ワグボクで学パロ!
お膳立てした恋路は多難
校庭から生徒達の歓声が聞こえてくる。
窓が閉められた生徒会室には熱がこもり、応援合戦のために学ランを着込んだ体は汗まみれになっていた。
ドン、と低い音が響く。
背中を壁に当てられたスービエは顔を顰めた。
間近に迫ったワグナスの目元が剣呑に細められている。どうやら彼は怒っているらしかった。
そのワグナスに胸ぐらをつかまれて、スービエは降参するように両手を上げた。
「ボクオーンと両思いでよかったじゃないか」
「何が両思いだっ。お前がそうなるように仕向けたのだろう」
「そうだったか?」
すっとぼけて口元に軽薄な笑みを浮かべると、ワグナスの眉が吊り上がった。
ワグナスが胸ぐらを締め上げる手に力が籠る。
「お前がボクオーンのことが好きだってピーピー泣くから、一肌脱いでやっただけじゃん」
「そんなことを言った覚えはないぞっ」
ぐいぐいと首元を締め付けられて流石に苦しくなってきた。ワグナスの腕を掴んで捻り上げ、ついでに膝の裏を蹴ってやる。膝を折られて体勢を崩したワグナスにヘッドロックをかけながら、スービエはワグナスから相談を受けたあの日を思い返した。
あれは数日前。
ワグナスは近場のファストフード店にスービエとノエルを呼び出した。そこで相談されたのは、恋とはどのような感情なのだろうかと、哲学というか詩的というか、なんとも答えにくい内容だった。
よくよく話を聞いてみれば、最近ボクオーンのことが気になるのだが、これは恋なのか判断がつかないというもので――
酔ってもいないのにテーブルに突っ伏して、彼への想いをつらつらと語るワグナスの姿を思い出した。
うん、やはり間違っていないな。そう回想をしていたスービエの意識が遠くに飛んだ隙に、ワグナスは首をホールドしていた腕の隙間に自らの腕を差し込んで、脱出をした。そして身を捻って力づくで引き剥がそうとする。
距離が開くと背丈で劣るぶん不利になるからと、スービエはそれに抵抗をするように力を込めた。
その、瞬間――。
かちゃりと扉が開く甲高い小さな音が部屋に響いた。
二人は同時に扉を見た。
そこに立っていたボクオーンは驚愕に目を見開いて、固まっていた。
「お、お前ら、なに抱き合ってるんだよっ」
クジンシーの悲鳴が木霊する。
なるほど。こちらとしては取っ組み合いのつもりだが、抱き合っているようにも見えるかもしれない。
それきり音が消えた。
時間が止まったように、皆が静止して互いを見つめている。
パァンと、校庭から聞こえたピストルの破裂音に静寂が打ち破られた。
「……浮気現場を押さえたので、この交際は無かったことにしましょう」
硬いボクオーンの声が響き、彼が踵を返す。俯き加減で流れた髪が表情を隠し、彼の心情は図ることはできない。
「あ……」
ワグナスの口からか細い声が漏れた。ワグナスは焦っているのだろう、灰色の瞳が見開かれて、右手が宙を彷徨う。
「お前ら、最低だなっ!」
罵る言葉を言い捨てて、クジンシーがボクオーンを追いかけていった。
盛大に勘違いをされたようだ。スービエは痛くも痒くもないが、傍のワグナスの顔面は蒼白である。頭が真っ白になり、足が動かないのだろう。その場に立ち尽くしたままだ。
はぁ、とスービエはわざとらしくため息をつき、ワグナスの背中を蹴飛ばしてやった。
「良いから追いかけてこいっ!」
よろけながら前進したワグナスが恨みがましい視線を向けるが、何も言わずに駆け出した。
開きっぱなしの扉を見つめて、スービエはため息をついた。
せっかくお膳立てをしてやったのに、前途はなかなかに多難なようだ。
スービエは腕を頭の後ろで組みながら口元を緩めて、次の演目の準備のために廊下へ出ていった。