青楼・小話

小話3 『ミックの懊悩』(ミックside)


 二日間も帰って来ないというシーザーを捜してまわった末、参謀に会った途端に『家にいる』と言われた時の脱力感。…まぁ、誘拐じゃなかっただけいいんだけどさ。
 それでも姿を見るまでは心配でその参謀の家とやらへ行くと、見知らぬ少女が出てきた。所作などはどこかの貴族の令嬢のようにも見えるその人は、参謀の使用人だという。自分の身分証明書を見せながら名乗るとすぐに家の中へ通してくれた上、出かけてくるので後を頼むとばかりに鍵を手渡して出かけてしまった。
 それはともかく、リビングやキッチンにシーザーの姿がないことを確認し、二階の寝室へと向かう。ドアを開けると寝室に半裸姿のシーザー。どうやら着替えている途中だったようだが、自分からしてみれば誘惑しているようにしか思えない。
 だがそんな煩悩を押し留めたのは、腕と言わず胴体と言わず巻かれた包帯姿。ツンと匂う湿布薬の匂い。包帯の隙間の皮膚から見え隠れしている鬱血のような痕。一体どうしたのか…なんてわかりきったことで…。
 シーザーをこんな目に遭わせた男のことを脳裏に思い浮かべる。だけどあんなにも大切にしていたシーザーにこんなことをするなんて、俄かには信じ難く…。それでも他に思い当る人物はいない。
 シーザーに問えば、少し困ったような顔をして、だけどいつもみたいにヘラヘラ笑うばかりで…。その上、問いつめれば違うのだと否定する。自分が望んだのだと。望んだ?こんな酷い扱いをすることを?
 …まさか。参謀を庇うために嘘をついているに決まっている。だっておまえ、痛いのとかきつかったり辛かったりするの、嫌いじゃないか。それとも参謀だから?参謀相手なら何でも許せるとでもいうのか?
 確かにあのヒトは完璧だ。だけど、こんな…たった一人の弟にこんなことをして、あんな風に平然としていられるなんて…。シーザーが望むのなら、何としてでもオレの手で守ってやるのに。…だけど、シーザーが望んでいるのは、オレじゃなく…あの、人でなしの…男なのだ。
 いつもどおり、なんでもないフリをするシーザー。その笑顔さえ鬱陶しく思えて、奪ってやろうかとも考えた。だけど…ギリギリのところで思い留まった。それではあの男と同じじゃないか。
 オレは、シーザーを失うのは嫌だ。手に入らないことはわかっているのだから、失ってしまうくらいなら…オレは、一生友達のままでいい。友達でいようと、3年前にそう決めたはず。そう。拳を握りしめて、歯を食いしばって…おまえの前で笑っていよう。オレが友達でいる限り、シーザーはいつだって笑い返してくれるのだから。
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