七英雄わちゃわちゃ

七英雄(スービエとダンターグを除く)が大人げなくはぱ抜きをしている話


「よぉーし、上がりだっ!」
 意気揚々としたクジンシーの声が部屋の中に響いた。それと同時に彼は手にしていた二枚のカードをテーブル上に叩きつけた。
 カードはクローバーの三とハートの三。問題はないな、とボクオーンは頬杖をつきながら場に捨てられたカードを眺めていた。
「どうだ、ロックブーケっ。俺だって凄いだろっ」
 クジンシーが満面の笑みを浮かべて話しかけるも、
「一抜けでもないくせにいきがらないで。あと、集中しているから黙って、うるさい」
 ロックブーケからは不機嫌を隠そうともしない言葉が返ってきて、ガックリと項垂れていた。それを横目で眺めていたボクオーンは、毎回よくも飽きないでやるものだとため息をついた。
 ちなみに一抜けしたのはボクオーンだ。五連勝中である。
 次はワグナスの手番だ。彼の手札は五枚。ノエルの手札から一枚のカードを選んで引いて、カードに描かれている数字が自分の手札の中のカードと一致すれば、それらをペアにして場に捨てればいい。そうして手札がなくなれば上がりのゲームだ。しかしこのゲームの中にはペアがいない、一枚だけが存在しているジョーカーというカードがある。それを最後まで所持していた者が負けとなるのだ。
 これはトランプという名のカードを使ったばば抜きという名のゲームであり、最近の七英雄たちの暇つぶしとして重宝されている。
 と、いうのも、現在は雨季なのか、大雨で野外での調査が捗らない日々が続いていた。仕方がないので文献の調査に勤しんでいるが、頭を使う作業は疲れるので、息抜きとしてこのカードゲームを行っている。なお、水を浴びるとテンションが上がるスービエと、文献調査をしたくないダンターグは外に出ていったため、本日は殘りの五人で調査の合間の遊戯に耽っていた。
 ワグナスが引いたカードの数字は、彼の手持ちとは一致しなかったのだろう。次はノエルの順となる。ノエルがロックブーケの手札からカードを引くが、彼もペアはなかったようだ。――残り三人なのに二人連続でペアが出ないのは、引きが悪すぎでは……? とボクオーンは苦笑を浮かべた。
 ロックブーケはワグナスが先ほど引いたカードを引き抜き、ペアになったカードを場に捨てる。
 何故手札のカードをシャッフルしていないんだ、ワグナスよ、とボクオーンは内心ダメ出しをしていた。強くなられても困るので指摘はしないが。
 ワグナスとノエルの眉間に皺が寄る。対するロックブーケの口元には笑みが。
 ロックブーケの手札の残りは一枚。ノエルの手番でその一枚を引き抜いて、彼女も上がりである。
「やりましたわー!」
 両手を上げて満面の笑みを浮かべる。
「ロックブーケ。おめでとうっ!」
 クジンシーが両手を掲げてロックブーケへと向かい合えば、にこにこ顔のロックブーケがぱぁんと音を立ててハイタッチをして「やったー」なんて言いながら勝利を称え合っている。――お前ら、仲良いな。
 かくして、七英雄のリーダーとサブリーダーの一騎討ちが始まった。
 心情を悟らせぬように顔から表情が消える。しかし瞳の奥には静かに燃える炎を湛えて、心と視線の僅かな変化も見逃すまいと相手を見据える。ひりついた空気にロックブーケとクジンシーは固唾を飲んでいた。
 手札を引く指先に力が入る。ワグナスが引いたカードはジョーカーだ。ワグナスの端正な顔が微かに歪む。
 ――たかが遊戯に真剣になりすぎだ、その指先からうっかり炎や衝撃波を出すなよ、とボクオーンは内心突っ込んでいた。ひとりではツッコミが間に合わない、こういう時のスービエだろうはやく帰ってこいと、実況と解説ができる男の帰還を願った。
「ああ。ワグナス様、おいたわしい。でも、私にはお兄様とワグナス様のどちらかを応援することなんてできませんわっ」
「だったら静かに見てなさい」
 じろりと睨まれ、ボクオーンは袖で口元をそっと隠した。悲劇のヒロインムーブが煩わしくて、内心がうっかり口から漏れてしまったようだ。失敗失敗。
 ワグナスはシャッフルした手札をノエルに向けて掲げる。そうしてノエルが引いたカードは、またもやジョーカー。ノエルの目が驚愕に見開かれる。
 長い戦いになりそうだ。ボクオーンは茶器に手を伸ばして三人分のお茶を準備する。
 これまでの四戦全てでこの二人が最後に残り、そして接戦の末に二勝二敗となっている。この勝負に負けた方が負け越しなので熱も入るのだろう。
 残りの手札は僅かだというのに、場に捨てられるカードがなかなか現れない。ジョーカーばかりが行ったり来たりしている。二人とも高潔で徳が高い人物だと思うのだが、運は味方してくれないようだ。
 ジョーカーを相手に引かせるためにカードの位置を調整するなどの小細工はしているが、全く効果はないようだった。いや、逆か。全てに引っかかるからジョーカーばかりを手中に収めるのか。
 それらを見つめるボクオーンは呆れた心地で強く思った。カードをそれだけ凝視しているならば、そろそろ気付いて欲しい。ジョーカーのカードの中央付近に存在している小さな傷に……。
 最初こそは緊迫した空気につられて見守っていたロックブーケ達も、ボクオーンが淹れたお茶と茶請けを楽しみ始めた。
 ボクオーン達がお茶を飲み干した頃になりようやく、場に捨てられていないカードの枚数が三枚になった。終わりが見えたようだ。
 ワグナスが持つ二枚のカードへ鋭い視線を向け、ノエルが手を伸ばした。その指が掴んだカードはスペードのA。これでようやく終わるとボクオーンが胸を撫で下ろしたが、ノエルの動きが止まってしまった。
 何が起こったのだと観客たちが見守る中、ノエルとワグナスの右手が小気味に震え出した。ワグナスがカードを強く摘んで、ノエルが引いていくのを妨害しているようだった。ボクオーンは頭を抱え、ロックブーケは「こんなワグナス様見たくなかったっ」と呟きながら両手で顔を覆った。クジンシーはドン引きしている。
「大人げないぞ、ワグナス!」
 ――そこでムキになるノエル、お前もな。とボクオーンは胸中で独りごちる。
「ふっ。何のことかな。それよりも、もう一枚を引いた方がいいと思うぞ」
「いえ、往生際が悪いです、ワグナス殿。諦めてください」
 第三者から叱られて、ワグナスはガックリと頭を垂れながらカードを持つ手から力を抜いた。
 勝負は決まった。
 ノエルは口元に笑みを浮かべて拳を握ってガッツポーズを作り、ワグナスはテーブルに突っ伏している。
 何故だろうか。勝敗以前に、この戦いで失ったものが多いような気がしてならない。ほら、ロックブーケも顔を覆ったままぶつぶつと何かを呟き続けて、クジンシーが励ましの言葉をかけているほどだ。
 ボクオーンは長いため息をつき、今度は全員分のお茶を準備し始めたのだった。
3/11ページ
スキ