ワグボクで学パロ!
途方に暮れる策略家
借り物競走が終わりボクオーンが応援席に戻ってきた。
普段は思考に忙しそうな頭が停止しているようだった。今は真っ白になった顔をしている。
クジンシーはチームメイトからの祝福を受けている彼の腕を引いて、後ろの座席に連れ出した。
作戦会議と告げれば、邪魔をするものはいない。
それっぽく見せるためにエントリー表を開き、一緒に覗き込みながらクジンシーはそっと尋ねた。
「お前、どうすんの?」
クジンシーはボクオーンともワグナスとも長い付き合いだが、彼らが思いを寄せあっていた気配など感じたことはない。それより何より、あのボクオーンのコメントはどう考えても一位に釣られての発言だ。
「どうすれば良いのでしょうか?」
ボクオーンは途方に暮れたように呟き、椅子の背もたれを抱きながら項垂れた。
――あ、これ。珍しく凹んでる。
クジンシーは口元を引き攣らせた。
「なんで、よりによってガチっぽいワグナスに行っちゃったんだよ。俺とかスービエあたりだったら笑い話で流せたのに……」
「何故って……一位を取るためには悩んでいる暇はなかったからですよ。一番最初に思い浮かんだのがワグナスの顔だったので」
「えぇ⁉︎」
クジンシーのひっくり返った悲鳴が辺りに響く。
チームメイト達の視線がこちらを向くが、ボクオーンの怒りに触れることを恐れて誰も話しかけてこなかった。
クジンシーのこめかみから、一筋の汗が流れる。
恋の気配に胸が高鳴り、そわそわと落ち着かない気持ちになった。
「ボクオーン、ちょっと待て。それって……」
指摘しようと口を開いたその声は、上がった歓声にかき消された。
ついつい視線が引き寄せられる。校庭では綱引きが行われていたらしく、ダンターグが右腕を上げて咆哮を上げていた。綱引きで優勝をしたようだ。
そっと息を吐いて、改めてボクオーンを見つめる。
彼は震える指先でエントリー表を握り締め、鋭い金色の瞳でじっとクジンシーを見据えていた。今までの惚けた表情ではない。勝負師の顔をしている。
「わかりました、クジンシー」
「え、自覚したの?」
「これは、スービエの策です」
「えー……」
ボクオーンとワグナスが付き合う流れは、彼の意図が絡んでいるのは確実だ。だが、スービエは無意味にこんなことをする人間ではない。ボクオーンの気持ちに気付いていたのではないか。
「私の動揺を誘っているのでしょう。彼のチームは三位につけています。私の指揮が乱れれば、彼のチームが浮上をするチャンスになります」
ボクオーンは真顔で告げる。
スービエはそんな面倒なことを考えていないだろう。
だがこの二人の間では、スービエの奔放さをボクオーンが深読みしたすれ違いが発生しがちなことを、クジンシーは知っていた。
「こんなことに時間を取られるわけにはいきません。私は皆に次の競技の指示を与えてきます。あ、あなたはどうすれば私とワグナスが穏便に別れることができるかを考えてください。お願いします」
そう言い残してボクオーンはチームメイトたちの輪に戻っていった。
一人残されたクジンシーは眉間に皺を寄せた。
素直にワグナスに別れを言えば良いだけな気がする。だが、本当に二人を別れさせてしまって良いのだろうか。だってボクオーンは好きな人で一番最初にワグナスを思い描くくらいには彼のことが好きなのに――
いつもの知的な顔で皆と話すボクオーンの横顔を見つめる。せっかく芽生えた恋心は大切にしてほしいと、友人としては思うのだ。
「えー、どうしよう……」
重責に押しつぶされそうで、クジンシーは涙を浮かべながらため息をついた。