七英雄わちゃわちゃ
クジンシーの日に何故か彼を家出させる話を書きました。
ごめんね、クジンシー。
始まりは朝食後。
ワグナスとボクオーンが大量の小難しい書類と睨めっこをしていたから、手伝おうと声をかけた。
「時間の無駄ですから、結構です。うるさいので出ていって下さい」
ボクオーンはクジンシーの方を見もせずに、冷たくそう告げた。
すがるようにワグナスを見つめたが、彼は苦笑をするだけで何も言ってはくれなかった。
次に館の外に出たら、スービエとダンターグが槍を持って競り合っていた。実践形式の訓練だ。
仲間に入れてくれと頼んだら、二人とも渋い顔をした。
「俺は弱い奴とは戦わん」
「もう少し強くなったらな」
しっしと犬を追い払いように手を振られたから、退散するしかなかった。
森の中を歩いていたら、素振りをしているノエルと出会った。
一緒に稽古をしようと声を掛けたら、まずは素振り一万回と命じられた。そんなの無理だと反論したら、やる気がないならあっちに行けと返された。
「みんな冷たくないかっ? 七英雄の仲間なのに」
夕食の仕込みのために、ジャガイモの皮をむいているロックブーケに訴えたが、彼女は手元に視線を留めたままだ。
「そういうところですわ。自分の不満ばかりで手伝おうともしない。文句を言いたいなら、その辺の壁にでも向かってどうぞ」
クジンシーは厨房から追い出された。
外に出る。
空はどんよりと重く、灰色に沈んでいた。それはまるでクジンシーの心の色だった。
湿った風が前髪を揺らす。
仲間なのに、扱いがぞんざいすぎる。親しき中にも礼儀があるものだろう。みんなクジンシーのことを軽んじすぎではないだろうか。
「もう、知るもんか。家出してやるっ。俺も含めての七英雄なのに、俺がいなくなって後悔するなよっ」
そうしてクジンシーは家出をした。
七英雄が拠点にしている館を出て、森を進み、草原に出た。
振り返ると遠くに館の屋根が見える。
背を向けて、クジンシーはその場に膝を抱えて座った。
「俺だって役に立ってるのに」
素振り一万回は無茶振りだが稽古だってちゃんとこなしている。戦闘も、文字の読み書きも、料理だってできる。それなのに、誰も認めてくれない。
悶々としたままちらりと背後を振り返るが、森の木々が揺れているだけ。人の気配はない。
もう一度背を向けて、膝に顔を押し付けた。
家出をしたものの、誰かがクジンシーの不在に気付いて、探しに来てくれるのではないかと、淡い期待を抱いていた。
「俺、本当にいなくても良いって思われてるのかな……」
夕陽が傾き、空が橙色から、まるで心の底に沈んでいくような深い藍色へと染まっていく。
ついには辺りは真っ暗になり、ホーホーとフクロウの声が響く。
誰も迎えに来ない。
クジンシーはうなだれた。
ぐるぐると腹が鳴った。
クジンシーはため息をついて、立ち上がった。
「帰ろ」
しょんぼりとしながら、クジンシーは森の中へ戻っていった。
館に戻ると、食堂では七英雄がいつも通り食事をしていた。
クジンシーの気配に気付いていないわけはないのに、誰も振り返りもしない。
――俺って本当にいらない子なのかな。
肩を落としながら、いつもの席に向かう。テーブルの上には当たり前のように、今日の夕食が並んでいた。
動きを止めて、まじまじとそれを見つめていると、テーブルの横にロックブーケが立った。
「どこをほっつき歩いていたのよ。せっかくの料理が冷めてしまいましたわ」
唇を尖らせ、彼女はスープ皿を置いた。
白い湯気が立ち昇り、辺りの景色が揺らぐ。
席に座ってスープを啜った。喉を通るスープの温かさが、凍てついていた心にじんわりと沁み渡る。――これが、俺の居場所だ。そう感じた瞬間、視界がにじんだ。
垂れてきた鼻水を啜る。
「どうしたのですか、クジンシー?」
正面に座っていたボクオーンがギョッとしたように目を見開いていた。その声で、クジンシーの異変に気付いた他の仲間達がこちらを見て、顔を強張らせる。クジンシーの目からは、ほろほろと涙がこぼれていた。
「……何か悩みでもあるのか?」
ワグナスに問われ、クジンシーは首を振った。
「ご飯が美味しくて、感動してた」
訝しげに顔を見合わせる仲間達を見ないようにしながら、ガツガツと食事を口に運ぶ。
「私の肉も差し上げますよ」
「私のもあげますわ。食べて」
「じゃあ、俺の野菜もやるよ」
ボクオーン、ロックブーケ、ダンターグと次々と皿を出された。
嫌いなものを押し付けられたのかもしれない。それでも、こうして皿を差し出してくれるのが嬉しかった。クジンシーは素直にそれらを受け取り、静かに噛み締めた。
ごめんね、クジンシー。
クジンシーの家出
始まりは朝食後。
ワグナスとボクオーンが大量の小難しい書類と睨めっこをしていたから、手伝おうと声をかけた。
「時間の無駄ですから、結構です。うるさいので出ていって下さい」
ボクオーンはクジンシーの方を見もせずに、冷たくそう告げた。
すがるようにワグナスを見つめたが、彼は苦笑をするだけで何も言ってはくれなかった。
次に館の外に出たら、スービエとダンターグが槍を持って競り合っていた。実践形式の訓練だ。
仲間に入れてくれと頼んだら、二人とも渋い顔をした。
「俺は弱い奴とは戦わん」
「もう少し強くなったらな」
しっしと犬を追い払いように手を振られたから、退散するしかなかった。
森の中を歩いていたら、素振りをしているノエルと出会った。
一緒に稽古をしようと声を掛けたら、まずは素振り一万回と命じられた。そんなの無理だと反論したら、やる気がないならあっちに行けと返された。
「みんな冷たくないかっ? 七英雄の仲間なのに」
夕食の仕込みのために、ジャガイモの皮をむいているロックブーケに訴えたが、彼女は手元に視線を留めたままだ。
「そういうところですわ。自分の不満ばかりで手伝おうともしない。文句を言いたいなら、その辺の壁にでも向かってどうぞ」
クジンシーは厨房から追い出された。
外に出る。
空はどんよりと重く、灰色に沈んでいた。それはまるでクジンシーの心の色だった。
湿った風が前髪を揺らす。
仲間なのに、扱いがぞんざいすぎる。親しき中にも礼儀があるものだろう。みんなクジンシーのことを軽んじすぎではないだろうか。
「もう、知るもんか。家出してやるっ。俺も含めての七英雄なのに、俺がいなくなって後悔するなよっ」
そうしてクジンシーは家出をした。
七英雄が拠点にしている館を出て、森を進み、草原に出た。
振り返ると遠くに館の屋根が見える。
背を向けて、クジンシーはその場に膝を抱えて座った。
「俺だって役に立ってるのに」
素振り一万回は無茶振りだが稽古だってちゃんとこなしている。戦闘も、文字の読み書きも、料理だってできる。それなのに、誰も認めてくれない。
悶々としたままちらりと背後を振り返るが、森の木々が揺れているだけ。人の気配はない。
もう一度背を向けて、膝に顔を押し付けた。
家出をしたものの、誰かがクジンシーの不在に気付いて、探しに来てくれるのではないかと、淡い期待を抱いていた。
「俺、本当にいなくても良いって思われてるのかな……」
夕陽が傾き、空が橙色から、まるで心の底に沈んでいくような深い藍色へと染まっていく。
ついには辺りは真っ暗になり、ホーホーとフクロウの声が響く。
誰も迎えに来ない。
クジンシーはうなだれた。
ぐるぐると腹が鳴った。
クジンシーはため息をついて、立ち上がった。
「帰ろ」
しょんぼりとしながら、クジンシーは森の中へ戻っていった。
館に戻ると、食堂では七英雄がいつも通り食事をしていた。
クジンシーの気配に気付いていないわけはないのに、誰も振り返りもしない。
――俺って本当にいらない子なのかな。
肩を落としながら、いつもの席に向かう。テーブルの上には当たり前のように、今日の夕食が並んでいた。
動きを止めて、まじまじとそれを見つめていると、テーブルの横にロックブーケが立った。
「どこをほっつき歩いていたのよ。せっかくの料理が冷めてしまいましたわ」
唇を尖らせ、彼女はスープ皿を置いた。
白い湯気が立ち昇り、辺りの景色が揺らぐ。
席に座ってスープを啜った。喉を通るスープの温かさが、凍てついていた心にじんわりと沁み渡る。――これが、俺の居場所だ。そう感じた瞬間、視界がにじんだ。
垂れてきた鼻水を啜る。
「どうしたのですか、クジンシー?」
正面に座っていたボクオーンがギョッとしたように目を見開いていた。その声で、クジンシーの異変に気付いた他の仲間達がこちらを見て、顔を強張らせる。クジンシーの目からは、ほろほろと涙がこぼれていた。
「……何か悩みでもあるのか?」
ワグナスに問われ、クジンシーは首を振った。
「ご飯が美味しくて、感動してた」
訝しげに顔を見合わせる仲間達を見ないようにしながら、ガツガツと食事を口に運ぶ。
「私の肉も差し上げますよ」
「私のもあげますわ。食べて」
「じゃあ、俺の野菜もやるよ」
ボクオーン、ロックブーケ、ダンターグと次々と皿を出された。
嫌いなものを押し付けられたのかもしれない。それでも、こうして皿を差し出してくれるのが嬉しかった。クジンシーは素直にそれらを受け取り、静かに噛み締めた。