青楼・小話

小話5 『白雨』(トーラス×アルベルト)

※BL注意!

 夕方にそろそろ差しかかろうかという折に急に雨は降り出してきた。にわか雨だろうからしばらく待っていれば止むかと思われたそれは、2時間経っても全くその気配を見せなかった。
 こんな激しい雨だというのにそれを掻い潜るかのように、何故かあの…不快な音が耳に入ってくるのだ。僅かに開いた窓の傍でその音を聞き取りながら眉を顰めると、不意にパタンと窓を閉められた。
「……」
 視線を上げるといつの間にかやってきていた上司がこちらを見下ろしている。
「…軍団長?」
 何故窓を閉めたのかと不思議に思い問いかける。
「嫌いじゃなかったか、雨音…」
 言われた言葉に、いいえと緩く首を振る。
「ウソつけ。雨の日に外を歩くといつも沈んだ表情をしている」
 指摘されたそれの理由はすぐにわかった。
「雨も、雨の音も嫌いじゃないですよ」
 嫌いなのは、…それが流れて行く先の、排水溝の水音。だけどそのことを話そうともせずにそれが他人に伝わるはずもない。無論誰に言うつもりもないのだが。
 パチン、と襟の部分を外され、それ以上の進行を止めるように緩く彼の指を握る。彼はその手をそのまま口元へ持っていき、肉厚な唇を押し当てられた上に軽く食んだ。全く、困ったヒトだ。
「…ケジメのないヒトは嫌いだと…言いませんでしたか?」
「さあな。だが、オレのことは好きだろう?」
 ニヤリと口の端をやや歪めて言う。憎たらしい…。でも、嫌いにはなれない。
「トーラス…」
 ペロリと指先を舐める舌。驚いて思わず引こうとしたが、動かない。…本当に困ったヒトだ。
「帰りましょうか…」
 如何にも嬉しそうに笑む。だけど…。
「まだもう少しゆっくりしていけばいい」
 などと駄々を捏ねる。

「トー…ラスっ…」
 執務机の上に伏せたまま下肢だけを露出し、その背に圧し掛かるようにして背後から硬く熱い男根を穿たれている。
 外はまだ激しく雨が地面を打ちつけていて、当分の間は止みそうもない。
「…っぅ…は、ぁ…っ…」
 呆気なかった一度目の射精とは違い、二度目の逐情が訪れる気配はない。いや…その感覚を掴めたと思うと、彼に阻まれ焦らされる。
「まだだ。ゆっくり、楽しもうじゃないか…」
 苦笑まじりに言われて仕方なくこちらが腰を激しく振って誘う素振りを見せると、聞かん気の子供を窘めるように髪を撫で、両手でしっかりと腰を掴まれて制止される。おかげで酷く緩慢な快楽に苛まれ続けるといった最悪の事態に陥っていた。
「トーラス…頼むから…っ、もう…っ…」
 赦して、と堪らなくなって首を左右に振りながら懇願する。
「…堪らんな、おまえに必死で懇願されると」
 クックッと喉で笑われ、内心で舌を打った。だけど…。
「何もかもが愛しい」
 耳元で囁かれた言葉で全てが払拭される。
「愛しているよ、アルベルト」
 このヒトのこういうところが憎らしく、同時に愛しいと思えるのだ。
「トーラス…」
 何をされようと、彼にただ一言囁かれればもう自分はその時点で許してしまうのだ。
「…オレの全ては…あなたのものだ」
 オレ自身でさえ、それはオレのものではない。
「だから、好きにすればいい」
「…アルベルト」
「全部、持っていけ…」
 その後は、身も世もなく交わり合った。外の激しい雨音も気にならないくらい。ここが執務室だということも忘れて、誰かがやってくるかもしれないということも、皆どこかに消え去ってしまっていた。
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