット、ワルター両名を制して立ち上がると、馬の方へと大股ぎみに歩いて行った。どうしたらいいのかと、こちらを見つめている弟を
「何をしている、早く来い!」
そう呼び付ける。行って来い、と告げると弟は頷いて慌てて駆けていく。馬上から伸ばされた力強い腕に難なく引っ張り上げられ、軍団長の掛け声と共に馬が駆け出していく。

 さすがに名馬と言われるだけあって軍団長と自分を乗せていてもかなりの速度だ。そうしてしばらく走ったところで馬が止められた。
「シーザー」
 馬の体に必死で掴まっていたが、声をかけられて前方を見る。
「わぁ…っ!」
 前方には緑の山、更に後方には雪を被った山々が広がり、それらがずっと向こうまで続いている。
「すっげぇっ!こんなの、見たことがない」
 年齢の割に旅をしていると自負していたが、こんな迫力があって綺麗な光景を見たことはない。改めてハルモニアの国土の広さを知る。
「気に入ったか?」
 強く頷いて、改めて礼を言う。
「軍団長閣下、ありがとな!…オレがアルの弟じゃなかったら、連れてきて貰えることなんてなかったから、すっごく嬉しい」
 そう礼を言うと、彼は喜んで貰えたならいいと笑って言った。この人のことは嫌いじゃない。むしろ好きな方だと思う。アルの上官だし、何しろアルが信頼している人だから。だから言わなくてはならない。
「軍団長。オレ、アルベルトのことが好きなんだ。兄だからとか、そういうことは関係なくて、アルベルトのことを…愛している。…だから、あんたにも誰にも渡せない」
 すると軍団長はいつもの笑顔で
「わかっている。…オレもアルベルトのことは愛しいと思っている。大切な部下だし、できれば傍にいて欲しいとも思う。…だがおまえのことも嫌いではない。それに、おまえもこうして直に話してみれば可愛いと思うしな」
などと言いながら、軽くチュッと唇にキスをしてきた。オレは何が起こったのかわからずに目を瞬かせる。それって…。
「ならばいっそのこと二人でオレの下へ来ないか?双方とも可愛がってやる。不自由はさせない」
 ええええええっっ!!!!ちょっと、それはどうだろうっ!?

 美しい光景の中で、軍団長の雄々しい笑い声が木霊した。
8/8ページ
スキ