七英雄わちゃわちゃ
七英雄のハロウィンの話。
苦労人ボジションのボクオーンと、愉快な七英雄の仲間達。
キャラ崩壊注意。
「トリックオアトリート!」
ご機嫌な三つの声が奏でるハーモニーと共に、扉が勢いよく開かれた。
ビクッと反射的に体が揺れ、ペンの先からインクが滴り落ちて紙にシミを作る。
机に向かって書き物をしていたボクオーンは、うっすらと隈が浮いた目元を細めて舌打ちをした。
扉の前に立っていたのは二人。そしてその後ろに一人。
前に立つのは黒地のローブと花を飾ったウィッチハットを身につけたロックブーケと半袖半ズボンの姿で狼耳をつけたクジンシーだ。魔女と狼男に扮した彼らは、カボチャに顔を描いたバケツを手にしていた。
「他人の部屋に入るときはちゃんとノックをして、返事を待ってからにしてくれませんか?」
ダイヤモンドダストもかくやというほどの冷ややかな声で告げたが、怯んだのはクジンシーだけ。ロックブーケはニコリと笑って反論してくる。
「今日はハロウィンですから、無礼講なのですわ。お菓子をくれなきゃいたずらしますわよー」
彼女は先端にハートがついたステッキを振りながら、可愛らしくウインクをした。だがボクオーンには彼女のテンプテーションなど効かないので、渋い顔を作ってやった。
「素直に菓子を寄こせよ」
その後ろで保護者面をしているのはスービエだ。黒地のスキニーパンツに上半身は裸で艶かしい筋肉を惜しみなく晒している。その裸体の上から適当に包帯を巻いているのはミイラ男のつもりなのか。
「スービエはその格好で街に行けば、女性から持ちきれないほどのお菓子をもらえるのではないですか?」
とっとと帰れの気持ちを込めて告げたと言うのに、スービエは首を傾げて腕を組んでみせた。
「そうでもない。なぜか皆、悪戯をされたがる」
その理由を分かっているのか、いないのか。深刻な顔で告げるスービエに、思わず頬が引き攣った。「リア充爆発しろ」と呪詛のようにクジンシーが呟いているので、「ぶん殴っていいぞ」とボクオーンは密かに思った。
「なぜ私のところに来るのですか。このようなイベントは、ワグナス殿のところへ行けば良いでしょう」
彼なら快くお菓子をくれるだろう。むしろ、この日のために準備をしているかもしれない。
「だってお前、うまそうな菓子を溜め込んでそうじゃん」
「……毒を混ぜるぞ」
ロックブーケとクジンシーは青ざめるが、スービエは涼しい顔をしていた。
「トリックオアトリート」
新たな声が聞こえた。
スービエの隣に現れたのは青いジャケットを羽織り、頭にねじの飾りをつけたノエルだった。フランケンシュタインだろうか。
苛つきながらボクオーンはジロリと剣呑な眼差しをノエルにぶつけた。
「ノエル殿、少し浮ついているのではありませんか。本来であればあなたは風紀を守る側の立場ですよね? 今は職務時間中のはずですが、赤竜隊の隊長ともあろうお方がこのような戯れに興じている暇などありますか? 仕事が足りないのであれば、私が引き取った事務処理を返しますが?」
「む……いや、その」
ちくちくと口撃をすると、ノエルは「あー」とか「うー」とか唸り始めた。他の連中とは異なり一般常識があるノエルなので、このまま皆を引き連れて退散してほしい。
ロックブーケとスービエが「ネチネチ言うなー」と文句を言っているが無視をしていると、その背後にワグナスが現れた。彼は白い襟付きのシャツの上に黒いマントを羽織った吸血鬼の格好をしている。
リーダーまで何をやっているんだと、ボクオーンは頭を抱えた。
「皆、楽しそうだな。今日のハロウィンパーティの会場はボクオーンの部屋で間違いがなかったか? 差し入れのお菓子をたくさん持ってきたぞ」
ワグナスは優しく微笑みながら告げて、クジンシーに大きなカゴを渡した。若者二人が手を上げて喜ぶ。
ノエルが安堵に息を吐いたのが見えた。
――おい誰だ、人の部屋を会場に設定して皆に広めたのは。
スービエに剣呑な眼差しを向けるが、彼はこちらに背を向けてワグナスと話をしている。
「ボクオーンには珍しい茶葉が手に入ったので、手土産に」
可愛らしくラッピングされた品物を差し出され、ボクオーンはニコニコと笑顔を振り撒くワグナスを見上げた。
見つめ合うことしばし。
ボクオーンは観念したように息を吐いて、贈り物を受け取った。
「分かりました。お茶とお茶請けの準備をするので、中へ」
そう言って部屋の中に招こうとすると、最初に部屋を訪れた三人が口々に不満を漏らす。
「おい、ワグナスには甘くねぇか?」
「そうだそうだー」
「贔屓ですわー」
ピキリとこめかみに青筋が浮かぶのが自分でも分かった。
お前達はこの部屋で菓子を食べたいのか、食べたくないのか、どっちなんだ。そもそも、リーダーであるワグナスとその他のお前達を同列に扱うわけがないだろう。ついでに言えば、ワグナスのコスプレが一番出来がいいぞ、特に包帯を巻いているだけのやつ。などなど。心の中で悪態をついた。
その時、扉の前に立つクジンシーに影が落ちた。
皆が振り向くと、そこに立つのはダンターグであった。いつもの服ではあるが、頭から赤い血を垂らしている。なかなかリアルな血糊だと感心をして見上げた。
「ゾンビの格好か?」
「とても迫力がありますわね」
年少組が目を輝かせながら賞賛していると、ダンターグの体がぐらりと揺れ、その場に倒れた。下敷きになったクジンシーから悲鳴が上がる。
一同が呆然とする中で、いち早く我に返ったノエルが慌ててダンターグに駆け寄った。
「早く回復を」
「重いー! 早くどかしてー」
「クジンシー、黙ってなさい!」
ワグナスとロックブーケが動き、回復の術をかける。ボクオーンは怪我の具合の確認を。ノエルとスービエはダンターグの体を持ち上げて、ひっくり返して横たえた。
「ダンターグ、敵襲ですか? あなたにこんな重傷を負わせた魔物はどこです? 答えてから気を失ってください」
「……敵は仕留めた。問題はねぇ。……ただ」
息も絶え絶えに、掠れる声で必死で言葉を紡いでいくダンターグの声に、ボクオーンは必死で耳を傾けた。
「滴り落ちる血液のリアリティを求めて、魔物に頭を噛ませたら……ぐあっ」
話の途中でボクオーンは勢いよく拳をダンターグの鳩尾に叩き込んだ。鋼のような筋肉に阻まれているので、ボクオーンの細腕ではさしたるダメージは与えられないだろう。
だと言うのに、ひどいだの人殺しだの罵声を浴びせられ、ついにボクオーンは切れた。
「静かにしろ!」
珍しいボクオーンの怒鳴り声が、兵舎の外まで響いた。
苦労人ボジションのボクオーンと、愉快な七英雄の仲間達。
キャラ崩壊注意。
ハロウィン
「トリックオアトリート!」
ご機嫌な三つの声が奏でるハーモニーと共に、扉が勢いよく開かれた。
ビクッと反射的に体が揺れ、ペンの先からインクが滴り落ちて紙にシミを作る。
机に向かって書き物をしていたボクオーンは、うっすらと隈が浮いた目元を細めて舌打ちをした。
扉の前に立っていたのは二人。そしてその後ろに一人。
前に立つのは黒地のローブと花を飾ったウィッチハットを身につけたロックブーケと半袖半ズボンの姿で狼耳をつけたクジンシーだ。魔女と狼男に扮した彼らは、カボチャに顔を描いたバケツを手にしていた。
「他人の部屋に入るときはちゃんとノックをして、返事を待ってからにしてくれませんか?」
ダイヤモンドダストもかくやというほどの冷ややかな声で告げたが、怯んだのはクジンシーだけ。ロックブーケはニコリと笑って反論してくる。
「今日はハロウィンですから、無礼講なのですわ。お菓子をくれなきゃいたずらしますわよー」
彼女は先端にハートがついたステッキを振りながら、可愛らしくウインクをした。だがボクオーンには彼女のテンプテーションなど効かないので、渋い顔を作ってやった。
「素直に菓子を寄こせよ」
その後ろで保護者面をしているのはスービエだ。黒地のスキニーパンツに上半身は裸で艶かしい筋肉を惜しみなく晒している。その裸体の上から適当に包帯を巻いているのはミイラ男のつもりなのか。
「スービエはその格好で街に行けば、女性から持ちきれないほどのお菓子をもらえるのではないですか?」
とっとと帰れの気持ちを込めて告げたと言うのに、スービエは首を傾げて腕を組んでみせた。
「そうでもない。なぜか皆、悪戯をされたがる」
その理由を分かっているのか、いないのか。深刻な顔で告げるスービエに、思わず頬が引き攣った。「リア充爆発しろ」と呪詛のようにクジンシーが呟いているので、「ぶん殴っていいぞ」とボクオーンは密かに思った。
「なぜ私のところに来るのですか。このようなイベントは、ワグナス殿のところへ行けば良いでしょう」
彼なら快くお菓子をくれるだろう。むしろ、この日のために準備をしているかもしれない。
「だってお前、うまそうな菓子を溜め込んでそうじゃん」
「……毒を混ぜるぞ」
ロックブーケとクジンシーは青ざめるが、スービエは涼しい顔をしていた。
「トリックオアトリート」
新たな声が聞こえた。
スービエの隣に現れたのは青いジャケットを羽織り、頭にねじの飾りをつけたノエルだった。フランケンシュタインだろうか。
苛つきながらボクオーンはジロリと剣呑な眼差しをノエルにぶつけた。
「ノエル殿、少し浮ついているのではありませんか。本来であればあなたは風紀を守る側の立場ですよね? 今は職務時間中のはずですが、赤竜隊の隊長ともあろうお方がこのような戯れに興じている暇などありますか? 仕事が足りないのであれば、私が引き取った事務処理を返しますが?」
「む……いや、その」
ちくちくと口撃をすると、ノエルは「あー」とか「うー」とか唸り始めた。他の連中とは異なり一般常識があるノエルなので、このまま皆を引き連れて退散してほしい。
ロックブーケとスービエが「ネチネチ言うなー」と文句を言っているが無視をしていると、その背後にワグナスが現れた。彼は白い襟付きのシャツの上に黒いマントを羽織った吸血鬼の格好をしている。
リーダーまで何をやっているんだと、ボクオーンは頭を抱えた。
「皆、楽しそうだな。今日のハロウィンパーティの会場はボクオーンの部屋で間違いがなかったか? 差し入れのお菓子をたくさん持ってきたぞ」
ワグナスは優しく微笑みながら告げて、クジンシーに大きなカゴを渡した。若者二人が手を上げて喜ぶ。
ノエルが安堵に息を吐いたのが見えた。
――おい誰だ、人の部屋を会場に設定して皆に広めたのは。
スービエに剣呑な眼差しを向けるが、彼はこちらに背を向けてワグナスと話をしている。
「ボクオーンには珍しい茶葉が手に入ったので、手土産に」
可愛らしくラッピングされた品物を差し出され、ボクオーンはニコニコと笑顔を振り撒くワグナスを見上げた。
見つめ合うことしばし。
ボクオーンは観念したように息を吐いて、贈り物を受け取った。
「分かりました。お茶とお茶請けの準備をするので、中へ」
そう言って部屋の中に招こうとすると、最初に部屋を訪れた三人が口々に不満を漏らす。
「おい、ワグナスには甘くねぇか?」
「そうだそうだー」
「贔屓ですわー」
ピキリとこめかみに青筋が浮かぶのが自分でも分かった。
お前達はこの部屋で菓子を食べたいのか、食べたくないのか、どっちなんだ。そもそも、リーダーであるワグナスとその他のお前達を同列に扱うわけがないだろう。ついでに言えば、ワグナスのコスプレが一番出来がいいぞ、特に包帯を巻いているだけのやつ。などなど。心の中で悪態をついた。
その時、扉の前に立つクジンシーに影が落ちた。
皆が振り向くと、そこに立つのはダンターグであった。いつもの服ではあるが、頭から赤い血を垂らしている。なかなかリアルな血糊だと感心をして見上げた。
「ゾンビの格好か?」
「とても迫力がありますわね」
年少組が目を輝かせながら賞賛していると、ダンターグの体がぐらりと揺れ、その場に倒れた。下敷きになったクジンシーから悲鳴が上がる。
一同が呆然とする中で、いち早く我に返ったノエルが慌ててダンターグに駆け寄った。
「早く回復を」
「重いー! 早くどかしてー」
「クジンシー、黙ってなさい!」
ワグナスとロックブーケが動き、回復の術をかける。ボクオーンは怪我の具合の確認を。ノエルとスービエはダンターグの体を持ち上げて、ひっくり返して横たえた。
「ダンターグ、敵襲ですか? あなたにこんな重傷を負わせた魔物はどこです? 答えてから気を失ってください」
「……敵は仕留めた。問題はねぇ。……ただ」
息も絶え絶えに、掠れる声で必死で言葉を紡いでいくダンターグの声に、ボクオーンは必死で耳を傾けた。
「滴り落ちる血液のリアリティを求めて、魔物に頭を噛ませたら……ぐあっ」
話の途中でボクオーンは勢いよく拳をダンターグの鳩尾に叩き込んだ。鋼のような筋肉に阻まれているので、ボクオーンの細腕ではさしたるダメージは与えられないだろう。
だと言うのに、ひどいだの人殺しだの罵声を浴びせられ、ついにボクオーンは切れた。
「静かにしろ!」
珍しいボクオーンの怒鳴り声が、兵舎の外まで響いた。